アパレルショップに来店するお客さまは、ショップの内装を見て入店を決めます。そのため、ブランドの魅力を内装で表現すること、お客さまが回遊しやすいレイアウトにすることは内装デザインにとって非常に大切です。
また、お客さまの購買意欲や店員のモチベーションも内装デザインに大きく影響を受けるため、設計は慎重に考える必要があります。
この記事では、物件の選び方のポイントや内装をデザインする際に気をつけたいこと、施工業者の選び方や相場を事例を交えて解説します。店舗を出店したい、内装をリニューアルしたいとお考えの方はぜひご一読ください。
目次
アパレルショップの内装づくりに必要な準備
ネットで内装デザインの画像を検索したり、店舗に置くテーブルや棚を探したり・・・店舗の出店や内装のリニューアルが決まると夢がふくらみますね。
理想の内装デザインに仕上げるためのステップを、順を追って解説していきます。
店舗のコンセプトを決める
まずは、店舗のコンセプトを決めましょう。
コンセプトを決める際は下記の3つのポイントを押さえて考えてみてください。
- 市場のニーズ(どのターゲット層に訴求するのか)
- 商品の強み(ターゲット層に何を提供できるか)
- 競合との差別化(なぜ当店から購入するのか)
アパレルショップの場合、展開するブランドのコンセプトを内装に取り入れると、世界観を表現しやすくなります。お客さまはショップの内装や雰囲気からブランドのコンセプトを推測して入店を判断するので、ブランドの世界観を引き立てる内装にするのがベターです。
さらに詳しく知りたい方には、以下の記事でコンセプトの考え方について解説しています。
立地と広さを決める
コンセプトが固まったら立地と広さを考えましょう。立地と広さを考える際のポイントは次の2つです。
- ターゲット層が集まる立地を探す
- 店舗の坪数を具体的に想像する
それぞれ解説していきます。
ターゲット層が集まる立地を探す
その店のターゲット層と商品の価格帯は、立地と切り離せない関係にあります。
想定するお客さまは20代のオフィスで働く女性ですか?それとも、40代のアウトドアが趣味の男性でしょうか?
ターゲット層の年齢、性別、年収、嗜好など細かく設定すると候補地選びがスムーズになります。候補が決まれば、実際に街を歩き、人々を観察することで土地の雰囲気を直接感じられます。
一つの例として、2021年4月にオープンしたグッチ(GUCCI)の旗艦店「グッチ並木」の立地を考えてみましょう。
画像:銀座6丁目の街並み
東京・銀座6丁目の並木通りにある「グッチ並木」は銀座4丁目の晴海通りにある「グッチ銀座」に次いで、銀座では2店舗目の出店です。
すでに銀座に店舗があるのにも関わらず、グッチが2店目の出店へ舵を切った背景には、「ターゲット層が集まる立地」があります。銀座並木通は、1964年にグッチが初めて日本での展開をスタートした地。そのため、銀座はグッチを愛するファンが昔から多くいる土地だと考えられるのです。
さらに、グッチ並木では、日本初となるオーダーメイドサロンやレストランを併設し、歴史ある土地で新しいサービスを展開することでお客さまの来店動機を高める工夫をしています。
参考:「グッチ並木」銀座・並木通りに新旗艦店、日本初オーダーメイドサロンやレストラン併設 | FASHION PRESS
店舗の坪数を具体的に想像する
スムーズに物件を探すには、具体的なイメージを作り、理想の広さは何坪なのかを把握しておく必要があります。
候補地がある程度決まると、自ずと店舗の広さの制約も決まってきます。例えば郊外であれば広いスペースを確保できるかもしれませんが、駅の近くなど交通の便がいい場所は、すでに店舗が密集していて十分な広さを確保できない場合もあります。
さらに、ラックは何個置きたいのか、試着室やバックルームはどのくらいの広さを確保するのかなど空間をどう活用するのかまで考えておくと、店舗に求める坪数が明確になるでしょう。
また、まだ施工会社が決まっていなくても、自分で大まかなレイアウトを作成しておくと、内装デザインを施工会社に依頼する際に役に立ちます。間取り作成アプリ「MagicPlan」を使えば、カメラで部屋を撮影して間取りを作成することもできておすすめです。
参考:magicplan | App Storeプレビュー , magicplan | Google Play
予算を決める
続いて、店舗開業の資金を計算し、内装の予算を決めましょう。店舗開業の初期費用で必要になる費用は主に下記の6つです。
- 物件にかかる費用(敷金礼金、契約手数料、賃料など)
- 外装・内装工事費
- 備品などの設備費
- 商品の仕入れ費用
- 広告費
- 人件費
オープン後も余裕を持って操業するために、開業資金には3ヶ月分ほどのランニングコストを含めておくと安心です。
内装はどこまでこだわるか、どれだけ設備を再利用できるかによって工事費は変わります。後述する「物件選びのポイント」や「費用を抑えるポイント」を参考に、費用の割り振りを考えてください。
集客に優れた【物件選び】のポイント
続いて、物件選びのポイントについて解説します。
物件は「出店する場所」と「物件の設備」に焦点を当てると決めやすくなります。詳しく見ていきましょう。
出店場所から物件を探す
テナント店や路面店など、場所によって店舗のイメージは左右されます。それぞれのメリット・デメリットを検討した上で、出店場所を決めましょう。
インショップ(テナント店)
ショッピングモールや百貨店などの商業施設に入っている店舗です。
外装工事費は不要で、好立地であることが多いので高い集客力が期待できます。一方で、幅広い客層が集まるため、定番商品を多く扱うなどの工夫が必要になります。
また、商業施設独自のルールや、売上歩率(うりあげぶりつ)といって賃料が固定ではなく「毎月の売上に決まった割合を掛けた金額」とされていることがあります。その場合、売上が上がると賃料も上がるので注意が必要です。
路面店
路面店は、通りに面した一階の店舗のことを指します。
外構や看板の設置など、装飾の自由度が高いことから、店舗のイメージが表現しやすいので、大きな宣伝効果が期待できます。また、他のタイプの店舗は共用の入口を使うため営業時間に制限がありますが、路面店はオーナーが自由に営業時間を決めることができます。以上のような理由から、人気があるエリアでは空き物件が出にくく、空きが出ても賃料が高いことが多いので、売上と賃料の兼ね合いを慎重に判断しましょう。
また、店舗の間口が広くお客さまが入りやすい作りになっているか、店舗前の通りは営業時間にターゲット層が通行しているか、周辺にゴミ置き場や放置自転車といった来店の妨げになる物がないかなど、物件の下調べは念入りにしておきましょう。
空中店舗・地下店舗
ビルの2階以上に出店している店舗を空中店舗、地下に出店している店舗を地下店舗と言います。
どちらも、外からの店内の様子が分かりにくいため、路面店より集客力は低く、3階以上の店舗になるとエレベーターの有無も客足に影響します。以上の理由から集客を上げるための施策は必須になりますが、路面店に比べると賃料が安いという利点があります。
設備から物件を探す
物件を探していると「居抜き物件」、「スケルトン物件」といった様々な内装の状態のものがあります。それぞれに利点・注意点があるので注意して物件を選びましょう。
居抜き物件
居抜き物件とは、以前入居していた店舗の内装や設備などがそのまま残っている物件です。
設備をそのまま使えるため、初期費用が抑えられ、施工箇所が少なければ早く開業できるメリットがあります。その一方で、以下のような注意点もあります。
- 大幅な内装変更をするには解体作業が必要になり、さらに工事費が高くなる
- アパレル以外の店舗の居抜きだと、レイアウトがアパレル向きではない
- 設備が古ければ、不具合が出る可能性がある
内見の機会があれば、これらの条件を直接確認しておくことが望ましいでしょう。
スケルトン物件
スケルトン物件とは、いわゆるコンクリート打ちっぱなしの状態。天井や床、壁、内装が何もなく建物の骨組みだけの状態のことを指します。
レイアウトやデザインを自由にできるので、思い通りの店舗を実現できますが、居抜き物件に比べ工事費が高額になりやすい上に工事期間も長くなり開業までに時間がかかります。工事期間中も賃料は発生するので、初期費用の予算に開業前の賃料が含まれることになる点には注意が必要です。
売上を伸ばす【内装デザイン】のポイント
お客さまに居心地のいい空間を提供し購買意欲を高めることが内装デザインの最たる目的です。「わざわざ足を運びたくなる店舗づくり」について、事例を交えて解説します。
外からの目線を意識する
内装デザインを考える際には、店内だけでなく外からの見え方も意識しましょう。お店の前を通る人が入店を決める際に、重要な判断材料になる景色だからです。例えば、外観にガラスを使用したり、照明の明るさで商品を引き立てるなどの工夫があるでしょう。
また、レジを入口や窓から見え難い場所に置く、入店時に店員と目が合いにくいようにレイアウトすると購買意欲が低いお客さまも気軽に入店しやすくなるといわれています。
お客さまの滞在時間を伸ばすための工夫をする
お客さまの滞在時間が長いほど購入率は高くなる傾向にあります。お客さまが長居したくなるような居心地のいい空間づくりと店舗でしかできない体験を提供し来店率を上げる施策をすることが大切です。
例えば、アウトドアブランドの「スノーピーク」は、来店客の行動を数値化し、購入に至らなかった来店客を分析するという試みをし、購買体験を向上させる施策を次々と打ち出しています。
参考:「売上」ではなく、「購買体験」を向上するための店舗分析 | マイナビ BOOKS
2020年6月にオープンしたスノーピークの「LAND STATION HARAJUKU(ランドステーションハラジュク)」を例に、お客さまの滞在時間を伸ばす工夫、店舗でしかできない体験の提供について考えてみましょう。
土地と人をつなぐ場としての店舗
引用:LAND STATION HARAJUKU 公式ページ
JR原宿駅前という好立地にあるLAND STATION HARAJUKU。店内で目を惹くのは、店内の中央に位置するテイクアウト専門のカフェで、クラフトビールや日本酒なども提供しています。「キャンプ場でお酒を飲みながら自然を楽しむ」擬似体験ができるように、店内は木材をふんだんに使用し、キャンプ場を連想させる内装デザインになっています。
また、スノーピークの社員がセレクトした日本各地のお土産を販売するコーナーを作り、日本の魅力を発信しています。インバウンドが多い原宿の特性を活かし、「来店者と土地のつながりを生む店」というコンセプトを体現しているのです。
店舗の世界観を引き立てるマテリアルを選ぶ
LAND STATION HARAJUKUの例を見てもわかるように、内装デザインを考える上で壁紙や床材などのマテリアル(素材)選びはとても重要で、悩みどころでもあると思います。
予算内でできる限り理想の内装に近づけるためには、施工会社との綿密な打ち合わせが不可欠です。マテリアルにも様々な価格帯のものがあるので、素材のサンプルを見せてもらったり、施工事例を見せてもらったりし、納得がいくまで検討させてもらいましょう。
家具やオブジェについても同様で、店舗の世界観に合ったものを選ぶことが大切です。
店舗の雰囲気をマテリアルで演出する
先に例に挙げた、LAND STATION HARAJUKUでは、床や棚の素材に木を使うことで木の香りや温もりを感じられるようにし、カフェの飲食スペースに自社商品のキャンプ用のテーブルや椅子を置くことで、キャンプ場で椅子やテーブルを使用している想像ができるような空間づくりをしています。
引用:LAND STATION HARAJUKU 公式ページ
店員の作業効率を意識したレイアウトとバックルームの設計
店舗のレイアウトは、お客さまを店内の奥まで誘導できる設計にすることが重要です。接客をする店員がお客さまに声掛けしやすいようにする、お客さまの導線と店員が待機するスペースが重ならないようにするなど、お客さまも店員も動きやすい作りにすることを意識しましょう。
また、試着室を店内の奥に配置し、ゆとりのある広さを確保するとプライベート感が高まり、お客さまがゆっくり検討できるようになります。
また、在庫を多く抱えるショップでは、バックルームのスペースの確保も重要です。人がすれ違えるほどの広さ、作業のしやすさを考慮して設計しましょう。
信頼ができる【設計・施工業者】の選び方
内装デザインの施工会社には「デザイン専門の設計事務所」、「設計と施工を行う内装会社」、「工務店など施工メインの内装会社」の3つのタイプがあります。
- デザインを重視したい方は、「デザイン専門の設計事務所」へ
- 初心者で何もわからないという方は、「設計と施工を行う内装会社」へ
- デザイン・設計を用意できている方は、「工務店など施工メインの会社」へ
ニーズに合わせて、適切な施工業者に依頼しましょう。
また、どの会社を選ぶ場合もおすすめする調べ方は、ホームページや資料で施工事例をチェックすること、口コミで親身な対応に評判がある会社を選ぶことです。この2点を事前に調べておくと、大きな失敗を避けやすくなります。
デザインを重視したい方は「デザイン専門の設計事務所」へ
デザイン専門の設計事務所とは、デザインと設計のみを請け負う業者のことを指します。他のタイプとの大きな違いは、施工は別の会社になるという点。
施工も請負うデザイン事務所もありますが、デザインと設計にしか対応していない会社が多いため、工事を請負ってもらえるのかどうか事前に確認しましょう。デザインと施工が別になる場合、総施工費の10〜15%程度の設計デザイン費をデザイン事務所に支払います。
クオリティの高いデザインにしたい、デザイナーを指名したいという場合はデザイン専門の設計事務所に依頼しましょう。
初心者で何もわからないという方は「設計と施工を行う内装会社」へ
設計と施工を行う内装会社とは、設計デザインから施工までを一括で請負う業者のことを指します。総施工費の中に設計デザイン費も含まれており、総施工費の5%程度が一般的です。一つの会社でデザインから施工まで行うため、複数の会社に依頼した時のように話が噛み合わないなどの伝達ミスが起きにくく、変更や修正があった際もスムーズに進めることができます。
デザイン専門の会社と比較するとデザイン性は劣るかもしれませんが、店舗の内装デザインに特化した業者もあり、経験や実績が豊富なことが多いので安心して工事を任せることができます。
デザイン・設計を用意できている方は「工務店など施工メインの会社」へ
工務店など施工メインの会社とは、内装だけでなく一般住宅の建築やリフォームなども請け負っている業者のことを指します。工務店でも設計デザインから施工までを一括で発注することができます。
しかし、自社でデザイナーを抱えていない場合もある、内装の施工経験が少ない場合もあるなどの注意点もあります。
依頼先の会社がデザイナーを抱えていない場合は、デザインを別の会社に外注するため費用が高くなりますが、反対にデザインや設計・図面を用意できている方はデザイン設計費がかからず工賃を安く抑えることができます。
アパレルショップの内装にかかる費用は?
内装の費用は「居抜き物件」か「スケルトン物件」か、マテリアルや家具にどこまでこだわるかによって大きく変わります。そこで、内装工事の相場と費用を抑えるポイントを紹介したいと思います。
内装工事の相場は?
アパレルの内装工事費の相場は坪単価10〜20万円ほどです。例えば、20坪の店舗なら200〜400万円の費用が必要になります。
先述した相場を参考に予算を決めて業者に見積もりを依頼しましょう。
その際に、複数の会社に見積もりの依頼をすると相場がわかりやすいだけでなく、複数のデザイン案を見ることができるのでおすすめです。
内装費用を抑えるポイント
内装にこだわりたいけど予算が足りない、内装デザインを考えているとこんな悩みも湧いてくるはずです。内装にこだわるほど費用は高額になりますが、限られた予算内で「どこにお金をかけるのか」を決めると、費用を抑えることができます。
例えば、スケルトン物件を選びコンクリート打ちっぱなしのデザインにする、マテリアルのグレードを下げる、家具に中古を取り入れるなどです。
スケルトン物件の特徴を活かした店舗例を紹介します。
シンプルな内装デザインに変化をつけるアイディア例
下の画像は、オリジナルブランド「TODAYFUL」の服を中心に雑貨、海外買付の古着、グリーン・ドライフラワー、食器など様々なアイテムを取り扱うライフスタイルショップ「Life’s」の代官山店の店内です。
白を基調としたシンプルな店内の壁。天井は配管をあえて隠さず、床はコンクリートでスタイリッシュな空間を演出しています。
オブジェはシンプルなもので統一し、空間にゆとりが出るように数や配置を工夫している印象です。「シンプルで居心地のいい空間が日常を特別なものに変える」というブランドコンセプトが的確に表現されています。
そして、シンプルな店内で一際目を惹くのが大きな陶器に生けられた花です。グリーンも扱っているLlife'sならではの内装デザインです。この生花は定期的に交換されていて、シンプルな店内に季節感や変化を与えるアクセントになっています。
花の費用はかかりますが、簡単に内装の雰囲気を変えられるアイディアと費用をかけるところと抑えるところのメリハリは参考にしたいところです。
アパレルショップは内装デザインの完成度が売上を左右する!
今回は物件の選び方から、内装デザインのポイント、施工会社の選び方、相場と予算の抑え方を順を追って解説しました。
ネットショップでいつでも簡単に服を買える昨今において、立地条件に頼った集客だけで売上を伸ばすのは至難の業です。これからのアパレル店舗に求められているのは、「店舗でしか得られない体験ができる」、「わざわざ足を運びたくなる」そんなショップになることではないでしょうか?
「このお店、気になる」、「また来たい」と思われる空間づくりが内装デザインの真髄であり、店舗のファンを増やすことが売上に繋がるのです。