まとめ

モデレートプライス(中価格帯)での販売戦略~成功&失敗の事例6選~

2020/9/10

プレゼン

モデレートプライスでの販売戦略は、経営戦略を考える上で、注目されることが多いテーマです。中価格帯ということで、あらゆる企業にとって関連しやすいプライスゾーンであることが、その理由といえます。

モデレートプライスを主軸とした販売戦略で、多くの人が知りたいのは下のような点でしょう。

この記事では上記の疑問に答えつつ、モデレートプライスでの販売戦略についてまとめていきます。モデレートプライスだけでなく、1つの価格帯に注目すると、販売戦略がどのように見えてくるかという点でも、参考にしていただけるでしょう。

モデレートプライスとは?

女性

モデレートプライスとは、比較的買いやすい価格帯のこと。プライスゾーンの4分類の1つで、中価格帯とも呼ばれます。

主に該当するのは、デパートや専門店の価格帯。プライスゾーンの分類を表でまとめると、下のようになります。

呼称価格帯該当する店舗種別
ベストプライスゾーン超高価格帯最高級名声店(プレスティージ・ストア)
ベタープライスゾーン高価格帯高級専門店
モデレートプライスゾーン中価格帯デパート・専門店
ポピュラープライスゾーン低価格帯スーパー・チェーン店

現在の日本で多くの人が触れる価格は「ポピュラープライス」であるため、モデレートプライスは中価格帯といってもやや高めの価格帯といえるでしょう。

モデレートプライスの販売戦略の成功例・3選

プレゼン
モデレートプライスを軸にした販売戦略では、下記のような成功例が見られます。

セイコー普及価格帯のセイコーファイブは63年からのロングセラー
高島屋中価格帯の衣料品プライベートブランドが好調
アモーレ・パシフィック1ブランドずつ集中して中国への浸透を測る

それぞれの成功例について詳しく解説していきます。

セイコー:普及価格帯のセイコーファイブは63年からのロングセラー

セイコー出典:セイコー5スポーツ

グランドセイコーなどの高級腕時計を多数販売するセイコーですが、普及価格帯として「セイコーファイブ(セイコー5)」という商品を、1963年にリリースしています。

このシリーズは現在でも国内外で非常に人気が高く、中価格帯ということもあり、最も多くの人が身につけているセイコー腕時計の1つといえます。

参考セイコーファイブ | Wikipedia

セイコー自体は明らかにベタープライス(高価格帯)、ベストプライス(最高価格帯)で勝負する企業です。しかし、そのラインナップの中にキラーコンテンツのような存在として、セイコーファイブが登場し、半世紀以上も世界的な人気を博しています。

50年揺るぎなく成功しているという点で、中価格帯の販売戦略として、最も確かな事例といえるでしょう。この成功はマーケティング以上にそもそものセイコーのレベルが非常に高かったことが大きいといえます。この点は、中価格帯で成功する要素である「そもそもの商品の質を高める」という点に通じます。

セイコーファイブは質にこだわるだけでなく、近年も大胆な変身を図っています。それが「セイコー 5スポーツ」としてスポーツブランドに特化することであり、下のように積極的に、各ジャンルのビッグネームとコラボレーションしています。

  • ストリートファイターV
  • ブライアン・メイ(QUEENギタリスト)
  • レッドブル
  • ジョジョの奇妙な冒険

どの分野でも、半世紀以上に渡って変わらず愛されるブランドというのは「実は時代に合わせて柔軟に変化している」ものです。セイコーファイブの変身にも、それがよく現れているといえるでしょう。

高島屋:中価格帯の衣料品プライベートブランドが好調

スタイル・プリュ出典:スタイル・プリュ

高島屋は、中価格帯の自社ブランドとして「スタイル・プリュ」を展開。好調を維持する同社の事業の中でも、特に利益率の高い部門となっています。

スタイル・プリュはカタログ通販、ネット通販の双方で展開し、特にカタログが好調。従来は高島屋のメインカタログにチラシとして同梱していましたが、現在はグレードアップし冊子化しています。

課題は、高島屋全体の価格帯が下がることで「高級感」が損なわれる恐れがあること。同社はこのため、有料会員である「ハイランドクラブ」の会員減少を食い止めるため、下記の施策を実行しています。

  • 従来有料だった返品送料を無料にする
  • 新規会員獲得用の新聞広告を、積極的に出稿
  • 顧客の高齢化を考慮し、文字と写真のサイズを拡大
  • オペレーターの増員により、コールセンターの応答率を向上
  • 電話経由だけでなく、Web経由の注文も受付開始

高島屋の課題になっている「高級感をいかに維持するか」は、他社でもクリアすべきポイントです。高価格帯をメインにする企業にとって、高島屋の今後の取り組みは、その点で特に参考になるでしょう。

参考【高島屋 通販事業の現状と戦略㊦】 カタログ通販が好調維持、中価格帯衣料でPB再開へ、有料会員数も復調に | 通販新聞

アモーレ・パシフィック:1ブランドずつ集中して中国への浸透を測る

アモーレ出典:アモーレ・パシフィック

アモーレ・パシフィックは、韓国最大の化粧品メーカーです。同社は2000年代の中国進出で、価格帯別に下記のようなブランドを浸透させました。

高価格帯雪花秀
中価格帯マモンド
低価格帯イニスフリー

このときの同社の戦略の特徴は、

  • 一斉に全てのブランドを投下しない
  • 1つずつ投下していく
  • そのブランドにプロモーション費用を集中させる

というものです。1つのブランドが認知されたら、また次のブランドを投下という具合に、順番に各価格帯のブランドを浸透させました。上記の3つの中では、中価格帯のマモンドを最初に投下しています。

同社の中国戦略には「あえて現地化せず、韓国の製品をそのまま売る」「中国人女優を起用せず、韓国人女優を起用する」などの特徴もありました。これらの特徴と加えて「選択と集中」という基本を徹底したことも、成功の理由といえるでしょう。

参考化粧品業界のグローバルおよびローカル・ブランド戦略の考察―資生堂とアモーレパシフィックの中国市場での展開を中心に― | 大阪市立大学

モデレートプライスの販売戦略の失敗例・3選

女性

モデレートプライスを主軸にした販売戦略で、失敗例と指摘されるものでは、下記のような事例が見られます。

日系大手ホテルチェーン格安チェーン・外資高級ホテルに押されて「中価格帯病」に
モスバーガー同タイプの競合増加、外資高級バーガーの参入で苦境に
大塚家具高価格帯から中価格帯への移行が裏目に

あくまで「一人、あるいは複数の専門家から失敗例と指摘されている」というのみですが、その前提でそれぞれの事例について解説します。

日系大手ホテルチェーン:中価格帯病で低迷

東急ホテル
出典:名古屋東急ホテル 改装工事を実施 | PR TIMES

日系の大手ホテルチェーンは「中価格帯病」に陥っています。中価格帯病とは、簡単にいうと「中途半端で強みを発揮できない状態」です。ホテル以外のサービスや商品でも起こりうるものですが、近年のホテル業界では特に顕著に見られます。

ホテルには、もともと下記の2つの機能があります。

  • 宿泊する
  • 非日常を味わう

前者は同じホテルチェーンでも、アパホテルや東横インなどのコストパフォーマンスに特化したビジネスホテルが台頭しています。一方、後者についてはヒルトンやリッツカールトンなどの外資系が有利になっています。

こうした二極化が進む中で、中価格帯の国内の大手ホテルチェーンは、特色を打ち出せずに低迷しているというのが現状です。この状況を脱する一つの手段として、下記のような「他の価格帯との連携」があります。

  • 高価格帯の「セカンドブランド」になる
  • 低価格帯の「+αブランド」になる

1つ目については、たとえば山田ホテルという中価格帯のホテルであれば、

  • ヒルトンと連携する
  • 「ヒルトンYAMADA」という名称にする
  • 「少し安く泊まれるヒルトン」という位置づけにする

などの具体例が考えられます。逆に低価格帯なら東横インなどと連携し「東横YAMADA」など、通常の東横インより「プチ贅沢」なホテルとして再出発するわけです。

これらはあくまで一つのやり方ですが、この方法であれば「中途半端」というのが、逆にメリットになります。

参考「中価格帯病」に陥った成熟企業の再活性化に向けて~国内ホテル業界を例に~

モスバーガー:同タイプの競合増加、外資高級バーガーの参入で苦境に

モス
出典:モスバーガー、金曜限定「ごちそうチリバーガー 2種のチーズ」発売 | 食品産業新聞社

モスバーガーは、この6年間連続で客数が前年割れ。店舗は6年間で134店減少し、2019年~2020年の1年間のみで34店舗が閉店しています。

参考「閉店ラッシュが止まらない」1年で34店減ったモスバーガーの苦境 | プレジデント・オンライン

同社の苦境の原因もやはり「中途半端」と見なされていることにあります。モスバーガー自体の業態は変わっていないのですが、

  • 同レベルのクオリティの競合が強くなった(フレッシュネスバーガーなど)
  • より高級な海外ハンバーガーチェーンが日本に上陸し始めた

というのが、モスバーガーの失速で特に大きいとされる原因です。この点は「個性は相対的なので、環境の変化に影響される」という段落で詳しく解説しています。

大塚家具:中価格帯路線の強調が裏目に

大塚家具
出典:ヤマダ電機/大塚家具の商品を本格導入 | 流通ニュース

大塚家具の不調は、この5年ほどの報道で広く知られているとおりです。「大塚家具騒動」で経営の実験を握った直後から、大塚久美子社長は、中価格帯を強調する戦略をとりました。

参考大塚久美子社長が考える、大塚家具の次なる一手とは? | プレジデント・ウーマン

上の記事にもあるとおり、もともと大塚家具は「中価格帯がメイン」だったのです。高価格帯のイメージが強かったのですが「中価格帯」をクローズアップすることで、低価格帯のユーザーも呼び込もうとしたわけですね。

実際に中価格帯がメインであった以上、この狙いはある程度正しかったといえます。ただ、結果的にこの戦略は不調に終わり、大塚家具はヤマダ電機のもとで経営再建を図ることになりました。

参考大塚家具、6年ぶり赤字 久美子社長の中価格帯戦略不調 | 朝日新聞デジタル

この失敗の本当の原因はわかりません。

  • 「ブランドイメージを再構築する」という「印象」が重要な場面だった
  • そこに「お家騒動」の負のイメージが重なってしまった

という理由で失敗した可能性も高いでしょう。お家騒動がなければ成功していた可能性もあります。

コンテンツ・イズ・キング」の段落でも解説しますが、意外に「トップの人間関係」が、会社の命運を左右することは多いものです。経営が理論だけで成功するものなら、経営学者がAmazonやユニクロを生み出しているはずですが、実際にはそうなっていません。

こうした人間関係も含めた「企業の総合力」を、ケイパビリティといいます。ケイパビリティについては、下の記事で詳しく解説しています。

中価格帯で勝負するにはどんな要素が必要か?

プレゼンテーション

中価格帯を軸とする戦略では、下記の要素が必要になります。

それぞれ詳しく説明していきます。

明確な個性を出す(中価格帯は価格面での個性が出せない)

個性というのは、数値化しやすい要素ほど、明確に区別しやすいもの。そして、ビジネスでもっとも数値化しやすい要素は価格です。

このため、どんな業界でも「最安値」を売りにする企業や店舗が必ず存在し、逆に「最高級店・高級店」を売りにする企業・店舗も存在します。こうした価格での違いは、消費者にとってもわかりやすいのです。

しかし、中価格帯は言うまでもなく、このような「価格面での個性」を出せません。そのため、価格以外の部分で個性を出す必要があります。

個性は「相対的」なので、環境の変化に影響される

フレッシュネスバーガー出典:フレッシュネスバーガー

以前のモスバーガーは、この「価格以外での個性」を出すことに成功していました。国内のハンバーガーチェーンで、モスのような「新鮮野菜」をバーガーに挾んだ店舗はなく、マックやロッテリアとの明確な差別化に成功していたわけです。

しかし時代が変わり、モスに近い業態の下記チェーンが店舗を拡大し始めたことで、モスの強みが相対的に薄れました。

  • フレッシュネスバーガー
  • ファーストキッチン
  • バーガーキング

さらに、モスを超える高級ハンバーガー店として、下記のような海外ブランドが日本に上陸しています。

  • ベアバーガー
  • シェイクシャック
  • カールスジュニア
  • ウマミバーガー
  • ファットバーガー

これらとの比較で、モスの高級感は薄れてしまい「高品質なハンバーガーチェーン」という個性が失われてしまったのです。これは個人でも言えることですが、個性はあくまで他者との比較の上で成り立つものであり、最初から自分の中にあるものではないのです。

つまり、一度定義して確立した「自社の個性」は「やがて失われる」ことを想定し、次の個性を用意する必要があります(実際に、セイコーファイブはスポーツ専用に転身するという、大胆なモデルチェンジをしています)。

参考モス、5年連続の尋常じゃない客数減…マック復活&海外勢上陸ラッシュで「凡庸なバーガー化」| ビジネスジャーナル

あくまでユーザーに合わせる(価格帯の決定ありきではない)

当然ながら、商品を買うのは顧客であり、どんな価格や商品が良いかは「顧客が決めること」です。

  • 顧客が求めるものを、現場とデータの両方で熟考した
  • その結果、自然に中価格帯を軸にする戦略になった

という形でなければなりません。

  • 現在、業界の中価格帯に強いプレイヤーがいない
  • だから、我が社は中価格帯で勝負する

という考え方も悪くはないでしょう。プレイヤーがいないということは、それで現状困っている消費者のニーズを満たせる可能性があります。大塚家具も同じことを考えていました。

ただ、このように「経営方針が先にあった」場合でも、最終的には顧客に合わせなければなりません。たとえば中価格帯といってもホテルの事例で説明したように、高価格帯や低価格帯のサービスと融合するなど、さまざまなやり方があります。

どのようなやり方にしても「顧客に必要とされるやり方」を選ぶことが必要です。

商品の質自体を高める(コンテンツ・イズ・キング)

ビル・ゲイツ出典:HNA

どんな商品(サービス含む)を提供するのであっても、最終的にはその商品自体の質を高めなければなりません。もちろん、これは「ひたすら高品質を目指す」ということではありません。その価格帯の中で、さらに上の品質を目指し続けるということです。

インターネットの世界では、ビル・ゲイツが1996年に発言したContent is King(コンテンツ・イズ・キング)という有名な言葉があります。この原文の中でビル・ゲイツが「WindowsのようなOSもコンテンツである」といっているように、あらゆる商品はコンテンツです。

参考Content is King (1/3/96) | microsoft.com(Web Archive)

「コンテンツが王様である」という主張は、裏を返せば「マーケティングより商品自体が重要である」ということです。人によっては「マイクロソフトがそれを言うか?」と思うかもしれません。

「品質でMacより劣るWindowsが、マーケティングによって世界のPCの覇権を握った」と思っている人は多いでしょう。実際、ジョブズも公の場合で繰り返しそう発言していました。

しかし、Windowsのクオリティはある程度高かったのです。その証拠に、インターネット検索の巨人だったヤフーなどの大企業は、完全な後発だったベンチャー企業、Googleをマーケティングで潰すことができませんでした(初期のGoogleに投資しなかったベンチャーキャピタルは「Googleにはマーケティング能力がない」という理由で投資しなかったのです)。

マイクロソフトが同様にならなかったことを考えると、やはりWindowsの性能は「Macほどではなくとも、かなり良かった」のです。ただ「マーケティングによって勝利した部分もある」のは事実です。つまり、

  • コンテンツが「王様」である
  • しかし「女王」も必要である
  • 女王がマーケティングである

そう考えるとわかりやすいでしょう。Macには王様はいても、女王がいなかったということです。

(女王に当たる人物・スカリーをジョブズがペプシから引き抜いたエピソードは有名ですが、そのスカリーと衝突し、ジョブズはアップルを追い出されています。逆にビル・ゲイツは、経営担当のスティーブ・バルマーと絶妙なコンビを組んでいました)

参考スティーブ・ジョブスを追い出した「レジェンド」は「アップルのいま」をどうみているのか | 産経ニュース

このように、商品の質自体がもっとも重要だが、それだけが全てではない(マーケティングも重要で、それを担う人材とのコミュニケーションもまた重要)という、やや複雑な考え方が、中価格帯の戦略でも必要といえるでしょう。

まとめ:どの価格帯の販売戦略でも効率的なデータ分析が必須

女性

モデレートプライスの販売戦略で必要なことは、最終的に「ユーザーが求めているものを提供する」ことに尽きます。そして、ユーザーが求めているものを正確に把握するためには、現場の感覚に加えて「的確なデータ分析」が必要です。

そのデータ分析を効率的に行うためには、機能性の高いツールの導入が必要不可欠。アパレル店舗の運営であれば、アパレル事業に特化したクラウドシステムやPOSレジを導入するのがいいでしょう。

そのようなツールとしてお役に立てるのが、弊社が提供する『アパレル管理自動くん』です。アパレル事業に特化した高機能なクラウドシステムであり、あらゆるデータの収集・分析・管理を用意に行えます。

同じくアパレル特化型のPOSレジである『アパレル管理自動くんPOSレジ』と合わせてご利用いただくことで、店舗のオペレーションもより効率的に。モデレートプライスを含めたどの価格帯に軸を置くにしても、必須となるデータ分析を容易に行えます。

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