家電量販店やネットショップなどで、よく目にする「オープン価格」。この「オープン価格」とは小売店が自由に設定する販売価格のことです。この形態の場合、メーカーは卸値のみを設定し、小売店に対して売値を希望することはありません。
「オープン価格」の言葉の意味がわかると、次に以下のような疑問も湧いてくるのではないでしょうか。
- 「オープン価格」と「定価」や「希望小売価格」との違い
- なぜ「オープン価格」を設定するのか
- そもそもどのように価格は決めているのか
- 「オープン価格」を設定するメリットとデメリット
この記事では、みなさんが感じている「オープン価格」の疑問をわかりやすく解説します。
オープン価格と他の表示価格との違いとは?
オープン価格とは小売店が自由に設定する販売価格を指します。小売店は市場の動向を考慮しつつ、仕入れ値に利益やコストを加えた値段で価格設定します。
では、「定価」や「希望小売価格」とは何が違うのでしょうか?
オープン価格と定価の違い
定価とは、メーカーが設定した販売価格であり、オープン価格とは価格決定できる主体が異なります。
小売店が自由に価格設定ができるオープン価格と違い、定価には拘束力があり、小売店はメーカーが設定した価格で商品を売らなければいけません。
しかし、メーカーが小売店に対し一方的に売値を決めてしまうと、市場における自由な価格競争の妨げになります。そのため定価を用いた取引形態は、「独占禁止法の再販制度(再販売価格維持制度)」によって一部の商品(タバコ・新聞・書籍・CD)に限定されています。
オープン価格と希望小売価格の違い
希望小売価格とは、メーカーが小売店に対して提示した販売参考小売価格のことです。定価と違い希望小売価格には拘束力がないため、店頭での販売価格は小売店が自由に設定できます(この点はオープン価格と同様です)。
オープン価格と異なる点は、※掛け率交渉の有無です。掛け率の交渉ができないオープン価格に対して、希望小売価格は掛け率の交渉をすることができます。この点は、「オープン価格を設定するデメリット」の中で詳しく解説します。
※掛け率とは
上代(販売価格)に対する下代(仕入れ価格)の割合のことです。例えば、販売価格1,000円の商品の場合、
・掛け率60%(6掛け)で、利益=400円
・掛け率が70%(7掛け)に上がると、利益=300円 となります
上代(販売価格) ¥1,000 | |
(下代=上代×掛け率) ¥600 | (利益=上代−下代) ¥400 |
上代(販売価格) ¥1,000 | |
(下代=上代×掛け率) ¥700 | (利益=上代−下代) ¥300 |
一般的に、利益を生みだすため小売店側はなるべく掛け率を下げたいという意図がある一方で、メーカー側は原材料の高騰などの理由から、掛け率を上げさせて欲しいと小売店に持ちかけることもあります。掛け率は相場によってある程度決められていますが、メーカーと小売の交渉によって定められるものです。
オープン価格普及の背景と要因
オープン価格は1980年代に普及し始め、1990年代に急速に拡大しました。オープン価格普及の背景には、小売店が希望小売価格から割引した表示価格で販売するようになった、いわゆる二重価格問題があります。
そこで、背景を理解しやすくするために、先ずは二重価格問題に深く関係している希望小売価格について、詳しく解説していきます。
希望小売価格とは
前述した通り、希望小売価格とは、メーカーが小売店に対して提示した販売参考小売価格のことです。
昔の名残で、今でも「希望小売価格」の意味で「定価」という言葉を使う方や、「定価」と「希望高価格」を混同している方も多くいらっしゃいますが、しかし、定価と希望小売価格は全く意味が異なります。
希望小売価格と定価の違いは、販売価格を決めているのは誰なのかを軸に考えると、とても分かりやすくなります。
- 定価の場合、販売価格はメーカーが決める(定価 = 販売価格)
- 希望小売価格の場合、販売価格は小売店が決める(希望小売価格 ≠ 販売価格)
1メーカーが「この価格で販売してください」や「値引きをしないでください」と小売店に指示ができないため、1980年頃には、一部の商品を除き希望小売価格での取引が主流になっていました。
二重価格問題とは
1980年代にはいると、価格競争が激しくなった結果、値引き幅を大きく見せるため希望小売価格を意図して高く表記する表示が増え、希望小売価格が悪用されてしまうケースが出てきました。
この商品を安く売っているように見せるために、販売価格と別の価格を併記することを二重価格表記と言います。
例えば、家電製品が「希望小売価格から◯◯%引きの◯◯円!」と表記されていると、多くの消費者は「お得に購入できる」と感じるはずです。このような状況だと、消費者は「この商品の価値は本当にこの値段なんだろうか?」と混乱し、メーカーは「常に安売りされているイメージ」がつく可能性があります。
このような誤解を生む、不正な価格表示をめぐる問題は「二重価格問題」と呼ばれ、消費者庁により価格表示ガイドラインが整備されました。
- 同一ではない商品の価格を比較対照価格に用いて表示を行う場合
- 比較対照価格に用いる価格について実際と異なる表示やあいまいな表示を行う場合
- 製造業者等により設定されあらかじめカタログ等により公表されているとはいえない価格を希望小売価格として称して比較対照価格に用いる場合
- 消費者が同一の商品について代替的に購入し得る事業者の最近時の販売価格とはいえない価格を比較対照価格に用いる場合
希望小売価格からオープン価格へ
特に家電製品は市場の価格変動が大きい上に、旧機種(型落ち)の在庫を処分したい小売店側の事情もあり希望小売価格からの割引が常態化していました。
そこで、採用されはじめたのが「オープン価格」です。オープン価格では、メーカーは卸値(小売店への販売価格)のみ設定し、小売業者は市場の動向を見て、卸値に利益やコストを加えた値段で商品を販売します。
「希望小売価格から◯◯%引き」のような表示ができないので、消費者を混乱させず、メーカーも安売りのイメージからブランドを守ることができるようになりました。
オープン価格は、家電製品から徐々に広まり、現在では食品、日用品など様々な分野で採用されています。
オープン価格を設定するメリットとは?
ここからはオープン価格を設定するメリットについて解説します。メーカー、小売店、消費者、それぞれのメリットは以下の通りです。
- 【メーカー】ブランドイメージの低下を防止
- 【小売店】利益を出しやすい
- 【メーカー/小売店】相場価格をコントロールできる
- 【消費者】商品の価値を正確に把握できる
詳しく見ていきましょう。
【メーカー】ブランドイメージの低下を防止
メーカーがオープン価格を設定するメリットは、商品ブランドのイメージ低下を防止できる点です。
「オープン価格普及の背景と二重価格問題」でも解説しましたが、オープン価格が広まった背景には、小売店が希望小売価格から割引表示をして販売していたことがあります。
このような売り方をされてしまうと、「安売りされている商品」「半額でも買える商品」というイメージを消費者に植えつけてしまい、ブランドのイメージは著しく下がります。
オープン価格を設定することで、メーカーはブランドのイメージを守ることができるのです。
【小売店】利益を出しやすい
小売店がオープン価格を設定するメリットは利益を出しやすい点です。
オープン価格は小売店が自由に価格設定することができます。基準となる販売価格がないので、他店より安い価格に設定しても十分に利益を得ることができます。
例えば、品薄になるほど人気の商品であれば、仕入れ値に十分な利益を上乗せして高く売ることもできます。小売店は市場の動向を見ながら価格設定ができるため、オープン価格は損をしにくい仕組みであると言えます。
【メーカー/小売店】相場価格をコントロールできる
メーカー、小売店の両者のメリットは、相場価格をコントロールできる点です。
希望小売価格を表示していると、小売店は他店と割引率で競争が激化しやすくなります。そうなると、メーカーは同じ商品であるのに店舗ごとに割引率や値段が異なる表記をされてしまい、消費者へのイメージ低下に繋がります。
オープン価格を採用すれば、小売店が市場の動向を見ながら値段を設定できるため、他店との価格競争になりにくく、メーカー側は商品の価格が安定するため消費者へ安売りのイメージを植え付けずにすみます。
- オープン価格 → 価格競争になりにくい(店舗ごとに商品の価格の差があまり出ない)
- 希望小売価格 → 割引率で他店と競争になりやすい(割引率や価格表示が店舗ごとに異なる)
【消費者】商品の価値を正確に把握できる
オープン価格を設定する消費者側のメリットは、商品の価値を正確に把握できる点です。
二重価格表示に躍らされることなく、現時点での商品の価値を把握できます。
上記の場合、「1万円の商品を半額で買える」という印象を受けます。また、「大幅な値下げ=不人気の商品」と感じる消費者もいます。
対して、上記のようなオープン価格の場合は「現時点で5,000円の価値がある商品」として認識することができます。
オープン価格普及の要因の一つは「消費者を混乱させないため」であるので、商品の価値を正確に把握できることは消費者にとって大きなメリットだと言えます。
オープン価格を設定するデメリットとは?
オープン価格のメリットを解説してきましたが、ここからはデメリットについて解説します。メーカー、小売店、消費者のデメリットは以下の通りです。
- 【メーカー/小売店】掛け率の交渉ができない
- 【小売店】安売りをアピールできない
- 【消費者】店舗に行かないと価格が不明
詳しく解説していきます。
【メーカー/小売店】掛け率の交渉ができない
オープン価格で販売する場合、メーカーや小売店は掛け率での交渉ができません。
希望小売価格で販売をする場合は、「卸値を希望小売価格の60%(6掛け)にしてほしい」というわかりやすい交渉ができますが、オープン価格は卸値のみとなり、販売する基準となる価格がありません。
そこで、オープン価格を設定している際はメーカーは参考価格を小売店に提示しますが、参考価格は公開されていません。
【小売店】安売りをアピールできない
オープン価格を設定すると、小売店には安売りをアピールすることができないというデメリットがあります。
「オープン価格普及の背景と二重価格問題」で解説したように、希望小売価格からの割引表示は消費者に大きなインパクトを与えることができます。ところが、オープン価格では販売基準となる価格がないため、「当店通常価格から〇〇%引き」や「地域最安」のような漠然とした表現しかできません。
「オープン価格を設定するメリットとは?」で解説した小売店のメリットとして、価格競争になりにくいことを挙げましたが、価格で勝負できない分、ポイントでの還元や付加価値を付けるなど、他店との差別化が必要となります。
【消費者】店舗に行かないと価格が不明
オープン価格が設定されている商品では、消費者は実際に店舗に行かなければ販売価格がわかりません。
理由は、オープン価格は小売店が設定する値段のため、小売店ごとに異なり、メーカー希望価格のように基準となる価格がないためです。カタログを入手しても、オープン価格と表記されているだけなので、自分で調べるしかありません。
また、店舗間で価格の比較がしにくいのもデメリットです。商品を購入したのはいいものの、「別の店で買った方が安かった」ということも実際によくあるケースです。
まとめ
今回は、オープン価格とは何か? 希望小売価格や定価との違いについてわかりやすく解説しました。オープン価格普及の背景や、メリット・デメリットについてもご理解いただけたのではないでしょうか?
オープン価格、希望小売価格、定価との違いは、以下の通りです。
- オープン価格とは、小売店が自由に設定する販売価格のこと
- 希望小売価格とは、メーカーが小売店に対して希望する販売価格のこと
- 定価とは、メーカーが設定した販売価格のこと
買い物の際に表示価格の違いを知っておくと、商品の価値に対して適正な価格なのかを冷静に判断できます。
ぜひ、この記事で解説したことがみなさんのお役に立つと幸いです。