マーケティングの重要単語の一つに「カニバリ」があります。アパレル業界の人も含め、カニバリについて多くの人が知りたがるのは下のような点でしょう。
この記事では、上記の4つの疑問に答えていきます。アパレル業界の人も他業界の人も、カニバリについて押さえるべきポイントを、簡単に押さえていただけるでしょう。
目次
マーケティングのカニバリとは
マーケティング用語のカニバリの概要をまとめると、下のとおりです。
意味 | 自社競合。自社の商品・店舗同士の共食い現象 |
語源 | Cannibalization(共食い) |
対義語 | シナジー(互いにプラスに作用する。相乗) |
それぞれ詳しく説明していきます。
意味:自社競合。自社の商品・店舗同士の共食い現象
マーケティングのカニバリとは、一言でいうと自社競合です。自社競合の意味を箇条書きで書くと、
- 自社の「商品同士」や、
- 自社の「店舗同士」で、
- 顧客の「共食い」が起きること
となります。辞書(デジタル大辞泉)の定義は下のとおりです。
共食い現象。同じ会社の製品で類似性が強く互換性がある場合に生ずる製品間の競合関係のこと。
カニバリゼーション | コトバンク
「自社競合」という言葉は、辞書などで正式に採用されているわけではありません。しかし、下の記事のように多くの専門家が使用しています。
参考「いきなり!ステーキ」が落ち込んだ理由は、自社競合じゃないんじゃないかという仮説 | フードリンクニュース
語源:Cannibalization(共食い)
カニバリは、正確にはカニバリゼーションといいます。これは英語のCannibalizationをそのままカタカナにしたものです。
意味は「共食い」で、マーケティング用語でもそのままの意味で用いられます。読みはカニバライゼーションとなることもあります。
対義語:シナジー(互いにプラスに作用する。相乗)
カニバリの対義語はシナジーです。シナジーの意味は「相乗」で、互いにプラスに作用するという意味です。
シナジー効果と「効果」が付くと、相乗効果の意味になります。しかし、シナジーのみで「相乗効果」の意味で用いられることもしばしばあります。
カニバリは共食いなので「互いにマイナス」に働きます。その逆で互いにプラスに働くシナジーは、対義語になるわけです。
アパレル業界のカニバリ・3つのケーススタディ
アパレル業界のカニバリの事例は、以下のケースが新しく代表的なものです。
ブランド | 事例の詳細 |
---|---|
ビームス | EC導入で実店舗売上が2年連続アップ |
ユナイテッドアローズ | 併用客の購入額は約3倍 |
ユナイテッドトウキョウ | パブリックとカニバリ |
それぞれのケースを詳しく紹介していきます。
ビームス:EC導入で実店舗売上が2年連続アップ
出典:BEAMS
ビームス(BEAMS)は、ECサイトの導入で実店舗の売上が逆に伸びました。導入から2年連続アップという実績です。
一般的にネットでの販売を始めると実店舗の売上が落ちるといわれます。小島ファッションマーケティング代表の小島健輔氏は「EC比率が16%を超えると、実店舗とのカニバリを実感する企業が多い」という旨を指摘されています。
上記の主張は統計によるものであり、情報源の信頼性を考えても正しいでしょう。しかし、ビームスでは逆の結果が出たということです。
具体的には、ECサイトの展開を始めてから、2年連続で実店舗の売上も伸びたといいます。実は、こうしたECサイトによって実店舗の売上が伸びる例は、他のブランドでも報告されています。
ファッションECサイトは、リアル店舗と「カニバリ」しない | Agenda note
ユナイテッドアローズ:併用客の購入額は約3倍
出典:ユナイテッドアローズ
ユナイテッドアローズも、ECサイトと実店舗がカニバリを起こしていません。同社も最初はカニバリを危惧し、社内でデータ分析を行いました。
結果「カニバリどころか相乗効果がある」という結論になったのです。
店舗がある地域はECも売れる(店舗がECを支える)
まず、同社の分析では「店舗がない地域のECは売れない」ことがわかりました。これは逆にいうと、店舗がある地域ではECも売れるということです。
この点で、店舗がECを支えるケースがあるとわかります。
ECも店舗を支える
逆にECも実店舗を支えています。ユナイテッドアローズの場合、ECを使う実店舗の顧客は、平均の購入金額が2.5倍になったということです。
- 実店舗しか使わない顧客
- ECも実店舗も両方使う顧客
上の2者を比較すると、後者の「両方使う顧客」の購入金額が、前者の2.5倍になったということです。
アパレル企業のWeb責任者が見る「2018年。3年後のWeb戦略」―UNITED ARROWS LTD.―【前半】
ユナイテッドトウキョウ:パブリックとカニバリ
出典:ユナイテッドトウキョウ
ユナイテッドトウキョウは、パブリックトウキョウ(PT)との間で、わずかにカニバリを起こしました。両ブランドとも、株式会社TOKYO BASEが運営するものです。
カニバリが起きたのは2019年上期(3月~8月)です。この期間、ユナイテッドトウキョウのECは31.4%増収と好調でした。
しかし、実店舗の方はPTとカニバリを起こし、微減収となっています。逆にこのとき、PTの方は売上が伸びました。実店舗に関しては、ユナイテッドトウキョウは落ち、PTは上がったということです。
参考上期2ケタ増収増益のトウキョウベース レディス、新業態がけん引 | 繊研・電子版
アパレルのカニバリは「EC―実店舗間」より「ブランド間」で起きる?
ここまで挙げた3つの事例を見ると、アパレルのカニバリは、
- 「ECと実店舗」の間では、あまり起きない
- 「ブランドとブランド」の間の方が起きる
という可能性があります。こうした事例は企業秘密の部分もあるため、全てのデータが表に出ているわけではありません。
しかし、3つの事例を見た限りでは「ブランド間のカニバリの方が起きやすい」可能性があると言っていいでしょう。
補足:ユナイテッドトウキョウとユナイテッドアローズの違い
アパレル以外の業界の方は、両者が同じ会社のブランドだと思うかもしれません。しかし、両者は運営会社がまったく別です。
ブランド | 運営会社 |
---|---|
ユナイテッドトウキョウ | 株式会社TOKYO BASE(東証1部上場) |
ユナイテッドアローズ | 株式会社ユナイテッドアローズ(東証1部上場) |
このように別の会社で、両方東証1部に上場しているわけですね。「別の会社だけど片方が子会社」などという形でもないのです。
そのように「まったく別の会社」で、それぞれカニバリが起きなかったケースと、わずかに起きたケースがあるということです。
カニバリゼーションの成功事例・3選
カニバリにはプラス面もあり、あえて戦略的に行うこともあります。その主な成功事例は下記の3つです。
GM(ゼネラルモーターズ) | カニバリ覚悟で多数の車種を揃え世界1位に |
キリンビール | 淡麗⇒のどごし生⇒本麒麟の3商品でカニバリ回避 |
カルビー | 自社アンテナショップと小売店の衝突回避 |
それぞれの事例を詳しく解説していきます。
GM:カニバリ覚悟で多数の車種を揃え世界1位に
出典:GMジャパン
アメリカの自動車メーカー・GM(ゼネラル・モーターズ)。キャデラックなどの車種で知られ、50~60年代には世界最大の自動車メーカーとして反映しました。
GMが一時期世界トップに立った理由は、カニバリを戦略的に実行したことにあります。
- 自社のラインナップで「少しずつ違うモデル」を出す
- あえて「似た車」を自社内で出す
- このため、似た車同士がカニバリを起こす
一見悪いことのようですが、上のやり方にはメリットもあるのです。
- 似た車同士を、消費者がじっくり比較できる
- 比較して納得した上で買うので、満足度が高まる
- ラインナップが多いので、新しい顧客も集まりやすい
- 似た車や上位グレードへの買い替えも起こりやすい
上記が車のカニバリのメリットですが、GMはデメリットよりもメリットに着目したわけです。そして、あえてカニバリを起こし、世界トップのフォードに逆転しました。
キリン:淡麗⇒のどごし生⇒本麒麟の3商品でカニバリ回避
出典:キリン
キリンは2003年~2018年にかけて、以下のように新しい分野を開拓しました。
ジャンル | 商品名 |
---|---|
発泡酒 | 麒麟淡麗 |
第3のビール | のどごし生 |
新ジャンル | 本麒麟 |
お酒が好きな人には説明不要でしょうが、発泡酒と第3のビールの違いは、端的に書くと下のとおりです。
- 発泡酒(薄いビール)
- 第3のビール(やや薄いビール)
濃さは違うもの「ビールが薄くなったもの」という点では、どちらも似たタイプの商品です。そのため、カニバリを起こす可能性がありました。
しかし、キリンは「飲む瞬間の喉ごしなど、あらゆる部分を細かく工夫する」ことで、カニバリが起きないようにしました。
「発泡酒と第3のビール」という風に、単純にジャンルで見るとカニバリが起きやすくなります。しかし「麒麟淡麗とのどごし生」という風に「どちらも唯一無二の商品」として個性を出すことで、カニバリが起きないようにしたのです。
本麒麟の大ヒットも同じ
2018年からビール市場で「一人勝ち」をしている本麒麟。第3のビールがさらに美味しくなった「新ジャンルのビール」と呼ばれています(現状ではまだジャンル名がありません)。
参考なぜ「本麒麟」は売れまくっているのか? | 価格.comマガジン
新ジャンルのビールもやはり、第3のビールとカニバリを起こす可能性がありました。ここでもキリンは味にさまざまな工夫を凝らすことで、カニバリを回避しています。
キリンビール/3カ月で1億本突破「本麒麟」ヒットの秘密(マーケティング編) | 流通ニュース
カルビー:自社アンテナショップと小売店の衝突回避
出典:カルビープラス
カルビーはポテトチップスで有名な会社です。同社はアンテナショップ(直営店)のカルビープラスを全国に展開しています。
カルビーが自ら商品を売り始めたら、当然に小売店と衝突します。小売店とのカニバリが起きるリスクがあったわけです。
店舗数を15に抑えることでカニバリを回避
アンテナショップは数店舗では口コミが広がりません。全国的に口コミを広めるためには、できるだけ多くの店舗を出す必要があります。
その上で小売店とのカニバリを起こさない最大の店舗数が15であると、グロービス経営大学院教員(当時)の金森努氏も指摘されています。
参考カルビーが小売店運営に進出するワケは何だ? | グロービス
上記の報道は2010年のものですが、2020年3月現在でも海外を含めて16店舗です。時代が変わっても、やはりカニバリを避けられる最大の店舗数が15という指摘は的を射ているのでしょう。
カニバリゼーションで失敗とされる事例・3選
カニバリに関して、現状では「失敗だった可能性がある」と指摘される事例があります。もちろん、そうして研究対象になること自体が、その企業の存在感の大きさの証明ともいえます。
つまり「カニバリの失敗事例」と一部で評価されても、その企業の経営に問題があるということではありません。その前提で「失敗例」と指摘される事例をあげると、下の3つが代表的なものです。
企業名 | 事例の詳細 |
---|---|
いきなりステーキ | 同一商圏の大量出店で共食い |
コンビニ各店 | 店舗オーナーが慢性的カニバリに苦しむ |
コダック | フィルム・デジタルのカニバリを過剰に危惧 |
以下、それぞれの事例について解説していきます。
いきなりステーキ:同一商圏の大量出店で共食い
2019年~2020年のカニバリの事例として、いきなりステーキは代表ともいえます。同じ商圏に大量の店舗を出店したため、店舗同士でカニバリが起きてしまったのです。
特にカニバリが起きたのは郊外で、メディアでも下のように指摘されています。
郊外への進出を続けたが、ひとつの商圏で複数出店するケースが続出。カニバリゼーション(自社競合)が起きてしまった。
いきなりステーキ、激しく失速…無計画な大量出店で店間の“共食い”、米国も大量閉店で失敗
いきなりステーキがどれだけ急速に店舗を増やしたかは、下の表を見てもわかります。
年度 | 店舗数 |
---|---|
2016年末 | 115店 |
2017年末 | 188店 |
2018年末 | 389店 |
2019年末 | 459店 |
上の状態から、2020年の初頭で74店舗が閉鎖されています。いきなりステーキの経営スタイルへの賛否はおいておき「店舗数に関しては、実際にカニバリが起きた」ことは間違いないといえるでしょう。
コンビニ各店:店舗オーナーが慢性的カニバリに苦しむ
コンビニの店舗が多過ぎて各店のオーナーが苦しんでいるという話は、聞いたことがある人も多いでしょう。店舗が多い方が利用者としては便利ですが、エリア内でカニバリが起きるのも確かです。
それでも本部が実行するのは「ドミナント戦略」の実現のためです。ドミナント戦略とは、チェーン店がエリアを絞って集中的に出店する戦略を指します。
本部としては、エリアを制圧して他のチェーン店の売上を奪いたいわけです。しかし、他社の店舗だけでなく自社の店舗の売上まで奪ってしまっている現実が、各地で見られます。
コダック:フィルム・デジタルのカニバリを過剰に危惧
コダック社は世界最大の写真用品メーカーです。カメラがデジタルでなくフィルムの時代に、写真業界で圧倒的ナンバーワンの地位を占めていました。
しかし、フィルムとデジタルのカニバリを恐れたため、方向転換に遅れて失敗します。箇条書きで説明すると下のとおりです。
- フィルムカメラとデジタルカメラはライバルだった
- デジカメに力を入れれば、フィルムカメラが売れなくなる
- 両者でカニバリが起きてしまう
これ自体は富士フイルムなどの他の会社も同じでした。しかし、コダックが特にカニバリを恐れた理由は同社がフィルムカメラで圧倒的なNo.1だったことです。
逆に富士フイルムなどは、フィルムではコダックほど強くありませんでした。カニバリが起きても失うものが小さいため、堂々とデジカメへの転身に踏み切れたのです。
参考売上の6割を占める主力事業を5年で失った富士フイルムが、破綻しなかった秘訣
このコダックの失敗はカニバリという単語を通り越して、「イノベーションのジレンマ」という有名な言葉でも知られています。
まとめ:実店舗とECのカニバリ回避には優れた、クラウドが不可欠
アパレルの実店舗とECサイトはカニバリを起こすこともあれば、相乗効果を出すこともあります。しかし、何も考えずに双方を運営していれば、高確率でカニバリが起きるでしょう。
実店舗とECサイトのカニバリを防ぐためには、双方で正確なデータをとる必要があります。そして、両者のデータを一元管理できるクラウドシステムが不可欠です。
この一元管理を実現するためのツールとしておすすめなのが、弊社の提供する下記の2つのツールです。
アパレル管理自動くんPOSレジ | アパレル特化型・クラウド連動POSレジ |
アパレル管理自動くん | アパレル特化型・高機能クラウドシステム |
まず実店舗でアパレル管理自動くんPOSレジをご利用いただくことで、実店舗のデータをクラウドにリアルタイムで正確にアップできます。そして、ECサイトのデータと統合して、アパレル管理自動くんで管理や分析をできるということです。
ECと実店舗でカニバリではなくシナジーを起こしたいと考えている方には、とくに役立てていただけるでしょう。