2020年7月に、渋谷のギャル文化の象徴だった「セシルマグビー(CECIL MCBEE)」が店舗事業からの撤退を発表しました。その他にも「ティアンエクート」、「ベネトン」、「ルパート」など、近年のアパレル業界では、ブランドの事業撤退・縮小や海外大手ブランドの日本撤退が多く見られるようになってきています。
過去撤退したブランドを調べる人は、上記のような点について気になる方が多いでしょう。ここでは撤退したアパレルブランドの実例とその理由、ブランド維持のための施策について詳しく解説します。この記事を見ることで、不況に強いアパレル事業運営づくりの参考にしていただけるでしょう。
※2021年最新版の記事はこちらで紹介しています。
目次
【実例】2020年に撤退を発表したブランド
ワールド
ワールドは2016年3月末までに、全店舗の15%にあたる、約400~500店舗を閉店しました。さらに、2021年には「アクアガール」や「オゾック」などの5つのブランドを廃止し、国内にある350店舗余りを閉店すると発表しました。
ワールドは1959年に創業以来、メンズやレディース、靴や雑貨など多くのブランドを展開し、ショッピングセンター内や直営店で販売しています。今後はその他のブランドについても統廃合が行われる予定です。
TSIホールディングス
TSIホールディングスは2021年2月末までに、子会社ジャックが運営する「ファクト」「ハーシェルサプライ」の2ブランドの事業から撤退し、122店舗を閉店すると発表しました。TSIホールディングスは2014年頃にも、2200あった連結店舗数を約4割となる941店舗まで削減しています。
TSIホールディングスは2011年(平成13年)に東京スタイルとサンエー・インターナショナルが経営統合して誕生し、中間価格帯の衣料を販売してきました。今後はTSI・プロダクション・ネットワーク、TSI EC ストラテジー、エス・グルーヴの3つの機能子会社を含め、国内の事業子会社を1社に統合していく予定です。
オンワードHD
オンワードホールディングスは2021年2月期に国内外で約700店舗を閉店すると発表しました。同社は2020年2月期にも約700の店舗を閉店しました。また、中核会社のオンワード樫山は、2020年2月期に百貨店販路の売り場面積を約2割削減しました。
オンワードHDは1947年に設立され婦人服を主力とする大手アパレルメーカーです。今後は「EC専用商品の積極的な開発」と「新規顧客の開拓」を本格化し、成長戦略の柱とするカスタマイズ、ライフスタイルの分野にも注力していく予定です。
レナウン
レナウンは2020年5月に民事再生法を申請し、7月後半には「ダーバン」「アーノルドパーマー」などのブランドを突然閉店しました。そして2020年11月、裁判所から民事再生手続きの廃止決定を受けたことが明らかになり、今後1か月後をめどに破産開始の決定を受けることとなりました。
レナウンは2004年に設立し、アパレル製品および雑貨の企画・製造・販売を手がけていて、 レディス、メンズブランドからインナー・ソックスを扱うブランドまで幅広くアイテムを取り扱っていました。
参考アパレル大手「レナウン」破産開始決定へ 1か月後をめどに
【実例】過去に撤退した有名ブランド
TOPSHOP
出典:Topshop
英発「TOPSHOP」は、2015年1月末に国内の全店舗を閉店し、事実上日本撤退となりました。TOPSHOPは1964年にイギリスで生まれたファッションブランド。トレンド商品の回転の早さやカラー・デザインの豊富さなどが地元では人気で、ややストリート色の強いファッションが特徴です。2006年9月にラフォーレ原宿に1号店をオープンし、主要都市に店舗を展開してきました。
アメリカンアパレル
アメリカンアパレルは、2016年11月に渋谷店、代官山店、アメ村店の全3店舗を閉店することを発表しました。同ブランドは1989年にアメリカで設立され、誰もが着こなせるベーシックなアイテム展開、そして幅広いライン数と豊富なカラーバリエーションが世界中で人気です。
閉鎖される渋谷のレディース館は、2012年に同ブランドの売上高世界一の店舗になるほどの人気店で、惜しまれつつも撤退となりましたが、カナダの衣料品メーカー「ギルダンアクティブウェア(Gildan Activewear)」による買収で新体制となり、2017年にECサイトから購入出来るようになりました。
アメリカンイーグルアウトフィッターズ
2019年、米カジュアルブランドの「アメリカンイーグル アウトフィッターズ(AMERICAN EAGLE OUTFITTERS)」は日本国内の全33店舗とオンラインサイトを12月末までに閉めることを発表しました。
同ブランドは2010年12月から、青山商事がアメリカのアメリカン イーグル アウトフィッターズ(American Eagle Outfitters/以下、AEO)社のフランチャイジーとして運営してきました。しかしeコマースサービスを提供する米企業Localisedが協業し、2020年7月、日本版の公式オンラインストアが復活しました。
Old Navy
出典:Old Navy
米衣料品大手ギャップが2016年5月、低価格ブランド「オールドネイビー」の全53店舗を2017年1月までに閉鎖し、日本市場から撤退することを発表しました。オールドネイビーは2012年に日本上陸し、ファミリー向けのアイテムラインナップをそろえることから郊外や地方のショッピングモールなどに積極的に出店してきました。今後は日本国内で「ギャップ(GAP)」と「バナナ・リパブリック(Banana Republic)」の事業に焦点を絞って経営していく予定です。
Forever21
出典:Forever21
米国発ファストファッションブランドの「フォーエバー21(FOREVER21)」は、2019年の10月末で日本にある全14店舗とECショップを閉鎖し、日本から撤退することを発表しました。フォーエバー21は2009年に第1号店をオープンし、新宿、渋谷、横浜など、都市部を中心に店舗を展開していました。低価格で流行を採り入れたファストファッションの代表例として知られる同ブランドの撤退を受け、ネット上では別れを惜しむ声や驚く声が殺到しました。
【撤退理由①】大手アパレル企業によるブランド事業縮小
大手アパレル企業が公開している、ブランド縮小理由には以下のものがあります。
ブランド縮小の理由 | |
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ワールド | 新型コロナウイルスによる売上減。出店拡大。 |
TSIホールディングス | 新型コロナウイルスによる売上減。ブランドポートフォリオの見直し。 |
オンワードHD | 新型コロナウイルスによる売上減。出店過多。百貨店販路の低迷。 |
レナウン | 新型コロナウイルスによる売上減。百貨店販路の低迷。 |
近年多くの大手アパレルブランドは、主要販路である百貨店や路面店など対面販売チャネルの売れ行き不調を主な原因とするケースが多いです。
ワールドは出店拡大により、家賃や人件費などが膨らみ利益を圧迫しました。また「QR(クイックレスポンス)」と呼ばれる期中企画品の投入が行われましたが、ブランドの違いが曖昧になり足かせとなりました。オンワードHDも出店過多により、採算が取れる店舗数を超えてしまっていた可能性が高いと言われています。店舗が採算に見合う売り上げを確保しようと思えば、それを支えるだけの市場規模が存在している必要があるのです。
TSIホールディングスは2015年、既存事業の収益化を目的とし収益貢献が困難であると判断したブランドを廃止するブランドポートフォリオの見直しを行いました。今回、再度ブランド縮小を発表し2021年2月期業績は予想困難としていますが、2年ぶりの最終赤字転落が見込まれています。
また新型コロナウイルスは、適切な出店計画、リスクヘッジを考えた商品販売戦略(販売チャネルの分散化)、不測の事態のための企業資金など、不安定なバランスの元運営が成り立っていた企業の課題を鮮明に浮かび上がらせました。それらが原因で倒産、撤退したブランドが多くみられます。
参考ワールド:500店閉鎖 ワールド、惰性のツケ オンワード:オンワード「700店大閉鎖」、コロナで旧来型アパレルは“即死”か
【撤退理由②】海外大手ブランドの撤退
日本撤退の理由 | |
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TOPSHOP | 本社機能の欠如。店舗数の少なさ。 |
アメリカンアパレル | 米本社の経営難。 |
アメリカンイーグル | フランチャイジーの業績不振。競合ブランドの影響。流行の遅れ。 |
Old Navy | 成長戦略の一環。流行の遅れ。 |
Forever21 | 本社機能の欠如。競合ブランドの影響。流行の遅れ。 |
海外企業の撤退は日本で店舗経営をする際の経営構造が原因になるケースが多いと言えます。具体的には、日本法人経営(子会社経営)やフランチャイズ経営などがそれにあたります。
TOPSHOPは他の海外ブランドが事業を直接コントロールする日本法人を設立する一方、 T’s という法人が日本での独占販売権を得る形で事業を進めていました。そのため完全に独立採算制であることが、経営がうまくいかなかった理由だと言われています。また8年間で5店舗という店舗数の少なさも問題だったと言われています。
アメリカンアパレルの日本撤退は、本社の経営がうまくいかなかったケースです。2015年10月に、米国連邦破産法第11章を申請しており、事業の継続が難しいのでは、といわれていました。
参考TOPSHOP:英「トップショップ」全店閉店の理由を考える
アメリカンイーグルアウトフィッターズは、フランチャイジーとして運営していた青山商事の屋台骨である「洋服の青山」などの事業が苦戦していたため、撤退を余儀なくされました。ユニクロのような国内で圧倒しているブランドの存在も海外ブランドに影響を与える一因になったようです。Old Navyと共通する業績不振の理由としては「アメカジ」が若者のトレンドではなくなったこと、知名度が低かったことなどがあります。
またOld Navyは日本撤退を「業績低迷に伴う世界的なリストラ計画の一環」とし、今後は「OLD NAVYの成長を見通して、最も有利な市場にフォーカスする。」と発表しています。
参考アメリカンイーグル:なぜ「アメリカンイーグル」を手放すのか 青山商事、スーツとアメカジの誤算
フォーエバー21の撤退理由は、日本に本社機能を置かなかったため日本に合わせた品ぞろえや組織運営などを行うことができなかったことや、低価格ファッションや韓国系ブランドが台頭してきたことなどがあります。また若い世代のミレニアルズ達が、使い捨てを良しとせず長く着られるアイテムや、「メルカリ(MERCARI)」や古着店などでの2次流通で高値で取引される品質力や換金性の高さを求めるようになったといいます。
参考フォーエバー21:一世を風靡した「フォーエバー21」はなぜ失速したのか?
【考察】長期間ブランド展開を維持するには?
近年新型コロナウイルスの影響により世界的にアパレル企業が経営難に陥る傾向にある中、売り上げを伸ばしている企業もあります。
公式サイトやアプリに誘導する
ユニクロはECでの集客を向上させています。まずはコロナの影響で外出自粛が本格化した3~4月にかけてWebサイトへの誘導を強化した広告を打ち出し、アクセス数を増やしました。自粛明けの5~6月にかけては「アプリ会員特別限定価格」での商品販売を開始し、アプリの利用者数を増やしました。また、「エアリズムマスク」の販売など、トレンドをしっかり押さえた戦略も話題です。
費用を抑え、SNSでの宣伝に注力
foufou(フーフー)は20代女性を中心に幅広い層から支持されているブランドです。2020年2〜5月、4カ月連続前年同月比で200%以上の売り上げ成長を遂げました。その戦略は「広告宣伝費はゼロ円」「セールは一切しない」「販路を拡大しない」ことです。また、実店舗を持たないブランドであるため、全国各地で試着会を実施したり、LINE@やインスタグラム、noteなどのSNSで新作情報やブランド理念を発信したりしています。
オンラインをとことん活用
アダストリアは「グローバルワーク」「ローリーズファーム」などのアパレルブランドを展開しています。2020年3-5月期(第1四半期)におけるアダストリア単体の売上高は同56.5%減だったものの、スタッフによるスタイリング写真の投稿を増やし、インスタライブでは閲覧者からのコメントに対してリアルタイムで回答する「オンライン接客」を行いました。また商品を購入した消費者のレビュー投稿を促し、商品閲覧者の購入を後押しできるようにしました。
その他にも、販売チャネルの多様化や店舗の役割の変化など、世情の変化にも柔軟に対応していく必要があります。そのため、常に新しく活用できるツールには目を向けていく必要があるでしょう。リモート時代に注目されている手法や事例は以下の記事で詳しく解説しています。
まとめ:実店舗の役割を見直し、需要を見極める
今後のアパレル業界は、新型コロナウイルスの影響による営業不振が続く見込みです。そのため家賃や人件費がかかる実店舗を縮小し、EC事業に注力する企業が増えるでしょう。またサイズを確かめるため、あるいは広告塔としての役割の実店舗は意味を失いつつあります。改めて、ECでは出来ない実店舗の役割を考えなければなりません。
世の中の目まぐるしい変化に対応して、消費者趣向が変化しアパレル業のあるべき姿も変わっていきます。より一層、世間や人の動きに注目し、慎重に事業を展開する必要があるでしょう。
2020年以降に撤退を発表したブランド一覧
2020年以降に撤退するブランドをまとめると下のようになります。
撤退する時期 | ブランド(会社名) |
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2020年7月 | ダーバン(D’URBAN)、アーノルドパーマー(Arnold Palmer) |
2020年8月末 | Stuart Weitzman |
2020年9月末 | フランシュリッペ |
2020年10月末 | Claire’s |
2021年2月 | セシルマクビー(CECIL MCBEE)、ソフィラ(sophila)、ビーラディエンス(BE RADIANCE)、エージープラス(a.g.plus)、ルモアーズ(Rumor.s)、ファビュラス アンジェラ(Fabulous Angela)、ナイン(NINE)、カシェック(CACHEC) |
2021年2月末 | ハーシェル サプライ(Herschel Supply Co.)、ファクト(FUCT) |
2021年3月期 | ハッシュアッシュ・サンカンシオン(HUSHUSH 3CAN4ON)、アクアガール(AQUAGIRL)、オゾック(OZOC)、アナトリエ(ANATELIER) |