アパレル製品を分類する大きなカテゴリである重衣料と軽衣料。意味自体は簡単ですが、これをキーワードとした考察や解説のコンテンツは決して多くありません。
と考えている人も多いでしょう。この記事では上記の2点も含め、重衣料や軽衣料の意味、関連用語である中衣料の意味といった基本的な内容も解説していきます。この記事を読むことで、重衣料・軽衣料・中衣料の3つのキーワードについて、より深く理解していただけるでしょう。
目次
重衣料・軽衣料・中衣料の意味
重衣料・軽衣料・中衣料の意味を表でまとめると、以下のようになります。
単語 | 意味 | 具体例 |
---|---|---|
重衣料 | 厚手で重さのある衣料品 | コート、スーツ、ワンピースなど |
軽衣料 | 薄く軽い衣料品 | ワイシャツ、ブラウス、肌着、靴下など |
中衣料 | 重衣料と軽衣料の中間の衣料品 | ジャケットやブルゾンなど |
それぞれの単語について、簡単に解説していきます。
重衣料:厚手で重さのある衣料品のこと
重衣料の意味は言葉どおり「重い服」です。辞書の定義は下のようになっています。
コート、スーツ、ワンピースなど、厚手で重さのある衣料品のこと。⇔軽衣料。
重衣料 | コトバンク
人によっては「ワンピースは中衣料では?」と思うかもしれません。このあたりは、どのジャンルのどの製品でも「完全なカテゴリ分けは難しい」ということがあらためて言えます。
軽衣料:薄く軽い衣料品のこと
軽衣料も文字どおり「軽い服」です。辞書の定義は以下のとおりです。
ワイシャツ、ブラウス、肌着、靴下など、薄く軽い衣料品のこと
軽衣料 | コトバンク
重衣料との最大の違いは、肌着や靴下を含むことでしょう。後述する靴下屋やワコールのような業態も含むことが、軽衣料というジャンルの特徴といえます。
中衣料:重衣料と軽衣料の中間の衣料品のこと
中衣料も文字どおり「重衣料と軽衣料の中間の服」です。具体例としてはジャケットやブルゾンなどが挙げられます。
中衣料は、辞書で正式に採用されている単語ではありません。しかし、先に言及した「ワンピースは重衣料か」というテーマを考えると、中衣料という分類があることは便利です。夏物のワンピースなどは、明らかに重衣料ではなく中衣料でしょう。
なお、中衣料という単語は以下のようにアパレルメーカーの間でも用いられています。
2006年設立。ISO9001-2008認証工場。従業員数250名。
生産アイテムはカジュアルシャツ、ドレスシャツに加えブルゾンの中衣料へアイテム拡大。生産能力は年間70万着。
アパレル事業 | 東工コーセン
重衣料・軽衣料の4つの違い
重衣料と軽衣料の違いは「重い・軽い」という重量の話にとどまりません。単価や購入頻度など、生産や販売に直接関わる本質的な違いもあります。その違いを表でまとめると、下のとおりです。
重衣料 | 軽衣料 | |
---|---|---|
単価 | 高い | 安い |
購入頻度 | 低い | 高い |
気候影響 | 大きい | 普通 |
流行変動 | 普通 | 大きい |
以下、それぞれの違いについて解説していきます。
単価
両者の特にわかりやすい違いは単価です。大手監査法人のコラムでも、以下のように言及されています。
冬物のコートに代表される重衣料は単価が高いものの、数年に一度等、購入頻度が下がる一方で、軽衣料は単価が低いものの、消費者は毎シーズン数多く購入する等の特徴があります。
第1回:概況 | 業種別会計・アパレル(EY新日本有限責任監査法人)
購入頻度
コートやスーツのような重衣料は、当然頻繁に買うものではありません。逆にTシャツや肌着などの軽衣料は頻繁に購入するものです。この説明も、上の段落で引用したコラムで言及されています。
気候の影響
アパレル製品自体が気候の影響を受けるものですが、近年特に影響を受けているのは重衣料です。軽衣料が売れる夏は暑いままで、冬が暖冬になっているためです。夏が寒くなれば軽衣料の売上も変動するでしょうが、現状では冬だけが暖かくなっています。
「暖冬のせいで重衣料が売れない」ということは、この5年ほどアパレル業界でよく聞かれる話です。この点については「もはや言い訳はできない」という、下記のような専門家によるコラムも執筆されています。
参考もはや“暖冬”は言い訳にできない | 日本ネット経済新聞
トレンドの変動
軽衣料はユーザーの購入頻度が高いため、その時々のトレンドがダイレクトに反映されます。そのため、トレンドの変動が激しいのが特徴です。この点は、富士通マーケティングも以下のように言及しています。
軽衣料はトレンドやシーズンの影響を受けやすく、シーズン終了が近づくほど、商品価値が大きく低下します。
商品管理が容易になり、接客時間が3割アップ。 機会損失、売れ残りが減り、収益体質も改善 | 富士通マーケティング
軽衣料のトレンド変動の激しさは、軽衣料にシフトして一時代を築いたセシルマクビーが、この数年販売不振に陥っていたことを見ても実感できます。
軽衣料シフトのマーケティング戦略・成功事例3選
軽衣料は商品の種類が非常に多く、移り変わりも激しいため、トレンドをうまく掴むことが、戦略立案で特に重要な要素といえます。軽衣料にシフトして成功した生産・販売の戦略としては、以下の3例が特に参考となるものです。
セシルマクビー | 重衣料から軽衣料にシフトし黄金時代を築く |
タビオ | 軽衣料の中でも特に軽い靴下に特化し「靴下屋」を展開 |
ジュニアー | 軽衣料への生産シフトで、縫製の技術や体制を刷新 |
以下、それぞれの事例の要点をまとめ、紹介させていただきます。
セシルマクビー:重衣料から軽衣料にシフトし黄金時代を築く
出典:セシルマクビー
「マルキューブランド」の代表格として、一世を風靡したセシルマクビー。アムラー時代のへそ出しファッションに代表されるように、軽衣料を中心に大きな成功を収めたブランドです。
しかし、もともとのセシルマクビーは重衣料を得意としていました。これは以下の記述でわかります。
それまで、重衣料が得意なブランドだった「セシルマクビー」は路線を変え、当時「カジュアル、エレガンス、セクシー」の3方向で展開しました。
変化に強い力を磨くための3つのポイント | プレジデント・ウーマン
当時というのは90年代後半のこと。正確な年代は不明ですが、この少し前の時代から、セシルマクビーは軽衣料にシフトしたということです。
セシルマクビーの運営会社はジャパンイマジネーション。同社の創業は終戦翌年の1946年で、もともとは老舗の婦人服店でした。街の婦人服店らしくコートなどを重点的に手がけていたと思われますが、それがギャルファッションの軽衣料に大きく舵を切ったわけです。
周知のとおり2020年のコロナ禍により、セシルマクビーは全店舗を閉鎖し、オンライン事業などの展開に注力していくことを発表しました。かつて軽衣料にシフトして一時代を築いたことと同様に、新しい路線でもセシルマクビーが大きな成功を収めることを期待しているファンの方も多いでしょう。
タビオ:軽衣料の中でも特に軽い靴下に特化し「靴下屋」を展開
出典:靴下屋 | タビオ
靴下屋の展開で知られる、東証2部上場企業のタビオ。同社が「靴下」に特化したことは軽衣料にシフトする戦略の中でも最たるものです。この点は、集中戦略を説く書籍でも以下のように言及されています。
従来衣料品店は、重衣料(上着、ズボン等)から軽衣料(下着、靴下等)まで揃えているのが普通でした。しかしタビオは、軽衣料の中でもさらに靴下に特化して「靴下屋」という靴下専門店を展開しました。
集中戦略 | ビジュアル改訂版 「経営戦略」の基本がイチから身につく本
上の引用文の中で「下着、靴下」という言葉が出ているように、下着も軽衣料の最たるもの。その下着に特化した大企業といえば、ご存知ワコールです。
ワコールは1946年の創業時点では、アクセサリー販売を手がけていました。ここから直接「世界一の下着メーカー」を目指して1950年に舵を切ったのが同社の歴史です。このため「軽衣料の中でも下着に特化した」という意識は、ワコールの中では全くなかったでしょう。ただ「軽衣料・重衣料」というキーワードで見れば、タビオと同様「軽衣料の中でも特に軽量の下着に特化したメーカー」といえます。
ジュニアー:軽衣料への生産シフトで、縫製の技術や体制を刷新
出典:株式会社 ジュニアー
株式会社ジュニアーは1947年創業の老舗アパレルメーカー。1972年に当時はまだ珍しかった「Lサイズの既製服」を発表した先駆的な企業です。
同社は1990年代前半まで、重衣料を中心に生産を行っていました。これは下記の記述でわかります。
15年ほど前にカットソーやTシャツ、布帛のブラウス、ジャケットなどを始めて、現在では80%がブラウス、シャツ、Tシャツです。軽衣料を始めた当初は、使うミシンもそのままでしたので、仕上がりが"固い""重たい"とずいぶん指摘されました。重衣料の縫製をしていたのでしょうね。
重衣料からニットへの転換 L,Sサイズ中心の商品戦略 | JUKI PLAZA
この「JUKI Magazine」による取材は2008年のものであり、その15年前は1993年となります。その時期まではカットソーやTシャツも生産しておらず、重衣料が中心だったということです。
そして「重衣料の縫製をしていたのでしょうね」という言葉どおり、縫製で大きな違いを実感されたということ。ジュニアーはその時点で創業50年近く経っていた、アパレル生産におけるプロ中のプロです。それでも、軽衣料と重衣料の縫製の違いは「始めてみてわかった」ということを読み取れます。
このジュニアーの事例は販売ではなく生産がメインですが、生産での軽衣料と重衣料の違いとしても参考になる内容です。
重衣料シフトのマーケティング戦略・成功事例3選
重衣料のマーケティング戦略を特に左右する要素の1つが素材。素材がテーマとなった成功事例として、以下の3ケースが挙げられます。
三陽商会 | 重衣料に吸湿発熱綿「マックスサーモ」を使用、業績も大幅に向上 |
サンティクス | 無縫製の重衣料「テクラー」を開発 |
瀧定大阪 | コートに新素材・インポートニットを導入して成功< |
それぞれの事例を要約し、紹介させていただきます。
三陽商会:重衣料に吸湿発熱綿「マックスサーモ」を使用、業績も大幅に向上
出典:三陽商会
いわずと知れたアパレル大手の三陽商会。同社は2011年から重衣料への機能性素材の導入を始めました。
- コート吸湿発熱綿「マックスサーモ」を中綿に使用。16ブランドで活用スーツ蓄熱保温素材のライナーを活用レディースインナースポーツ衣料やNASAで活用されている温度調整機能の高い素材
参考三陽商会はコートなど重衣料で機能性商品を強化。ウォームビズ関連に力を入れ、震災による落ち込みの挽回目指す | 東洋経済
報道当時は9月であったため、いずれも冬物でウォームビズ関連の商品。温度調節に関する素材を導入しています。そして、三陽商会のこうした方針転換は見事に成功し、2015年には重衣料の販売好調により、業績も大幅に向上しました。
参考三陽商会が上方修正後に急伸、重衣料が想定以上に好調で上方修正 | ロイター
サンティクス:無縫製の重衣料「テクラー」を開発
出典:サンティクス 無縫製の重衣料立ち上げ 圧着テープで生地貼り合わせ 縫いしろなくストレスフリー | 中部経済新聞
1963年創業の老舗アパレルメーカー・サンテイグループ。同社の第一事業部であるサンティクスは、無縫製の重衣料ブランド「テクラー」を、2020年1月に開発しています。
重衣料は文字どおり重いのが難点ですが、この軽量化のために「縫製をなくす」というアイディアを実現。縫製をなくせば全体の縫いしろがなくなり、その分軽くなります。また、内側の見た目もスッキリするのが利点です。
無縫製でどのように作るのか
これは、圧着テープを用います。この手法はスポーツウェアや女性向けのブランド衣料、水着や下着など用いられてきた手法。しかし、メンズのドレスでは珍しい試みです。
「貼り合わせる方法では強度が落ちるのではないか?」と思うかもしれません。しかし、強度はミシン糸による縫製を上回るといいます。水着のような合成繊維だけでなく、ウール90%の混合素材にも適用可能。天然調の合成繊維や、高い混合率のウールにも適用できるため、クラシックなスタイルも実現できます。
テクラーはまだ2020年1月に登場したばかりであり、直後にコロナ渦があったため、これから結果が出るブランドといえます。しかし、技術は確実に高いものであり、重衣料の開発戦略として非常に参考になる事例の1つといえるでしょう。
参考サンティクス 無縫製の重衣料「テクラー」を開発 | 繊研新聞社
瀧定大阪:コートに新素材・インポートニットを導入して成功
出典:STYLEM
1864年創業、資本金3億1000万円の大企業であるSTYLEM(スタイレム)。同社のグループ会社である瀧定大阪は、2012年に重衣料への新素材導入に成功しています。
導入した新素材はインポートニット。輸入したニットのことで、同社のケースではミャンマーで縫製。空気を含みやすい特殊な糸を使用しており、軽くて暖かい点が特徴です。ここでも先ほどのテクラーと同じく、重衣料をいかに軽くするかがテーマとなっています。また、保温性を重視している点は三陽商会と共通します。
ニットでもウールコートとして布帛風に仕立てることが可能。そして、ニットである以上本物のウールであるメルトンやモッサよりも大幅に軽くなります。保温性の高さについても、外部機関に委託した実験結果で確認できている利点です。
三陽商会やサンティクスの例と合わせて見ても、重衣料にシフトする戦略では、このような素材の開発や発掘が重要であるといえるでしょう。
参考瀧定大阪 インポートニットのコートが秋冬22万枚 | STYLEM(元記事は繊研新聞)
まとめ:ジャンル別の動向を的確に見極めるには高機能なクラウドが有効
重・中・軽衣料の販売データを的確に把握することは、アパレル店舗のマーケティングにおいても重要です。たとえば、ユナイテッドアローズの「グリーンレーベルリラクシング」のウィメンズ部門は、以下のように重・中・軽のデータ分析を行っています。
- 「ドレス」「キレイメ」「カジュアル」などのカテゴリごとに売上シェアを設定する
- 各カテゴリの中でさらに「重・中・軽」の売上シェアを設定する
- これを元に商品調達の計画を立てる
参考[PDF] 商品力向上への取り組み・グリーンレーベル リラクシング | ユナイテッドアローズ
このスタイルで計画を立てる場合、重・中・軽の各ジャンルで、これまでの販売データが的確に管理されていることが重要。その管理を効率的に行うためには、優れたクラウドシステムやPOSレジを導入するのが有効です。
弊社が提供する『アパレル管理自動くん』と『アパレル管理自動くんPOSレジ』は、アパレル事業に特化した高機能クラウドシステムとPOSレジです。アパレル店舗の運営で便利な機能が豊富に盛り込まれており、あらゆる角度からのデータ分析を容易にでき、ご希望のデータによって製品をカスタマイズすることも可能です。
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