日経主催のイベント名としても有名なリテールテック。アパレルのマーケティングを研究しながら、下の点が気になっている人も多いでしょう。
この記事では、上記の内容を中心にリテールテックについてまとめます。特にアパレルの事例、全業界の事例(カオスマップ)、RFID・ビーコンの説明は、わかりやすいと感じていただけるでしょう。
アパレルや小売の現場で、リテールテックの導入を検討されている方は、ぜひ参考になさってください。
目次
リテールテックとは?意味&日経のイベント
リテールテックとは、
- ① 小売業にITを導入すること
- ② そこで導入する技術やサービス自体のこと
です。辞書では下のように定義されています。
小売業にIT(情報技術)を導入すること。また、それによって実現する新たなサービスやビジネス。
リテールテック | コトバンク
リテールテックという単語は「日経のイベント名」としても有名で、Webで検索されるのはそちらが主流といえます。
日経のイベント「リテールテックJAPAN」
出典:リテールテックJAPAN
日経新聞主催の「リテールテックJAPAN」は、下のような内容です。
流通業のサプライチェーンとマーケティングを進化させる、最新のIT機器・システムを紹介する日本最大の専門展。
日経メッセ 街づくり・店づくり総合展
「イベント名でも知られている」ということは、下の辞書による記述でもわかります。
日本経済新聞社は「日経メッセ 街づくり・店づくり総合展」の一部として「リテールテックJAPAN」の名を冠した展示会を開催している。
リテールテック | Weblio辞書
2020年はコロナの影響で延期も検討されていましたが、最終的に中止が決まりました。NECなど主要な企業の一部は、中心が決まる前から自主的に出店中止を発表していたという経緯もあります。
【参考】リテールテックJAPAN 2020 出展中止のお知らせ | NEC
アパレル業界でのリテールテックの導入事例・3選
アパレル業界でのリテールテックの導入・成功事例は、下のようなものがあります。
渋谷パルコ | テクノロジーをKWにリニューアル |
村田製作所 | 異なるメーカーのICタグを使えるシステム |
rue21 | CDPを構築し倒産から2年で復活 |
それぞれの事例を詳しく紹介していきます。
渋谷パルコ:オムニチャネル型売場・デジタル試着など
出典:渋谷パルコ
渋谷パルコは、2019年11月にリニューアルOPENしました(改装期間は3年)。
この5階のコンセプトがNEXT TOKYO(ネクスト東京)となっており、
- 店舗とECが併設された、
- オムニチャネル型売場
となっています。オムニチャネルとは「複数の経路」のことです。パルコの場合は、店舗とECの「2つの経路」で消費者にアピールします。
「実店舗にEC」とはどういうことか?
簡単にいうと店内の大型タブレットでネットショッピングができるのです。これにより、
- 欲しいサイズが欠品していても大丈夫
- 荷物を増やしたくないとき、簡単に配送手続きができる
などのメリットがあります。大型タブレット(正確にはサイネージ)とは、下のようなものです。
出典:どこより詳しい「新生・渋谷PARCO」ガイド | Yahoo!JAPANニュース
上のサイネージは、タッチして商品の選択や購入をできます。この小型(1画面)のものが、11店舗に設置されています。下の画像のようなものです。
出典:【潜入レポ】本日OPENの渋谷パルコ、ファッションテック的注目ポイントを紹介 | ZOZO FASHION TECH NEWS
サイネージだけでなく通常のタブレット(がカスタマイズされたもの)もあり、その両方を駆使して実店舗でのネットショッピングを実現しています。
バーチャルで試着できる「FXMIRROR」
渋谷パルコのリテールテックとしては、他にも「バーチャル試着」が挙げられます。これは『calif SHIBUYA』(ビーズインターナショナル運営)で導入されている技術です。
下の画像のように、実際に試着しなくても「その服の着用イメージ」を確認できます。
出典:ビーズインターナショナルが新業態となる『calif SHIBUYA』を”新生”渋谷パルコにオープン | オリコンニュース
このバーチャル試着の正式名称は、3Dバーチャルフィッティングサイネージ「FXMIRROR」といいます。「FXの鏡」ということですが、ここでいうFXは「エフェクツ」の略です。
なお、バーチャルフィッティングができるスマートミラーについては、下の記事でも詳しく紹介しています。
村田製作所:異なるメーカーのICタグを使えるシステム
出典:メーカーの異なるRFID機器をつなぐ「RFIDミドルウェア」、村田製作所が提案強化 | MONOist
ICタグは防犯タグに似たものです。防犯タグと違い、
- ブザーを鳴らす、ゲートを検知するなどの「防犯機能」はない
- しかし、服の色・サイズ・価格などの「商品情報」が埋め込まれている
というものです。そして、このICタグにはメーカーがあります。
メーカーが違うタグの情報は、まとめられない
メーカーが違うICタグの情報は、基本的にまとめることができません。
- A社のICタグは、A社の読み取り機械で
- B社のICタグは、B社の読み取り機械で
という風に、読み取れる装置が分かれています。これをまとめるには「スタッフの人力の作業」が必要です。
村田製作所が「まとめて管理」する技術を提案
この「メーカーが違うICタグの情報」をまとめて管理する技術を、村田製作所(以下、村田)が提案しています。
- もともと、村田はICタグを製造していた
- イタリアの企業が「まとめて管理できるソフトウェア」を開発した
- その会社を、村田が買収した
- このイタリアの技術を、日本で使えるよう提案している
という状況です。2019年のリテールテックJAPANで、村田がこの新技術を提案している様子が、先に紹介した写真のものです。
イタリアの会社とは?
これは、ID-Solutions S.r.l.(和訳:IDソリューション有限会社)です。村田の買収により、2020年2月から社名が「Murata ID Solutions S.r.l.」に変わっています。
参考ID-Solutions S.r.l.の社名変更について | 村田製作所
このID-Solutionsが「メーカーが違うICタグの情報を、一括管理する技術」を生み出しました。専門用語では「RFIDミドルウェア」といいます。
RFID | ICタグの情報を読み書きするシステム |
ミドルウェア | 個別のソフトと、OS(コンピュータ全体)の間に入るソフト |
ミドルウェアの説明が少々難しいでしょうが、村田の場合は「一括管理ソフト」です。
- ICタグのメーカーも、それぞれ専用の読み書きソフトがある
- その「一括管理ソフト」が、村田のもの
- ソフトという意味では、どちらも立場は平等である(ただのソフトである)
- しかし、村田の方が「全体的なソフト」に近い
- こういうソフトを「ミドルウェア」と呼ぶ
ということです。たとえば「中間管理職」がいい例です。
- 管理職も、立場は「会社員」である
- その点では、平社員(個別ソフト)と変わらない
- しかし、より全体(社長)に近い立場にある
ということです。こう考えるとミドルウェアの立ち位置や、必要な理由もわかるでしょう(社長が社員全員を管理するのは難しいので、中間の人材が必要ということです)。
村田が日本で提案しているのは、こういった異なるメーカーのICタグを一括管理できるソフトということです。
(村田はもともと装置などのハードウェアを作る会社なので、装置も合わせて提案・販売します)
この事例がなぜ「アパレル」なのか?
このシステム自体は、どの業界でも使えるものです。ただ、買収前の「ID-Solutions社」が特に結果を出しているのがアパレル業界なのです。
ID-Solutionsはイタリアの会社ですが、ヨーロッパ全域のアパレル業界で、同社のミドルウェアが普及しています。そのため、村田も2019年のリテールテックJAPANで「アパレルを例にして」提案したわけです。
rue21:CDPを構築し倒産から2年で復活
rue21(ルー21)とは、アメリカのカジュアルファッションブランドです。1970年に創業し、全米で約700店舗を展開しています。本社所在地はペンシルベニア州です。
同社は2017年に倒産しましたが、2019年中には再建に成功し、アパレル業界で注目されるようになりました。同社が復活したのはリテールテックの技術であるCDPの構築に成功したためです。
参考【米国リテールトレンド】DXで倒産から復活したファッションブランド「rue21」 | NISSHO USA
CDP(カスタマーデータプラットフォーム)とは
CDP(カスタマーデータプラットフォーム)とは、消費者のデータの統合管理システムです。言葉の通り、
- カスタマー(消費者)の、
- データを、
- プラットフォームに集める
ということです。下の図がわかりやすいものです。
出典:カスタマーデータプラットフォーム TREASURE CDP がブレインパッドが提供する Rtoaster と連携 | arm TREASURE DATA
同様の仕組みを構築し、rue21も2年で倒産から復活したということです。
リテールテックのカオスマップ(企業64社の一覧)
出典:小売×テクノロジーのカオスマップで網羅する、2019年の国内リテールテック市場 | DooR
リテールテックの具体例を図でまとめたのが、上のカオスマップです。ジャンルを書き出すと下のようになります。
それぞれ、リンク先の段落で事例を紹介していきます。
在庫管理
在庫をリアルタイムで把握するなどの目的で、リテールテックが広く用いられます。技術やサービスを提供している企業は下のようなものです。
TRYETING(トライエッティング) | |
三菱総合研究所MRI | |
View Communications | |
ユニシス | |
チェックポイント | |
MAGELLAN BLOCKS |
次で説明する「物流・配送」と合わせ、流通全体を効率化させることをサプライチェーンマネジメント(SCM)といいます。SCMについては、下の記事で詳しく解説しています。
物流・配送
在庫管理がさらに大規模になった、物流・配送の分野でもリテールテックが用いられます。技術を提供する企業を一覧にすると下のとおりです。
OPTIMIND. | |
日立 | |
スマートドライブ | |
SOUCO(ソウコ) | |
Shippio | |
GROUND |
店内体験
顧客の店内体験を改善する技術は、下の3種類に分かれます。
アパレル分野では、渋谷パルコが店内体験のわかりやすい成功・導入事例です。
無人店舗
無人コンビニ「Amazon GO」などで注目されている無人店舗では、下のような企業が技術を提供しています。
テクムズ | |
BRAIN | |
NEC | |
V-SYNC(ブイシンク) | |
OPTiM | |
REAL IT(株式会社リアリット) | |
トライアル | |
サインポスト |
参考「Amazon Go」はなにが凄いのか…「詳しい人」の意外な答え | 現代ビジネス
AR・VRツール
AR・VRは新しい分野のため、ベンチャー企業が多数活躍しています。
JOLLY GOOD!(株式会社ジョリーグッド) | |
startia lab | |
produce lab(株式会社プロデュースラボ) | |
ADPAC(アドパック) |
先に紹介した渋谷パルコの「バーチャル試着」などは、わかりやすい事例です。また、ファッション業界でのVRの事例は下の記事で詳しく紹介しています。
ストアロボット
ソフトバンクの「ペッパー君」でお馴染みのストアロボットです。
SoftBank(ソフトバンク) | |
Headwaters(ヘッドウォーターズ) | |
unibo(ユニボ) |
ロボットができる案内はロボットがし、必要に応じて人間のサービス窓口と通信するなどします。
データ分析
データ分析は特に大きなジャンルで、下の3通りの分野に分かれます。
それぞれ詳しく説明していきます。
店舗管理
店舗管理は在庫管理とも似ていますが、バックヤード・倉庫より売場の比重が大きい作業です。
テクムズ | |
ABEJA | |
EBI LAB(エビラボ) | |
locarise | |
フローソリューションズ | |
alohaworks(アロハワークス) | |
COMTURE(コムチュア株式会社) |
無人店舗で登場したテクムズがここでも登場しています。
ビーコン・ロケーショントラッキング
ビーコンとロケーショントラッキングとは、リテールテックの世界では「位置追跡」の意味です。
unerry(ウネリー) | |
JMAS | |
ACCESS | |
jena |
ビーコンの意味はこちらの段落で詳しく解説しています。
リアルタイムシェルフ管理
リアルタイムでシェルフ(棚)を管理するシステムです。下のような企業がサービスを提供しています。
NSS(日本総合システム) | |
サイバーリンクス | |
TEIJIN |
IoT化したシェルフのことを「スマートシェルフ」と呼ぶこともあります。
決済
決済のリテールテックは、下のようなジャンルに分かれます。
それぞれ詳しく説明していきます。
クーポン・ポイント・キャッシュバック
クーポン等は、リテールテックというより「サービス」というイメージがあるでしょう。しかし、そのポイントを管理するシステムは、まごう方なき「テック」です。
一般に浸透している分、大規模なシステムが必要になります。そのため、この分野はリクルート・日立・東芝・富士通といった大企業が名前を連ねています。
クレアンスメアード | |
リクルート | |
日立ソリューションズ | |
東芝デジタルソリューションズ | |
COMPONENT DESIGN | |
株式会社アイル(I'll) | |
富士通エフ・アイ・ピー |
「クーポンやポイントもリテールテック」と知ると、「知らない間にリテールテックに日常的に触れている」ことを実感するでしょう。
セルフレジ
セルフレジは、スーパーでも一般的に見られるようになった「身近なリテールテック」です。
NCR | |
東芝テック株式会社 | |
株式会社寺岡精工(TERAOKA) | |
パナソニック | |
富士通フロンテック |
セルフレジが広まりつつあるため、近い将来「レジ打ちという仕事はなくなる」ともいわれています。
参考「数年以内に、レジ打ちという仕事がなくなる」赤羽雄二氏に聞く | KKベストセラーズ
QRコード決済
2019年に国の施策としてブームになった「キャッシュレス決済」です。知っている名前が多いでしょうが、下のような企業・サービスが存在します。
NTT docomo(d払い) | |
PayPay | |
LINE Pay | |
ORIGAMI | |
VAAK | |
楽天ペイ |
ORIGAMI・VAAKなどは、マーケティング担当者は知っていても、一般の方は初めて聞く名前かもしれません。
ダイナミック・プライシング
ダイナミック・プライシングに関する技術は、主に下の企業が提供しています。
ニッコープランニング | |
ダイナミックプラス | |
メトロエンジン | |
フォーバル |
ダイナミック・プライシングの意味はこちらの段落で解説しています。
ウォークスルー決済
ウォークスルー決済とは、人のいないゲートを通り抜けるだけで完了する決済のことです。下のような企業が技術を提供しています。
SATO | |
SKエレクトロニクス | |
DENSO WAVE | |
ダイオーエンジニアリング(大王製紙グループ) |
最近は新たな決済サービスとして「キャッシュアウトサービス」注目されています。これについては、下の記事で詳しく解説しています。
リテールテック基本用語の解説(RFID・ビーコンなど)
リテールテックの研究をしていて「専門用語がわからない」ということは多いでしょう。ここでは、下の3つの基本用語の意味を説明します。
RFID | ICタグの商品情報を読み書きするシステム |
ビーコン | 無線LANを用いた位置把握技術など |
ダイナミック・プライシング | 需要と供給に合わせて価格を変動させる戦略 |
以下、それぞれの用語をわかりやすく解説していきます。
RFID:ICタグの商品情報を読み書きするシステム
RFIDとは、RFタグのデータを読み書きするシステムです。上のデンソーのページの説明では、下のようになっています。
RFIDとは、電波を用いてRFタグのデータを非接触で読み書きするシステムです。
RFタグとは
RFタグとは、ICタグのことです。
ICタグはRFタグや電子タグ、非接触タグとも呼ばれます。
最近ではRFタグと呼ぶのが一般的になってきています。
RFIDとICタグ比較/違い | エスケーエレクトロニクス
ICタグとは
ICタグとは、無線で通信できるタグです。
電波等による無線で通信する機能を持ったタグをいいます。
ICタグ(電子タグ、無線タグ)とは? | エスケーエレクトロニクス
まとめると…
ここまでの内容を表でまとめると、下のようになります。
①:RFIDとは? | システムである |
②:何をするシステムか? | 情報の読み書き |
③:何の情報か? | ICタグの情報 |
④:ICタグの情報とは? | タグが付いている商品の情報 |
⑤:商品の情報とは? | 価格・色・サイズなど |
まとめると、RFIDとはICタグに記録されている商品の情報を、読み書きするシステムです。RFIDについては、下の記事でも詳しく解説しています。
ビーコン:無線LANを用いた位置把握技術など
リテールテックでは、ビーコンとは主に無線LANを用いた位置把握技術を指します。上の画像のNECの技術のように、従業員や物品の位置を管理・把握します。
なお、本来のビーコンは無線標識のことで、辞書ではこちらのみが採用されています。リテールテックで使われている意味は「新しいもの」で、説明が人や企業によって大きく異なります。
【参考】【初心者向け】ビーコンとGPSの違いとは?分かりやすく解説! | Techfirm Blog
そして、ビーコンの正式な説明については、下の2記事が参考になります。
余談ですが、本来のビーコン(無線標識)とは、下のようなものです。
上の画像のような装置で、船や飛行機に位置信号を送っています。ビーコンについては下の記事でも詳しく解説しています。
ダイナミック・プライシング:需要と供給に合わせて価格を変動させる戦略
ダイナミック・プライシングとは、商品・サービスの価格を需要と供給に合わせて変動させる戦略です。下のような日本語で表現されます。
- 動的価格設定
- 価格変動制
- 変動料金制
「売れなければ価格を下げる」というのは普通ですが、それを「1日単位・時間単位でリアルタイムに行う」ことが特徴です。
まとめ:アパレルの店舗運営にもリテールテックの導入が有効
リテールテックの要点をまとめると、下のとおりです。
- リテールテックとは、小売にITなどの技術を導入すること
- 日経のイベント「リテールテックJAPAN」が有名
- 技術を提供する主な企業のみで、64社存在する
リテールテックには多くのジャンルがありますが、アパレルでは特に以下の業務でリテールテックが役立ちます。
- 販売管理
- 在庫集計
- データ分析
これらの業務を大幅に効率化できるのが、弊社が提供する高機能クラウドシステム『アパレル管理自動くん』です。アパレル店舗に特化したクラウドPOSレジ『アパレル管理自動くんPOSレジ』と連携することで、時間単位でのダイナミック・プライシングなどの施策もスムーズにできます。
それぞれの機能の詳細は、リンク先のページでご覧いただけたらと思います。アパレルに特化したリテールテックを導入することで、御社・貴店の業務をさらに高いレベルで効率化し、クリエイティブなものにできるでしょう。