2021年10月に発表された、老舗アメカジブランド『エディー・バウアー』による日本事業からの完全撤退は、大きな話題を呼びました。
加えて、2021年には「ユナイテッドアローズ」銀座店・青山店の閉鎖、「HACKETT LONDON(ハケット ロンドン)」銀座の閉店、その他にも「ベネトン」「KOOS」など、アパレル業界における事業撤退・縮小は近年多く見られるようになっています。
国内ブランドの事業縮小や海外大手ブランドの日本撤退など、これらの事例を見て、下記の点に関心を持っている方も多いでしょう。
この記事では、上記の内容を多くの情報源とともに解説していきます。
どのような苦境でも維持できるブランドをつくりたいと考える経営者・ブランドメンバーの方々には、きっと事業運営のヒントとしていただけるでしょう。
(なお、2020年にも多数のアパレルブランドが終了・撤退しています。下記の記事もあわせて読んでいただくと、この2年間の流れをさらに正確に把握していただけるでしょう)
目次
【外資】2021年に日本撤退したアパレルブランド
外資(海外)のアパレルブランドで、2021年に日本を撤退したものを一覧にすると、下のとおりです。
ここでは、それぞれの撤退の概要と理由を紹介していきます。
エディー・バウアー
出典:エディー・バウアー
エディー・バウアー(Eddie Bauer)は、2021年10月18日に、日本事業終了を発表しました。
内容は下記のとおり、全店舗の閉鎖やECの終了など「全事業からの撤退」です。
全国で展開する56店舗(アウトレットを含む)の閉鎖だけでなく、ECやカタログ通販を含む全事業を12月中に終了するもの。
エディー・バウアー日本撤退の深層・真相 閉店発表で売上げ急上昇中 再上陸時の成功のカギは?|Yahoo!JAPANニュース
時期は2021年12月までとされ、発表から現在まで、ブランド終了を惜しむ人々による駆け込み需要が続いています。
ハーシェル サプライ
出典:ハーシェル サプライ
ハーシェル サプライ(Herschel Supply)は、2009年にカナダで生まれた比較的新しいブランドです。
国内では東証1部上場のTSIホールディングスが取り扱っていましたが、2020年9月16日に撤退が発表されました。
展開する「ハーシェル サプライ(Herschel Supply Co.)」「ファクト(FUCT)」の2ブランドの事業撤退を決定した。
引用:TSIホールディングスがハーシェル サプライとファクトの2ブランドの事業から撤退へ、300人の人員削減も実施|exciteニュース
終了の理由は、後に紹介するワールドと同じく構造改革のためです。
TSIは2020年上半期に88店舗を閉鎖し、さらに発表時点で追加122店舗を閉鎖する予定でした。
プレミアータ
出典:プレミアータ
イタリアの老舗シューズブランドであるプレミアータ(PREMIATATA)は、2021年6月30日に、日本唯一の直営店の閉店を発表しました。
(前略)「プレミアータ(PREMIATA)」が、銀座店の営業を6月30日に終了する。
伊発シューズブランド「プレミアータ」日本唯一の直営店が閉店、銀座で約3年営業|FASHIONSNAP.COM
終了の理由は、コロナ禍によるインバウンド需要・国内需要の低下などと、メディアの取材に対して回答されています。
総代理店契約を結ぶウニエ貿易との契約は継続し、EC販売は今後逆に強化していく方針です。
【国内】2021年に終了したアパレルブランド
国内のブランドで、2021年に展開を終了したものを一覧にすると下のとおりです。
それぞれの終了の概要と理由を説明していきます。
アナトリエ(ワールド)
出典:ワールド
ワールドが展開するブランドの1つ『アナトリエ』は、2021年2月末にブランドが終了しました。
かつてのアナトリエの公式サイトでも、下のように終了の挨拶が書かれています。
2021年2月末をもちまして、ブランドを終了する運びとなりました。(後略)
アナトリエ(ワールド)
アナトリエは「自分らしさを大切にする女性」たちに向けて、個性豊かなファッションピースを揃えるブランドとして人気を博していました。
アナトリエの終了が発表されたのは、2020年8月5日です。
ワールド全体の構造改革の一環として、終了が決まりました。
この際、アナトリエを含む下記5ブランドが同時に終了しています。
- アナトリエ
- ハッシュアッシュ
- サンカンシオン
- アクアガール
- オゾック
ワールドは発表時点で「今後もコロナ禍が継続する」と判断し、5ブランドの終了を決定しました。
ステア
出典:ステア
デザイナーの武笠綾子氏が立ち上げた人気ブランド『ステア』も、2021年の春夏コレクションで終了となりました。
この度STAIRは2021SPRING&SUMMER COLLECTIONをもって
ブランド終了とさせて頂く事になりましたことを
ご報告させていただきます。
ステア公式サイト
ステアは2016年に誕生、2017年に東京新人デザイナー賞を受賞し、パリでの展示会を開催するなど、短期間で高い評価を確立していたブランドです。
ブランド終了の理由について武笠氏は「コロナ禍で自分と向き合う時間ができ、デザイナーとして心からやりたいと思えることに挑戦したいと考えた」という旨をインタビューで語られています。
参考【インタビュー】「ステア」がブランド終了、武笠綾子が語るデビューからの5年間とこれから|FASHIONSNAP.COM
タロウ ホリウチ
出典:タロウホリウチ
堀内太郎氏が手掛けるウィメンズブランド『タロウホリウチ(TARO HORIUCHI)』は、2021年秋冬コレクションでの終了が発表されています。
タロウホリウチは、一過性のインパクトに頼らない独自のデザインで人気を博しているブランドです。
参考堀内太郎の「ティーエイチプロダクツ」がウィメンズを始動 「タロウホリウチ」は20-21年秋冬で休止|WWD
終了の理由について、堀内氏はインタビューで下記の旨を語られています。
- 本当にやりたいブランドである『ティーエイチプロダクツ』が順調に成長している
- こちらに集中するため
- タロウホリウチも含め、ウィメンズウェアはマーケットに寄り添わないといけない
- マーケットに合わせると自分の中で咀嚼しきれない部分があった
- やりたいことに専念した方がいいのではないかと、2018年頃から考えていた
上記で堀内氏が語られている理由も、ステアの武笠氏と共通するものだといえます。
【理由】2021年のアパレルブランド撤退・終了の原因
2020年に引き続き、2021年にもアパレルブランドの撤退・終了が相次いだ原因は、下のとおりです。
それぞれの理由について説明していきます。
コロナ禍で打撃を受けた
2020年~2021年のブランド終了といえば、誰もが思い浮かべる原因が「コロナ禍」でしょう。
ここまで紹介してきたワールドやTSIホールディングスなど、東証1部上場のアパレル企業も、コロナ禍の影響でブランド終了を断行しています。
1度目の緊急事態宣言が出された2020年4月は、直営店の約9割に相当する2,227店舗の臨時休業を余儀なくされ、売上に大きな影響が出た。
大量閉店、ブランド廃止、希望退職者募集……アパレル大手ワールドは苦境を乗り切れるのか|THE OWNER
一方、ユニクロのようにコロナ禍で過去最高益を記録している企業もあります。
「戦時中など緊急の状況では芸術が必要とされなくなる」ものですが、ユニクロのように「生活に密着したブランド」は非常時でも強いといえるでしょう。
ファストファッションに押された(高級ブランド)
高級ブランドについては、2000年代半ばから継続して、ファストファッションに押され続けています。
ファッション流通コンサルタントの齊藤孝浩氏も、以下のように指摘されています。
(前略)百貨店で展開されているような高級ブランドに、かつての勢いはない。その代わり賑わっているのが、ユニクロやザラ、H&Mなど、製造から販売までを自社で手がけるいわゆるSPA(製造小売業)型のファッション企業だ。
「アパレルが死んだ」とはどういう意味か|プレジデント・オンライン
事実、多くのブランドが終了したコロナの情勢下でも、ユニクロは過去最高益を記録しています。
この差を見ても、デフレが続く今の日本ではファストファッションが高級ブランドより断然有利な立ち位置にあることがわかります。
日本での商品戦略に失敗した(海外ブランド)
ファッションビジネス・ジャーナリストの松下久美氏は、エディー・バウアー撤退の原因の1つとして「日本での商品戦略の失敗」を挙げられています。
参考エディー・バウアー日本撤退の深層・真相 閉店発表で売上げ急上昇中 再上陸時の成功のカギは?|Yahoo!JAPANニュース
指摘されている内容を要約すると、下のとおりです。
- エディー・バウアーは「アウトドア系」のブランドである
- しかし、発祥の地のシアトルは気候が穏やかである
- つまり「ガチなアウトドア」でなく、ファッションとしてのアウトドアだった
- このコンセプトは米国では受けたが、日本では「曖昧」だった
- ユニクロや、ダウンウェアを得意とする高級ブランドと、差別化できなかった
- 状況の打開を図り、ヨガやハイキングなど、さらゆる用途のラインを用意した
- しかし、逆にブランドのコンセプトがぶれてしまった
実際、日本で売れなかったアイテムでも、バイヤーの方々から見て「アメリカの郊外なら売れるであろうアイテム」が多数あったということです。
エディー・バウアーほどの有名なアメリカブランドであっても、現地のニーズに適応できなければ売上を伸ばすのは難しいということです。
他事業の失敗などで企業本体が弱っていた
アパレル企業も、成功すると他事業に進出することがしばしばあります。
これで成功することもあれば、失敗することも当然多いものです。
たとえば、ユニクロ(ファーストリテイリング)は、2002年に有機野菜販売の事業を始め、30億円の赤字を出しています。
同社は1年半ですぐに撤退したのですが、こうした撤退をすぐにできない場合や、本業がユニクロほど強くなかった場合は、その失敗が原因で企業本体が弱ることがしばしばあるものです。
【考察】長期間ブランドを維持するには?
コロナ禍のような大打撃を受けても長期間ブランドを維持するには、下記のような姿勢・意識が必要です。
それぞれの内容を説明していきます。
時代の変化に合わせる
第一に重要なのは「時代の変化に合わせる」ことです。
たとえば2020年の日本を代表する大型倒産であった、レナウンの破産。
同社については、「時代の変化に数十年前から遅れていた」と、作家の黒木亮氏らにも指摘されています。
参考「民事再生」レナウン、最初の躓きはバブル絶頂期に|JBpress
ユニクロも年々商品のラインナップやブランドの立ち位置が変わっており「常に変化する」ことの重要性を体現しています。
海外では出店先の文化に合わせる
エディー・バウアー撤退の原因を見ても、海外に出店するブランドは、現地の文化にあわせることが重要といえます。
海外進出というと特別なことに感じられるでしょうが、近年はeBayなどの越境ECにより、簡単に海外展開をできる時代です。
エディー・バウアーも含め、大手ブランドが進出先の文化に合わせることに苦しんでいる事例を見ると、海外のニーズにあわせてニッチな商品を売ることに関しては「むしろ中小事業者の方が有利」という可能性もあります。
(近年Amazonで大量に見られる中国系のショップは、良くも悪くも参考になるでしょう)
実店舗を低コストで運営する
とくに店舗の閉鎖については「実店舗のコストが高い」ということが、ブランド終了の一因になっていることがしばしばあります。
たとえば、下記の『サンモトヤマ』が終了した事例です。
家賃は従来に比べて大きくハネ上がった。サンモトヤマの聖地とも言えるこの場所にこだわったのが、今回の自己破産の遠因と言われるが、確かに倒産してしまっては、元も子もない話である。
サンモトヤマはなぜ自己破産したのか?|WWD
この点は、次の段落の内容にもつながります。
あえて店舗を持たない・拡大しない
出典:セシルマクビー
そもそも店舗を最初からもたない、あるいは拡大しないという選択肢もあります。
たとえば、2020年に店舗での営業を終了し、日本中に衝撃を与えたセシルマクビー。
同ブランドは終了発表時から「ECへのシフト」を宣言しており、実際に2021年8月からECサイトで再始動しています。
出典:セシルマクビーが再始動、公式オンラインストア「ミーコレクト」開設|FASHIONSNAP.COM
また、先に紹介した『プレミアータ』についても、やはりECをこれから逆に強化していく方針です。
これらの事例を見ても、最初からECがメインであればブランドの終了リスクは低くなるといえます。
他事業への進出は慎重に行う
大企業でも中小企業でも、本業が軌道に乗ると他の事業を手がけることが多いものです。
これは必ずしも悪いことではなく、世界のアパレル企業では下記のとおり多数の成功例があります。
INDITEX(ZARA) | 金融・保険・通信・インフラ・不動産・飲食(スペイン最大の企業になった) |
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Benetton | インフラ事業(高速道路など)※これらがコア事業に |
LVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン) | 5つの事業療育、免税店チェーンDFSが特に大きい |
アルマーニ、ブルガリ | ホテル・レストラン・カフェ事業でも成功 |
ただ、失敗も当然あります。
先述のユニクロは「失敗してすぐ撤退し、後に成功した」典型例です。
有機野菜で失敗し、GUで成功
出典:“ユニクロ野菜”の大失敗から年商2300億円! 激安&大満足アパレルでカリスマを唸らせた男|テレ東BIZ
ユニクロの有機野菜事業は1年半で30億円の大赤字を出し、すぐに撤退が決まりました。
このとき失敗した担当者が、現在ジーユーの社長である柚木治氏です。
柚木社長は失敗直後に辞表を出したのですが、柳井会長が「また挑戦して成功してください。そしてお金を返してください」と、商人らしい言葉で激励されたとのことです。
ここからGU誕生というドラマにつながるのですが、ユニクロのように「他事業に進出して失敗したらすぐ撤退する」ことの重要性が、この事例でもわかります。
【まとめ】不況にも耐えられるブランドづくりのために
不況時やコロナ禍のような非常時にも耐えられるブランドを育てるためには、顧客のニーズを正確につかむことが不可欠です。
そして、顧客ニーズを正確に掴むためには、販売管理の膨大なデータを効率的に収集し、常に多方面から分析する必要があります。
そのような収集・分析を行う上で有効なツールが、アパレルの販売・在庫管理に特化した高機能な自動化システムです。
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