出典:オリジナル布製マスク第2弾 6/18(木)EC限定発売 | 三陽商会
「新しい生活」の中で、マスクはすっかり日常のアイテムとして浸透しました。その流れの中で「おしゃれなマスク」や「高品質なマスク」に対する需要も急増しています。
こうした流れを受けて、アパレル各社もオリジナルマスクの開発・販売に乗り出しています。
- どのようなメーカーがマスクを製造しているのか
- どんな技術が使われているのか
などの点に興味を持つ人も多いでしょう。今回は大手12ブランドの事例を紹介しつつ、その事例を統合して「アパレルマスクの全体像」について解説します。
- アパレルマスクの個別事例
- 全体像や本質的な部分
上記のどちらを知りたい人にとっても、役立てていただけるでしょう。
目次
アパレルマスクの全体像(3つのジャンル)
アパレルマスクは生産者ごとに、下の3つの「ジャンル」に分類できます。
生産者 | 特徴 |
---|---|
アパレルメーカー | 衣服で追求した快適性を応用 |
スポーツメーカー | ウェアで追求した冷感技術を応用 |
小規模工房 | 芸術性の高いデザインを提供 |
小規模工房やハンドメイド作家の方々による作品は、minne(ミンネ)やCreema(クリーマ)などのサイトで多数見られます。今回は企業が生産しているマスクに焦点を当て、アパレル・スポーツメーカーの各社の商品を、下の段落のとおり紹介します。
アパレルマスクの開発・販売事例12選の一覧
大手各社・ブランドによるアパレルマスクの開発・販売の事例は、下記のものが特に注目されています。
アパレル大手(通年) | ワールド・三陽商会・オンワード |
アパレル大手(夏用) | ユニクロ・無印良品・AOKI |
スポーツ大手(冷感) | ミズノ・ヨネックス・アルペン |
人気ブランド | ニューバランス・ユナイテッドアローズ・ラグ&ボーン |
それぞれの詳細はリンク先の段落で解説しています。
【通年】アパレル大手による布製マスクの開発事例
通年使用をできる布製マスクとしては、アパレル大手各社が下のような商品を開発しています。
ワールド | 抗ウイルスマスク |
三陽商会 | オリジナル布製マスク |
オンワード | 洗って繰り返し使える布製マスク |
それぞれのマスクの特徴を紹介します。
ワールド:抗ウイルスマスク
ワールドは以下の3種類のマスクを販売しています。
- 抗ウイルス素材マスク
- 抗菌防臭ポリジンマスク
- 三層構造不織布マスク
特筆すべきは2つ目のポリジンです。ポリジンはスウェーデン生まれの、抗菌防臭における世界的なリーディングブランドです。
ただの「抗菌防臭」ではなく、そのポリジンの銀イオン(AG+)による、ハイレベルな加工を施しているのが特徴です。
もう一つの特徴は、不織布マスク(サージカルマスク)も、ワールドが販売していることです。アパレルメーカーによるマスクというと、多くの人が「布マスク」を想像するでしょう。
ワールドでもメインのマスクは布ですが、不織布のマスク(いわゆる使い捨てマスク)も販売しているということですね。シャープのマスクも高い人気を博しましたが、不織布マスクが不足する中で、「布」のイメージのこだわらず、不織布マスクにも資金を投入した点は、社会的意義も大きかったといえます。
三陽商会:オリジナル布製マスク
出典:オリジナル布製マスク第2弾 6/18(木)EC限定発売 | 三陽商会
三陽商会は「オリジナル布製マスク」を販売しています。同商品の特徴は下のとおりです。
- 立体裁断でジャストフィット
- アジャスターで紐の長さを調整可能
- 安心の国内製造
- 抗菌防臭ダブルガーゼを裏地に使用
- コーディネートを楽しめる豊富な色・柄
特筆すべきはアジャスターと、色・柄の豊富さでしょう。他社製品でもアジャスターが付いているものは少ないのが現状です。
また、色や柄については「個人の作家さんによるハンドメイドの作品」では、豊富なバリエーションがあります。しかし、メーカーのものではバリエーションが少ないのが現状です。
(バリエーションを増やすほど高コストになることと、マスク需要の先行きが読めないため、メーカーも慎重にならざるを得ないわけです)
その中で、三陽商会という大手メーカーが豊富な色・柄を揃えていることは、マスクをファッションアイテムとして成熟させる上でも、大きな意義があるといえます。
オンワード:洗って繰り返し使える布製マスク
オンワードは、自社オリジナルブランドの一派である「ONWARD DD」から「洗って繰り返し使える布製マスク」をリリースしています。商品の特徴は下のとおりです。
- 自社国内工場「KASHIYAMA SAGA」で製造
- 表には高級衣料に用いるシャツ生地を使用
- 内側にはダブルガーゼを使用
- 立体裁断によるスタイリッシュな設計
特筆すべきは、国内生産というだけにとどまらず製造工場までわかっているということ。国内の「安い工場」ではなく「KASHIYAMA SAGAで製造された」という点で、利用者の安心感や満足度も高くなるでしょう。
オンワードらしい「高級感」が追求されたマスクといえます。
【夏用】アパレル大手各社の着眼点
夏用のマスクも、アパレル大手の独自技術を活かしたアイテムが多数開発されています。特に個性的な大手3社の事例をまとめると、下のとおりです。
ファーストリテイリング | エアリズム |
無印良品 | 繰り返し使える 2枚組マスク |
AOKI | ダブル抗菌・洗えるクールマスク |
それぞれの商品の特徴を詳しく紹介していきます。
ユニクロ:エアリズム
ユニクロ(ファーストリテイリング)は、エアリズムという新しいマスクブランドを提供しています。3枚組で990円というリーズナブルな価格です。
- マスクとしての防御性能
- 洗濯可能
- つけ心地
上の3つの機能を満たすマスクとして開発されました。具体的には以下の素材を使用しています。
エアリズム素材 | 独自開発素材。シルクのようになめらかな肌触りを実現 |
粒子カットフィルター | BEF99%、花粉濾過99%のフィルターを採用 |
UVカット・メッシュ素材 | 紫外線を90%カット |
とりわけ粒子を99%カットするフィルターを使用していることで、飛沫拡散を防ぐ「コロナ情勢下での本来のマスクの意味」も、もっとも高いレベルで満たせているといえます。
(これ以上の機能になると医療用といえるでしょう)
エアリズムは、素材の科学的・物理的なレベルの高さ、3枚990円というコストパフォーマンスで、特に優れたアパレルマスクといえます。
無印良品:繰り返し使える 2枚組マスク
出典:【無印良品】の繰り返し使えるマスクを使ってみた【ネットストア限定の人気アイテム】| Domani
無印良品は「繰り返し使える2枚組マスク」を提供しています。上の写真は『Domani』モデルの境野香菜さんが同商品をレポートされた記事のものです。商品の特徴をまとめると下のようになります。
- 綿100%で、高い通気性・吸水性を実現
- 抗菌防臭加工
- 洗って繰り返し使える
綿100%という素材自体は「普通」です。そのため、
- 洗ってどこまで縮まないか
- 抗菌防臭加工のレベルがどれだけか
が焦点となります。その点は無印というブランドによって信頼性が担保されています。「普通のアイテム」を出すときほど、ブランドの信頼性が問われるという好例になるでしょう。
余談ですが「アベノマスク」も無印と同じく綿100%素材です。
参考布マスクの全戸配布に関するQ&A「マスクの素材は何ですか」| 厚生労働省
AOKI:ダブル抗菌・洗えるクールマスク
出典:店舗購入 夏仕様「ダブル抗菌・洗えるクールマスク」抽選販売のお知らせ | AOKI
スーツのAOKIは「ダブル抗菌・洗えるクールマスク」を提供しています。ビジネスマン・ビジネスウーマン向けのブランドらしく、実用性を重視したマスクです。商品の特徴をまとめると下のとおりです。
ダブル抗菌加工 | 外層・内層の両方に加工を施す |
ウォッシャブル | AATCC基準合格、30回洗濯しても抗菌効果が持続 |
立体縫製 | 日本人の顔に合わせた縫製、ストレッチジャージ生地を使用 |
AATCCは「米国繊維科学技術・染色技術協会」の略称です。「洗って使える」というキャッチフレーズを、信頼できる国際的な団体の基準に合格することで、客観的に証明しています。
また、こうした米国基準に合格することで「日本人にとってはどうなの?」と思われるデメリットを避けるため「日本人の顔に合わせた立体縫製」を施していることも、欠かさずに伝えています。
【冷感】スポーツメーカーの技術を導入した商品開発
冷感マスクでは、特にスポーツメーカーが優れた商品を開発しています。長年にわたり「競技中の冷感」を追求してきたためです。
主なメーカーの商品では、下のようなものがあります。
ミズノ | マウスカバー |
ヨネックス | スポーツフェイスマスク |
アルペン | 洗える冷感マスク |
それぞれの商品の特徴を詳しく紹介していきます。
ミズノ:マウスカバー
ミズノは水着素材を活かした冷感マスク「マウスカバー」を開発しています。上の写真は、同社陸上部所属の短距離選手・和田麻希さんが同商品を着用されたものです。
特徴は2wayストレッチトリコット素材を使用している点にあります。同素材は競泳水着・陸上ウェアなどで採用されているもので、伸縮性と冷感に優れています。
内側には、ミズノが独自に開発した肌触りの良いソフトな素材を使用しています。そのため、外側は水着素材であるものの、内側は肌にフィットする優しいつけ心地となっています。
参考水着素材を採用したマウスカバーを発売(ミズノ)| PR TIMES
ヨネックス:スポーツフェイスマスク
出典:スポーツフェイスマスクの販売方法について (YONEX TOKYO SHOWROOM)| SnapWidget
ヨネックスは、キシリトール配合の涼感素材「ベリークール」を採用した「スポーツフェイスマスク」を提供しています。ベリークールはもともと同社がバドミントンのウェアなどに採用している素材で、バドミントン日本代表のウェアなどにも採用されています。
ウェア内を約3℃低く保つ「ベリークール」等の高機能で快進撃を支える… | YONEX
体幹と口元という面積の違いはありますが、体幹であれば3℃下げられるということです。口元でも物理的に相当な冷感を得られるでしょう。
出典:「ベリークール」採用 スポーツフェイスマスク販売方法のご案内 | YONEX
商品のカラーバリエーションは、上の画像のようにブラック・ホワイト・ピンク・ブルーの4色となっています。
参考キシリトール配合の涼感素材「ベリークール」採用 スポーツフェイスマスク販売方法のご案内 | ヨネックス
アルペン:洗えるマスク
出典:洗える マスク 水着素材マスク 中高生・大人用 | アルペン
アルペンは「洗えるマスク」を販売しています。名前どおりシンプルなマスクで、値段が600円(税抜)とリーズナブルな点が特徴です。
水着素材を利用しているため、以下のような特徴があります。
- 50回以上洗濯できる
- 部屋干しでもすぐに乾燥する
- 生地の伸縮性が高いため耳が痛くなりにくい
- しわにならず、毛玉もつきにくい
これらの特徴は、ミズノやヨネックスも満たしているものです。2社とアルペンの違いは、「そこそこ良いマスクを安く手に入れたい」という人のニーズに応えている点といえるでしょう。
アパレルマスクというと「高級品」というイメージを持たれがちです。それによって敬遠してしまう層も存在しますが、アルペンのマスクはそうした層の方々も取り込みやすい商品であるといえるでしょう。
【ファッション】人気ブランド各社が提供するオリジナルマスク
人気ファッションブランドも、それぞれのオリジナルマスクを提供しています。たとえば下の3ブランドの事例が特に注目されています。
ニューバランス | NB Face Mask V3 |
ユナイテッドアローズ | green label relaxing ファッションマスク |
ラグ&ボーン | ファブリックマスク |
以下、それぞれの事例を詳しく紹介します。
ニューバランス:NB Face Mask V3
出典:ニューバランス米国工場でのマスク製造について | PR TIMES
ニューバランスは「NB Face Mask V3」などの商品を提供しています。同ブランドのマスクは上の写真のように、かなり個性的なデザインです。「ガンダムの口元」を連想した人も多いでしょう。
個人がハンドメイドで作るマスクではなく、ニューバランスのように世界的なブランドが、これだけ「攻めたデザイン」を実現したことは画期的といえます。
医療用マスクに形状が似ている点も特徴といえます。この形状がファッションとして流行すれば、この形状で大量生産するラインを整える企業も登場する可能性があります。
そうなれば、医療用マスクも大量生産しやすくなり、医療現場でもマスクを今までより安価で調達できるという可能性があります。
(今後のマスク需要はコロナの第二波・第三波次第であるため、将来の予測は誰にもできないものですが)
参考ニューバランスがあらたな一般向けフェイスマスクを発売! | Yahoo!JAPANニュース
ユナイテッドアローズ:green label relaxing ファッションマスク
ユナイテッドアローズには派生ブランドがいくつかあります。その主要ブランドの1つである「UNITED ARROWS green laber relaxing」(グリーンレーベルリラクシング)からも、ファッションマスクが提供されています。
同商品の特徴をまとめると、下記のようになります。
- 天竺の綿100%素材を使用
- 安心の日本製
- 繰り返し使えるエコロジーマスク
天竺とは綿の「織り方」の一種で、縦糸と横糸を平織りにしています。ユニクロやヨネックスのように際立った特徴はないものの、ユナイテッドアローズのようにおしゃれなブランドもマスクを出していること自体が、マスク着用の意識をさらに高めることにつながるでしょう。
ラグ&ボーン:ファブリックマスク
出典:「ラグ&ボーン」が非医療用マスクを限定発売、収益の一部を寄付 | ELLE JAPAN・公式Twitter
ラグ&ボーン(rag & bone))は、2002年に創設されたアメリカのファッションブランドです。東京の表参道にも旗艦店を持つなど、日本人の間でもファッション愛好家の間でも高く評価されています。
ラグ&ボーンは2020年4月末に、アメリカ国内限定でマスクの販売を開始しました。コレクションで使用しているファブリックをアップサイクル(創造的再利用)したものです。
同商品は、ニューヨークのアパレル産業の集積地であるガーメント地区で製造。1枚の購入につき5ドルをCity Harvest(シティハーベスト)に寄付しています。シティハーベストは、ニューヨーク最大の食料支援組織として知られています。
参考「ラグ&ボーン」は非医療用マスクを限定販売。新型コロナに立ち向かう、ファッションブランドの対応 | Yahoo!JAPANニュース
まとめ:アパレルマスクの開発事例から学べること
出典:アパレルブランド「オールユアーズ」、50回洗っても効果が持続する抗菌・消臭マスク「キテテコマスク」を販売開始 | PR TIMES
今回紹介したアパレルマスクの開発事例から学べることをまとめると、下のようになります。
学べること | 参考事例 |
---|---|
日常で培った技術は、緊急の場面でも活かせる | アパレル各社の事例 |
高い技術は、他業界でも活かせる | スポーツ各社の事例 |
ブランドの信用は、他分野でも活かせる | ワールドによるサージカルマスクの事例 |
また、こうした技術があっても、コロナ禍の最中にその開発に乗り出すには、資金の余裕が必要です。「日頃から資金を蓄える」という一見当たり前のことがどれだけ難しく重要かは、今回の騒動ですべての業界の人が実感しているでしょう。
故・松下幸之助氏はこの「当たり前のこと」を、ダム式経営として提唱していました。アパレルマスクの開発のように「ピンチをチャンスに変える」ためには、技術だけでなく「ダムの水のように資金を蓄える」ことも重要といえるでしょう。
参考まず願うこと――繁栄への発想 | 松下幸之助.com(PHP研究所)
なお、こうした「企業として一見当たり前の能力が大切」という考え方は、経営学のケイパビリティ(企業の総合力)という用語でも表現されています。ケイパビリティについては下の記事で詳しく解説しているため、こちらも合わせてお読みいただけたらと思います。