キャッシュアウトサービスは、この数年の決済で起きている特に大きな変化の一つです。
という点が気になっている人が多いでしょう。また、すでに知識のある人なら下の点に興味を持つかと思います。
この記事では、上記のポイントを中心にキャッシュアウトサービスに関する主な知識を、全てまとめます。キャッシュアウトサービスについて、社会人として必要な基礎知識は、この記事ですべて把握していただけるでしょう。
(特にアパレル業界の方は、キャッシュアウトがアパレル店舗に与える影響の段落も、参考にしていただけたらと思います)
目次
キャッシュアウトサービスとは?
まず「キャッシュアウトサービスとは何か」をまとめると、下のとおりです。
それぞれ詳しく説明していきます。
お店のレジをATM代わりに使える
キャッシュアウトサービスは、簡単にいうと「お店のレジをATMの代わりに使える」ものです。キャッシュをアウトする(引き出す)という言葉のイメージ通りのサービスです。
※以後、キャッシュアウトサービスは「キャッシュアウト」と短く表記します。
引き出すのは「自分の銀行口座にあるお金」
キャッシュアウトで引き出すお金は「自分の銀行口座にあるお金」です。ただ、当然「全額引き出せる」わけではありません。
- 1万円・2万円・3万円など金額が決まっている
- 金額は店舗や、キャッシュアウト対応の銀行による
- 店舗のレジでお金が不足していたら、対応できないことも
つまりATMのように使えるといっても、ATMほど万能ではありません。しかし、大概のニーズは満たせるため、ほぼATMと同様に使えます。
デビットカードがあれば使える
キャッシュアウトを使うのに必要な条件は「デビットカード」を持っていることです。デビットカードとは何かは、下の段落で解説します。
キャッシュカードでの決済も可能
キャッシュアウトのサービスによっては、現金を引き出せるだけではありません。クレジットカードや電子マネーのように、そのまま決済することも可能です。
当然ですが、普段ATMで使うキャッシュカードは、そのまま買い物に使うことができません。しかし、キャッシュアウトに対応しているレジでは、キャッシュカードで買い物できることがあるわけです。
これは日本のキャッシュアウトではまだマイナーなサービスですが、下の記述でわかります。
小売店での買い物の際、レジで金融機関のキャッシュカードを使って決済したり、その場で現金を引き出して受け取ったりできるサービス。
キャッシュアウトサービス | コトバンク
太字のように、キャッシュカードでの決済も含むことがわかります。ただ、現状の日本では「現金を引き出す」方の意味で使われるのが主流です。
キャッシュアウトサービスで必要なデビットカードとは?
先に書いた通り、あなたがお客さんとしてキャッシュアウトを使うなら、デビットカードが必要です。デビットカードとは何かをまとめると、下のようになります。
それぞれ詳しく説明していきます。
「銀行口座にある貯金の分」だけ使えるクレカ
デビットカードは「銀行口座にある貯金の分だけ使える」クレジットカードです。使い方はほとんどクレジットカードと同じです。
たとえばVISAデビットなら、VISAのマークがある店舗で、VISAのクレジットカードと同様に使えます。ネットショップなどは一部「デビットは不可」ということもあります。しかし、全体ではクレジットと同様に使える場所が多数派です。
普通のクレカと違い、借金にならない
デビットカードとクレジットカードの違いをまとめると、下のとおりです
クレジットカード | 借金である(自分のお金でないのに買い物できる) |
デビットカード | 借金でない(自分の貯金の分しか買い物できない) |
「クレジットカードは借金みたいで嫌だ」という人でも、デビットカードの仕組みなら抵抗を感じないことが多いでしょう。
この金額の範囲内でキャッシュアウトができる
デビットカードで使える金額は「銀行口座に預金がある分」です。キャッシュアウトもこの金額の範囲内でできます。
ただ先に書いたとおり、使える金額は店舗によって異なります。店舗もあまり多くの金額を引き出されても困るためです。
キャッシュアウトサービス・3つのメリット
キャッシュアウトサービスのメリットは、立場別に下のようになります。
顧客 | 買い物のついでに現金を引き出せる |
店舗 | 便利な店舗になることで顧客が増える |
銀行 | ATMを撤廃しコストを削減できる |
それぞれのメリットを詳しく解説していきます。
顧客:買い物のついでに現金を引き出せる
顧客にとっては、ATMを使わずに現金を引き出せるのが便利です。ATMでの引き出しは、以下の理由で「面倒」なことも多いのです。
- 自宅近くにATMがない
- 他行のATMは手数料がかかる
- ATMを使おうとしても並んでいる
上のように感じている人でも「レジでの買い物」は、ほぼ毎日何かしら行います。そのときに一緒に現金を引き出せれば、ATMを使わずとも常時現金を確保できるのです。
店舗:便利な店舗になることで顧客が増える
店舗にとっては「便利な店舗」と思われることで、顧客の利用が増えるのがメリットです。もちろん、どれだけ増えるか、それが採算に合うかは未知数です。
実際にやってみてデメリットの方が大きいことはあり得ます。そのため、現状でもキャッシュアウトに対応していない店舗が多数派です。
現時点で取り組んでいるイオンなどが成功すれば、今後導入する店舗が増えるでしょう。
銀行:ATMを撤廃しコストを削減できる
銀行には、ATMを撤廃してコストを大幅に削減できる、というメリットがあります。銀行は現在、どこもATMを減らしたがっています。ATMには下のようなデメリットがあるためです。
- 土地代・光熱費・メンテナンス費などのコストが高い
- 窃盗やスキミングの被害を受けるリスクもある
- 国全体の流れもキャッシュレス化に向かっている
どの点を見ても「ATMを維持する理由がない」のです。利用者としても銀行のコストが減ってサービスが良くなるならメリットが大きいといえます。
キャッシュアウトサービス・3つのデメリット
キャッシュアウトの導入には、立場別に下のようなデメリットがあります。
顧客 | デビットカードやアプリが必要 |
店舗 | 導入・運用の負担がかかる |
銀行 | 導入やATMの廃止に労力がかかる |
顧客:デビットカードやアプリが必要
顧客は、デビットカードやアプリを用意する必要があります。デビットカードを発行するのも多少の手間がかかり、アプリについてはスマホを使えない高齢者もいます。
一方、従来のATMならほぼすべての高齢者が使い方を理解しており、キャッシュカードも持っています。高齢者の中には「ATMが今のまま維持されること」を望む人が多いでしょう。
店舗:導入・運用の負担がかかる
店舗は、キャッシュアウトのシステムを導入するための負担がかかります。
- 金銭的な負担
- スタッフの訓練
上記の2点が必要になります。導入だけでなく、その後の運用でもコストや手間がかかります。
銀行:導入やATMの廃止に労力がかかる
キャッシュアウトは、銀行の側も自行のデビットカードをキャッシュアウトに対応させるシステムが必要です。この導入には相当な費用と労力がかかります。
また、目的の一つであるATMの廃止についても、やはりすぐに廃止できるわけではありません。それなりの費用とコストが必要になります。
キャッシュアウトサービス・日本の導入事例3選
キャッシュアウトの日本での導入事例は、下の3つが主なものです。
それぞれの事例を説明していきます。
イオン:200店舗で導入が進行中
イオンは43店舗の一部レジで、キャッシュアウトに対応しています。「イオン」「イオンスタイル」の両方の業態が対象です。
2020年2月からは、本州・四国の約400店舗で導入が進んでいます。
参考イオンのレジで現金を引き出せるキャッシュアウトサービスを開始 | PR TIMES
東急電鉄
東急電鉄では、2019年5月8日からキャッシュアウトがスタートしました。券売機がATMになるものです。
誰でも使えるわけではなく「ゆうちょPay」か「はまPay」への対応が条件となります。
八丈島
東京都の八丈島は、2018年7月14日からキャッシュアウトに対応しています。対応しているのは、主に以下の5店舗です。
愛光観光 | タクシー会社 |
あさぬま商店 | スーパー |
居酒屋・大吉丸 | 飲食店 |
レストラン・アカコッコ | 飲食店 |
リードパークリゾート八丈島 | 宿泊施設 |
主導は観光協会ですが、公的な団体による離島での対応事例として、貴重なモデルケースといえます。
参考キャッシュアウトサービス開始のお知らせ | 八丈島観光協会BLOG
キャッシュアウトサービス・海外の導入事例5選
キャッシュアウトは日本より海外で積極的に展開されています。ここでは、以下の5カ国の導入事例を紹介します。
以下、それぞれの国の事例です。
アメリカ
2016年時点で54億枚のカードが発行されているアメリカ。デビットカードの枚数はクレジットカードより多く、ほとんどのアメリカ人がデビットカードを所有しています。このため、キャッシュアウトサービスも非常に盛んになっています。
参考Number of debit cards in the United States from 2000 to 2017 | statista
ドイツ
ドイツ人は現金で支払う割合が高く、約4回に3回は現金での支払いとなっています。このため、現金を引き出すサービスも便利な方が良く、キャッシュアウトも支持されています。
【PDF】スウェーデンのキャッシュレス化・ドイツのキャッシュレス化(下)ドイツ編 | 財務省
スウェーデン
スウェーデンは、キャッシュアウトの導入が特に盛んな国の一つです。財務省の資料でも、下のように報告されています。
スウェーデンにおけるキャッシュレス決済は、クレジットカード、デビットカード、モバイル(Swish)といずれも銀行預金に連動、すなわち預金保険で保護されている商業銀行マネーに紐づけられ、キャッシュアウト可能である。
スウェーデンのキャッシュレス化・ドイツのキャッシュレス化(上)スウェーデン編 | 財務省
太字のように、下のすべてがキャッシュアウトに対応しています。
- クレジットカード
- デビットカード
- モバイル(Swish)
日本のキャッシュアウトはデビットカードのみですが、スウェーデンはクレジットカードやモバイルでも同じことができるわけです。
(モバイルは日本でいう、auかんたん決済・ドコモ払い・ソフトバンクまとめて支払いなどでしょう)
カナダ
カナダも広範囲でキャッシュアウトに対応しています。現地在住者の方のブログによれば、主にスーパーやドラッグストアで対応しているとのことです。
逆にアパレル店やレストランなどは対応していないとのこと。この理由は、レジでの現金の出し入れが激しいスーパーなどの方が対応しやすいためでしょう。
オーストラリア
オーストラリアのキャッシュカードにはEFTOPOS(エフトポス)という機能が付いています。これが日本でいう、デビットカードの機能です。これが付いたカードを使い、キャッシュアウトを利用します。
キャッシュアウトサービスが各業界に与える影響
キャッシュアウトが各業界に与える影響は、主に下のようなものがあります。
ATMメーカー | 打撃を受ける可能性が高い |
クレジット会社 | 各社とも不利。決済会社は別 |
電子マネー発行会社 | 現金・デビットが強くなるため不利 |
それぞれ詳しく解説していきます。
ATM製造メーカー:打撃を受ける可能性が高い
キャッシュアウトは「ATMが要らなくなる」サービスです。当然、ATMのメーカーは打撃を受けます。
日本のATMメーカーは、下の3社が御三家と呼ばれています。
- 日立オムロン
- 沖電気工業(OKI)
- 富士通フロンテック
この御三家も危機感を持っており、下の記事で報じられているとおり、海外展開を進めているのが現状です。
参考日本の“ATM御三家”海外展開加速 | SankeiBiz
クレジット会社:各社とも不利。決済会社は別
クレジットカード会社も不利になります。キャッシュアウトが進むとデビットカードが強くなるためです。
しかし、VISA・Master Card・JCBなど「決済を管理している大元の会社」は不利になりません。デビットの決済も、これらの会社が管理しているためです。
不利になるクレジット会社とは、VISAやMasterなどのブランドを使って「カード発行だけをする会社」です。たとえば下のような会社です。
- クレディセゾン
- イオンカード
- 楽天カード
有名な会社のみを挙げましたが、要は「ほとんどのクレジット会社が不利になる」と考えてください。
電子マネーもやや不利(デビット・現金が強くなる)
電子マネーを管理する会社も不利になります。デビット・現金が強くなることで、相対的に電子マネーが弱くなるためです。
具体的には、Suicaを運用するJR東日本などが挙げられます。
キャッシュアウトサービスと銀行法・3つのポイント
キャッシュアウトと銀行法の関連をまとめると、下の3点がポイントとなります。
それぞれ詳しく説明していきます。
2017年4月「改正銀行法施行規則」の施行で広まる
キャッシュアウトがここ数年で盛り上がっているのは、2017年4月に「改正銀行法施行規則」が施行されたからです。簡単にいうと銀行法が改正されたということです。
参考いよいよ日本でJ-Debit「キャッシュアウトサービス」が解禁へ | payment navi
「銀行口座からの払い出し業務の外部委託」が許可された
この改正では「銀行口座からの払い出し業務」を外部に委託することが許可されました。
銀行口座からの払い出し業務 | 引き出しのこと |
外部委託 | 各店舗のレジのこと |
上の表のように「各店舗のレジで引き出せるようにしていいですよ」という許可が、金融庁から出たわけです。これがキャッシュアウトの流れが加速している理由です。
イオン銀行・ゆうちょ銀行・横浜銀行・京都銀行などが対応
2020年3月2日自店では、下のような銀行が主に対応しています(それぞれの対応を紹介した公式ページにリンク)。
横浜銀行や京都銀行のような地方銀行も対応しているのが、特筆すべき点です。2行の取り組みが成功したら、他の地方銀行でも導入する動きが強まるでしょう。
キャッシュアウトサービス・ゆうちょ銀行の取り組み
現在、日本の銀行でキャッシュアウトの導入に最も積極的なのはゆうちょ銀行です。ゆうちょ銀行の取り組みのポイントをまとめると、下のようになります。
使える場所 | 東急電鉄の券売機がメイン |
手数料 | 平日昼間110円、夜間・休日は220円 |
利用条件 | ゆうちょPayの登録が必要 |
それぞれのポイントを解説していきます。
使える場所:東急電鉄の券売機がメイン
2020年3月2日自店では、ゆうちょ銀行のキャッシュアウトが使えるのは、東急電鉄の券売機がほぼすべてです。詳細は下のとおりです。
使える場所 | 東急電鉄・自動券売機 |
使える時間 | 毎日5:30-23:00 |
使える機能 | ゆうちょ銀行口座からの現金引き出し |
使い方は、QRコード読取機に、スマホに表示したQRコードを読み込ませるというものです。
参考ゆうちょPayを使用したキャッシュアウトとはどのようなサービスですか。| ゆうちょ銀行
手数料:平日昼間110円、夜間・休日は220円
ゆうちょ銀行のキャッシュアウトの利用手数料は、下のようになっています。
利用時間 | 手数料 |
---|---|
平日8:45~18:00 | 110円 |
上記以外(休日含む) | 220円 |
細かい条件を補足すると、下のとおりです。
- 自動貸付を伴う場合、利用時間に関係なく手数料は110円
- 休日には、1月2日・1月3日を含む
- 利用手数料は税込み
さらに詳しい最新の情報は、下のページをご覧ください。
参考【PDF】キャッシュアウトご利用手数料一覧 | ゆうちょ銀行
利用条件:ゆうちょPayの登録が必要
ゆうちょ銀行のキャッシュアウトを使うには「ゆうちょPay」に登録している必要があります。詳しい使い方は下の公式YouTubeの動画を見るとわかりやすいでしょう。
【※音が出ます】YouTube「ゆうちょPay キャッシュアウトご利用方法」
キャッシュアウトサービスがアパレル店舗に与える3つの影響
キャッシュアウトがアパレルの店舗に与える影響は、主に下の3点です。
それぞれ詳しく説明していきます。
POSレジの導入とぶつかる可能性がある
すでに店舗でPOSレジを採用している場合、キャッシュアウトのシステムと共存できない可能性があります。
POSレジの種類にもより、キャッシュアウトの種類にもよりますが、両者をどう共存させるかが課題になるでしょう。
デパート・モール全体での導入に影響を受ける
あなたの店舗や会社がキャッシュアウトに興味をい持たなくても、デパートやショッピングモール全体で導入することがあります。イオンが好例です。
この場合、何らかの形でキャッシュアウトの影響を受けることになります。もちろん「格安でシステムを導入できる」などのメリットも考えられます。
クレカ・電子マネー対応の必要性が下がる
キャッシュアウトに対応すると、お客さんが現金で購入しやすくなります。支払いをする時点で現金がなくても、レジで引き出して、そのままそのお金で支払えるためです。
現金が便利になるため、クレジットカードや電子マネーに対応する必要性が薄れます。「現金中心で行きたい」と考えている店舗にとっては良い流れといえるでしょう。
まとめ:キャッシュアウトの動きを見ながらPOSレジ導入を検討しよう
記事の中で書いたとおり、キャッシュアウトはPOSレジの仕組みとぶつかることもあり得ます。そのため、POSレジを導入している、あるいは導入する予定の店舗では、キャッシュアウトの動きも注視する必要があります。
自店のPOSレジでキャッシュアウトに対応するにしてもしないにしても、多くのPOSレジを比較することは重要です。その比較対象の一つとして、弊社が提供する「アパレル管理自動くんPOSレジ」をおすすめします。
アパレル管理自動くんPOSレジは、アパレルに特化した高機能クラウド「アパレル管理自動くん」と連携したPOSレジです。通常のPOSレジと違い、アパレル店舗に特化しており、アパレル特有のデータ管理をしやすくなっています。
キャッシュアウトの導入と並行して、このようなアパレル特化型のPOSレジの導入も、ぜひご検討いただくといいでしょう。アパレル管理自動くんPOSレジの詳しい情報は、下のボタンのリンク先からご覧いただけます。
アパレル企業のためのクラウドPOSレジ