コロナの騒動で、アパレル業界でも多くの店舗が休業を余儀なくされてしまいました。「リモートワークなら仕事ができるのに…」と感じたスタッフさんやマネージャーの方々も多く見えるでしょう。
そう考えたときに知りたいのは、アパレル業界の各社は、どのようにリモートワークを導入しているのかということかと思います。この記事ではその疑問に答え、特に参考となる8つの企業・ブランドの事例を紹介します。
大手ブランドから新進気鋭のベンチャー企業の事例まで、幅広く揃えているため、自社・自店でリモートワークを導入する際のヒントにしていただけるでしょう。
目次
アパレル企業のリモート事情とは?8つの事例を紹介
アパレル企業のリモート事情は、下の3通りに分類できます。
そして、それぞれの事例を紹介すると、下記の8社・ブランドの例が挙げられます。
リモート接客 | サマンサタバサ・アダストリア・TSIホールディングス |
接客以外に注力 | アンフォロー・マザーハウス・foufou |
元々リモート | ZOZOテクノロジーズ・ユニサイズ |
以下、それぞれの事例を紹介していきます。
① 接客:大手ブランドによるリモート接客の事例3選
大手ブランドによるリモート接客の事例は、下記の3つの例があります。
アダストリア | SNSライブ配信でのオンライン接客 |
サマンサタバサ | 映像なし、メッセージでのバーチャル接客 |
TSIホールディングス | 英国の接客アプリ「HERO」導入 |
それぞれの事例を詳しく紹介していきます。
アダストリア:SNSライブ配信でのオンライン接客
出典:.st CHANNEL
「niko and…」(ニコアンド)などを展開する東証1部上場企業のアダストリア。同社は「SNSライブ配信によるオンライン接客」を実践しています。
上の画像は、同社が2020年5月29日にスタートさせた「.st CHANNEL」(ドットエスティ・チャンネル)です。このチャンネル(サイト)では、アダストリアのスタッフさんが商品を試着し、その様子をInstagramなどの動画でレビューしています。
たとえば、下の画像は同社のブランドの1つ「Andemiu」のスタッフさんによるものです。
後ろのクローゼットにある商品を1つずつ手に取り、わかりやすくレビューをされています。そして、この紹介動画の横にアイテムの一覧があり、紹介されたアイテムをそのまま購入できるようになっています。
ECサイトは、下の画像のようになっています。上のレビューでは「ランダムプリーツパンツ」が紹介されていましたが、このパンツと、そのコーデにおすすめのアイテムが並んでいます。
また、下の画像のように2画面を使う、ファッション誌のようにアイテムの紹介をレイアウトするなどの高度な試みもされています。これはブランド個別のInstagramアカウントですが、全体をまとめるチャンネルだけでなく、それぞれのインスタも商品ページと連動しています。
出典:アダストリアよりスタッフ主導のオンライン接客から生まれた新コンテンツ「.st CHANNEL」スタート | 時事通信
この試みの特徴として、ライブ配信のため、お客さんからの質問にリアルタイムで答えられるという点が挙げられます。つまり、ただの商品紹介ではなく「オンラインの接客」が実現されています。
さらに、オンラインならではのメリットとして、紹介の最中にも、全国各地のお客さんから購入の報告や感想をもらえるという点も挙げられます。いわゆるカリスマ店員さんが紹介すれば、SHOWROOMなどのライブ配信でファンからプレゼントを贈られるように「買いました!」という報告が相次ぐ、ということも起こる可能性があるでしょう。
各店舗のスタッフさんが全国のブランドファンの前に出る機会が増えたことは、スタッフさんの新たな働き方やモチベーションの拡大にもつながると期待できます。
サマンサタバサ:映像なし、メッセージでのバーチャル接客
出典:サマンサタバサ・公式アプリ | Google Play
サマンサタバサは2017年9月に公式アプリをリリースし「スマホ接客」を始めていました。特徴的な機能は「スタッフフォロー」で、
- よく行く店舗のスタッフ
- アプリで見せるコーディネートが気になるスタッフ
をフォローできます。そして、フォローしたスタッフからは、おすすめの商品やコーディネートなどの情報が届けられます。これはスタッフ側から見れば、フォローしてくれたお客さんに、アプリ上で直接連絡を取れるということです。
参考「サマンサタバサ」日本限定公式アプリが登場 "スマホで接客"が可能に | ライブドアニュース
サマンサタバサはコロナの情勢下でもこのつながりを活用し、
- お客さんに商品のご案内をする
- スタッフ本人による着用画像を送る
- スタッフが配布権限を持つクーポンコードを送る
などの働きかけをしています。ただの不特定多数に向けたプッシュ通知ではなく、そのお客さんごとに個別の提案やサービスをすることで、「アプリでの接客」を実現しているわけです。
たとえば、スタッフさんが商品を着用し、紹介している画像は下のようなものです。
出典:公式アプリ内の画像
こうした写真が、アプリ内では下の画像のように、多数アップされています。
こうして全体向けへの発信もしつつ、その商品が特に合うお客さんに対して、スタッフさんがクーポンとともに紹介をする、などのコンタクトを取っているわけです。
写真とテキストのみのリモート接客は導入しやすい
サマンサタバサのリモート接客は「写真・テキスト」のみで完結するものです。動画でのライブ配信などと比較すると、導入しやすいといえるでしょう。
ただ、その分訴求力は弱まるため、スタッフさん一人ひとりが、お客さんといかに強い信頼関係を築くかがポイントとなります。リモートで接客する分「リアルでの信頼関係」が必要になるということです。
(ただし、コーディネートの写真によって人気が出て、遠方のお客さんからECで購入されるなどのケースは別です)
参考販売員のリモートワークはどう取り組む? アプリのバーチャル接客を推進する「サマンサタバサ」編 | WWD JAPAN
TSIホールディングス:英国の接客アプリ「HERO」導入
東証1部上場のTSIホールディングスは、イギリスの接客アプリ「HERO」を、2020年4月14日に導入しました。このアプリの主な機能の一つが「ライブコマース」です。
- 顧客がアプリを使う
- 最も近い店舗につながる
- その店舗の販売員が、ライブ動画で接客する
というものです。このライブ動画で顧客の質問に答える、実物とともにコーディネートを見せるなどの接客を行います。
顧客がECサイトからアクセスしている場合は、最寄りの店舗ではなく「その商品の在庫がある店舗」とつなぎます。そして、やはり同じように接客を行い、顧客の購買前の不安や疑問を解消します。
もともと、こうした取り組みはコロナの騒動の前から「ECサイトとリアル店舗の融合」のために、各社で実践されていました。その動きが、コロナによってさらに加速したといえます。
参考TSIホールディングス、販売員がライブコマース 英国のオムニアプリ導入 | 日本ネット経済新聞
② 企画:人気ブランドの新規企画・業務への注力事例3選
コロナの影響で接客をできないことを逆手にとり「接客以外の業務」に注力した例もあります。主な事例は下記のものです。
マザーハウス | 商品にちなんだぬり絵を無料提供 |
アンフォロー | バーチャル展示会参加など |
foufou | 着用モデルのリモートアルバイトを募集 |
それぞれの事例を詳しく紹介していきます。
マザーハウス:商品にちなんだぬり絵を無料提供
出典:ぬりえ・絵本・書籍の無料提供のお知らせ | マザーハウス
マザーハウスは、途上国で生産したバッグやジュエリーなどを扱う会社です。同社は、自由に外出できない子どもたち向けの企画として「ぬり絵の無料提供」を行っています。
- マザーハウスの商品はバングラディシュなど6カ国で生産されている
- デザイナーの山口社長のキャラクター「ウチ」が、それらの国を訪れるシナリオ
- 各国の名物・名所をイラストにし、ぬり絵を制作する
上記のようなコンテンツです。提供方法については、郵送の場合は送料無料でのプレゼント、データも無料でダウンロードできるようになっています。
この取り組みにより、①…途上国の経済をボランティアでなく事業として支援する、同社のビジョンを社会に伝えつつ、②…子どもたちに楽しみを提供し、③…各国の文化の魅力も伝える、という3つのプラスを生み出しています。
参考販売員のリモートワークはどう取り組む? プロモーション担当へ配属した「マザーハウス」編 | WWD JAPAN
YouTube動画のコンテンツも拡充
出典:【Bag編】風をまとうような軽やかリュックカゼマトウリュック | YouTube
さらにマザーハウスは、休業期間中にYouTube動画のコンテンツも拡充しました。上の画像は、山口絵理子社長が、リュック「カゼマトウ」を紹介しているものです。
出典:【1分間】マザーハウスTVのご案内 | YouTube
上の画像は、マザーハウスの事業の概要を伝える動画のものです。また、下の画像はインドの生産現場のドキュメンタリーです。
出典:【生産ドキュメンタリー】Republic of India~自由を探し求めて~ | YouTube
YouTubeやSNSなど、Webから販路を拡大刷る、自社の理念を伝えるという選択肢を持っていると、休業期間中でもリモートワークの選択肢を増やすことができる好例といえるでしょう。
アンフォロー:バーチャル展示会参加など
IENA・EDIFICEなど、多数のデザイナーブランドを取り扱うベイクルーズ。同社が展開するセレクトショップ・アンフォロー(UNFOLLOW)は、「実店舗を休業しても大きく仕事内容は変わっていない」といいます。
理由は、全てのスタッフが少数精鋭として採用されており、普段から以下のような経営サイドに近い業務を担当しているためです。
- 商品の買い付け
- VMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)
- PR・広報
- 展示会への参加
「店頭での販売だけをやっているわけではない」ため、休業しても「やることが多くある」わけです。たとえば、同店のディレクターとスタッフさんは、店舗休業中にバーチャル展示会に参加しました。
LDHアパレルの「フルビーケー(FULL BK)」が開催したもので、コロナ下で人が集まれないことを受けて、ビデオ会議アプリを使って商品説明や中継を行いました。
出典:FULL-BK公式サイト
店舗を営業している間は、こうした新しい試みを販売スタッフさんが体験しづらかったわけですが、コロナ下ではそうした体験をしやすくなったわけです。
また、店舗の休業中もInstagramの運営は続けており、約10名のスタッフさんでローテーションを組んで更新しています。Instagramで強いアカウントを持っていることは、店舗の営業が再開してからも大きな武器になります。
特別な技術も必要ないため「SNSのアカウントを強化すること」は、日常から各店舗や企業が導入できる、リモートワークの一つといえるでしょう(もちろん、どれだけスタッフさんの時間を割けるかという、リソースの課題はあります)。
(なお、アンフォローのスタッフさんの日常業務で登場したビジュアル・マーチャンダイジングについては、当サイトの下の記事でも詳しく説明しています)
参考販売員のリモートワークはどう取り組む? 買い付けやインスタグラム運営に携わるアンフォロー編 | Yahoo! JAPANニュース
foufou:着用モデルのリモートアルバイトを募集
[アパレル販売員(非正規雇用)の方でお店が閉まってしまった方!!]
foufouの新作リモートレビュアーやりませんか。サンプルをお送りするので自宅や散歩がてら顔出さずスマホで撮影をして着用感などをコメントして着払いで送り返す単発ですがアルバイトしませんか!次のツイートへ続く(画像もみてね) pic.twitter.com/jsNOzkIeF4
— foufouのマール・コウサカ (@foufou_marl) April 8, 2020
人気ブランドfoufouの代表兼デザイナーのマール・コウサカさんは、同ブランドの着用モデルのリモートアルバイトを募集しました。この募集はTwitterで行われ、1万1,000以上リツイートされるなど、大きな反響を呼びました。
同店はもともとECサイトで事業を展開していたため、コロナの影響を直接受けることはありませんでした。しかし、モデルさんによる着用イメージの撮影はできなくなっていたため、その撮影を在宅でしてもらうことを考えたわけです。
その人材として、普通のモデルさんではなく、アパレル販売員で仕事がなくなってしまった方を対象とした、という点が多くの共感を集めた理由といえます。採用されたのは10名の方ですが、「こういうリモートワークの選択肢もある」ということを示した点でも、意義の大きい試みだといえるでしょう。
参考お店で働けない「アパレル店員」をリモート雇用。ファッションブランド『foufou』のアイデア | キャリアハック
③ 経営:アパレルでリモートワークを導入している会社の事例2選
コロナ以前からリモートワークを導入していたアパレル企業もあります。主な事例としては、下記の2社のものが挙げられます。
ZOZOテクノロジーズ | フルフレックス&フルリモート |
ユニサイズ | アパレルサイズ自動提案AIの開発 |
共通するのは、どちらも「テクノロジー」を手掛ける企業であるということです。リモートワークと相性がいいのはテクノロジー・クリエイティブの2部門であり、これらを主力業務とする会社は、アパレル系でもリモートワークを導入しやすいことがわかります。
ZOZOテクノロジーズ:フルフレックス&フルリモート
出典:フルフレックスタイム・フルリモートワーク制度を導入 | 株式会社ZOZOテクノロジーズ
ZOZOのグループ会社「ZOZOテクノロジーズ」は、2019年8月1日から下の2つの制度を導入していました。
フルフレックスタイム制度 | 始業・終業時刻を自由に選択できる |
フルリモートワーク制度 | 好きな場所で働くことができる |
フルフレックスタイム制度は、月間所定労働時間さえ満たしていれば、好きな時間に勤務できます。また、フルリモートワーク制度は「回数制限なし」で利用できます。業務で問われる成果を出している限りは、極端な話「まったく出勤しない」ことも可能です。
メイキップ:アパレルサイズ自動提案AIの開発
出典:unisize公式サイト
株式会社メイキップはunisizeという「適正サイズレコメンドシステム」を提供しています。ECサイトで顧客が服を買うときに、より良いサイズを推奨するシステムです。
そのunisizeの開発部門は、コロナ以前から下記のようにリモートワークの求人を出していました。
出典:リモートワーク推奨!出社は週3日のみ!新たなファッション領域のコンシューマー向けサービス立ち上げを任せます!リードエンジニア募集! | Green
上記の求人での勤務条件は下記のようになっています。
- 出社は月水金の週3日
- 残り2日はリモート勤務可能
- 勤務時間はフレックスタイム制
- コアタイムは11時~16時
- 選択できる時間は10時~19時
以前から週3日でリモートワークを導入していた企業であれば、コロナの情勢下でのリモートワークも、スムーズに実現できたでしょう。なお、メイキップはリアル店舗で用いるバーチャル試着システム「FXMIRROR」も開発しています。
出典:FXMIRROR
この「FXMIRROR」を渋谷パルコが導入している事例を、当サイトの別記事でも紹介しています。
【参考】リテールテック「渋谷パルコ:オムニチャネル型売場・デジタル試着など」(当サイト)
こうしたテック系の事例については「同じアパレル業界でもジャンルが違う」と思われるかもしれません。しかし、上のパルコの例のようにリアルの売場にもテックが導入されている時代です。
そう考えると、テック系も(当然ながら)アパレルの重要なジャンルであり、アパレルのリモートワークとしてはこれから特に注目すべき分野といえます。
(なお、こうした売場でのテックの導入については、下の記事で詳しく解説しています)
【まとめ】リモートワークの拡大には、店舗の高度IT化が不可欠
アパレル販売でリモートワークの業務を拡大するには、主に下の選択肢があります。
- オンラインで接客する
- ECサイトを強化する
- SNS・YouTubeを強化する
- テック系に転身する
最後の「テック系への転身」は少々特殊なパターンです。そのため、それ以外の3つの選択肢をとることになるでしょう。
「オンラインの接客」は、アダストリアのようにECサイトと連動することで、売上をより伸ばしやすくなります。SNS・YouTubeについても、やはりWebのコンテンツである以上、ECサイトとの相性が非常に良いものです。
このように、アパレルのリモートワークを拡大しようと考えるなら、ECサイトの強化が特に重要となります。そして、ECサイトとリアル店舗の在庫を共有するのであれば、リアルタイムで正確な在庫管理をすることが不可欠です。
そのような在庫管理に貢献するのが、弊社が提供している高機能クラウドシステム『アパレル管理自動くん』です。クラウド管理のツールとして優れているだけでなく、業種がアパレルに特化していることで、アパレル業務での導入が非常にしやすくなっています。
同じくアパレル専用の特化型POSである『アパレル管理自動くんPOSレジ』と連携することで、リモートワーク以外の部分での経営分析などもスムーズになります。自社・自店でリモートワークの業務を拡大したいと考えている方、日常の在庫管理などをさらに的確にしたいと考えている方は、ぜひ下のボタンからサービスの詳細をご覧ください。
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