アパレル業界でしばしば目にする単語の1つであるCMT。この意味は、国内取引とグローバル取引でやや異なるものです。
上記3つの内容を、この記事ではまとめます。特にグローバル取引については、世界7カ国におけるCMTの実情も紹介します。
CMTという単語を切り口にして、アパレルのグローバル取引における実情の一部を知る上でも、役立てていただけるでしょう。
目次
アパレルのCMTとは
アパレルのCMTとは「Cutting,Making&Trimming」の略で、製品加工賃見積もりのこと。簡単にいうと製造コストの見積もりです。国内では、主にこちらの意味で用いられます。オーソドックスなアイテムの1つの製造単価で表されることが多く、製造コストの大まかな目安を把握したり、製造を依頼する工場を決める際の検討する際の材料として使われます。
見積もりであるため、CMTの単位は金額になります。たとえば、エチオピアで平均CMTのデータがわかっている工場は、下のような数字が出ています(国内工場のデータは一般にはほぼ公開されていません)。
出典:エチオピア国日系アパレル企業のOEM生産を対象とした品質管理・検品事業に係る基礎調査業務完了報告書 | JICA
上の工場は基本のポロシャツで1.2~1.3USDで製造できるということ(材料費は別で、加工賃のみです)。2020年11月末時点の相場では、おおよそ130~140円となります。
同じエチオピアの別の工場では、ベーシックなTシャツ・ポロシャツ・パンツで0.79~0.85USDとなっています。おおよそ90~100円という金額帯です。
出典:同上
上記の資料はJICAによるものです。JICAのようにアパレルと関係のない組織でも、アパレルの製造に関するテーマでは、CMTという単語を公に用いていることがわかります。
以下、CMTの意味の補足として、下の内容を解説していきます。
CMTは何の略か
冒頭のとおり「Cutting,Making&Trimming」の略ですが「Cut,Make,Trim」として「ing」を外すこともあります。3つの単語の意味は、それぞれ下のとおりです。
Cutting | 裁断 |
Making | 縫製 |
Trimming | 仕上げ |
これは英語の意味そのものですが、次の段落で紹介する資料からもわかります。
「裁断・縫製・仕上げの作業」を意味する場合も
CMTを「見積もり」ではなく、裁断・縫製・仕上げの「作業」とするケースもあります。
生地を裁断・縫製・仕上する作業(以下、総称してCMTとする)は、(後略)
ファストファッションの製造工程と 東南アジア縫製工場 | 東レ
このケースは「文章を簡単にするため、ひとまず略語としてCMTとした」というものです。そのため「東レではこういう定義」というわけではありません。ただ、文脈によってはこのように「CMT=一連の加工作業」を意味していることもあります。
定義の資料
アパレルのCMTは辞書で定義されている言葉ではありませんが、信頼できる資料(繊研新聞社)では下のような記述が見られます。
発注企業と受注企業が適正な価格を交渉・協議するための目安となる加工賃(CMT)
アパレル工連 クラウドシステムで目安の縫製工賃算出 | 繊研新聞社
上の説明では「CMT=加工賃」となっています。これだけ見ると「加工賃見積もり」ではなく「加工賃」が正解に見えます。
しかし、上記のシステムで算出をした時点では、まだ契約を交わしたわけではありません。そのため、上記の加工賃は事実上「加工賃見積もり」となります(一般的にも見積もりの意味で使われます)。
文科省委託事業の資料では、下のように「加工費」と簡単に定義しています。
Cutting, Making & Trimming:加工費の略称
岡山県をモデルとした中核的デニム・ジーンズクリエイターの、地域版社会人学び直し教育プログラム開発と実践事業 | 文科省
こうした定義があることを見ると「加工賃見積もり」だけでなく「加工賃・加工費」という、決定金額の意味もあると考えた方がいいでしょう。ただ、一般的には「見積もり」の意味で用いられます。
CMTが安ければ製品が安価とは限らない
CMTが安いということは、製造コストが安いということです。そのため、基本的にはCMTが安いほど製品も安くなります。
しかし、製品全体のコストでは、材料費や輸送費なども加算されます。
- 高級な材料を使っている
- どこか遠い国で製造している
という場合は、CMTが安くても製品は高くなるわけです。
見積もりでは、どんな情報をやり取りするか
見積もりでは、下記のような情報を工場に伝えます。
- 生産予定枚数
- 展開色数
- サイズ展開
上記だけでも大雑把な見積もりはとれますが、下記も行うとより正確な見積もりが出ます。
- 製品サンプルを作ってもらう
- 仕様、仕上げ方法も詳細に伝える
こうして細部を詰めて諸費用も計算すると、最終的な見積もりが出ます。
CMT方式(賃加工)とは?
アパレルのCMTにはもう1つ「賃加工」という別の意味があります。
賃加工とは何か
賃加工の仕組みをイラストで説明すると、下のようになります。
箇条書きの文章で説明すると、下記の通りです。
- 工場が、無料で材料を仕入れる
- その材料で製品を作る
- 材料をくれた会社に製品を納品する
- 材料費を差し引いた対価をもらう
この仕組みであれば、材料を買うお金がない工場でも、事業をスタートできるわけです。最初の材料費を発注者が負担している分、対価は多少安くなります。しかし「ひとまず事業を始めたい」という会社や、「産業を発展させたい」という新興国にとっては、メリットのある形態です。同時に材料を提供している発注元企業にとっても、製造取引先との契約ハードルが下がるという点でメリットがあります。
なお、辞書での短い定義は下記のようになります。
材料を支給されて、これを加工し、加工賃を対価として得る行為。
賃加工 | コトバンク
「CMT方式=賃加工」というのは、どこでわかるか
これは下の記述でわかります。
ベトナム縫製業の高付加価値化―取引形態を賃加工(ベトナムでの通称CMT: Cut, Make and Trim)から材料買いの製品売り(同FOB: Free-On-Board)へシフトさせる。
グローバル化時代のベトナム工業化戦略 | 策研究大学院大学
「CMT方式」という言葉はどこに登場するか
CMT方式という言葉は、下の記述に登場しています。
(前略)CMT方式とは、主要な原料(生地、付属資材等)を無償で輸入し、これを国内工場で裁断(Cut)、縫製(Make)、梱包(Pack)あるいは仕上げ(Trim)し、製品を全量再輸出するという加工貿易である。
縫製産業におけるパフォーマンス格差とその要因 | JETRO
上の説明だとP(Pack)があるため「CMPTになるのでは?」と思う人もいるでしょう。実際、CMTの類義語として「CMPT」があります。
「CMT=賃加工の発展版」という定義もある
賃加工とCMTを「別のもの」とする定義もあります。下記のジェトロの定義では、CMTは「賃加工がやや発展したもの」です。下の表は、賃加工・CMT・生産完仕入の3スタイルで、「どれだけ流通業者=発注元から材料を提供されるか」をまとめたものです。
取引方式 | 内容 |
---|---|
賃加工 | 「全部」の材料 |
CMT | 「メイン」の材料だけ |
生産完仕入 | 「一部」の材料だけ |
上記の説明では、CMTは「賃加工の発展版」といえます。しかし、本質的な意味は同じです。
世界7カ国のアパレル製造現場におけるCMT方式
CMTという単語は、世界のアパレル業界で用いられますが、とりわけその国のアパレル産業を表す際、上記で解説した2つ目の意味(賃加工)で使われます。
それぞれの国でどのように使われているか、CMT方式がどのように広まっているのかなどをまとめると、下のとおりです。
ミャンマー | 国内工場の約90%がCMT方式 |
ベトナム | CMTからの脱却を目指している |
メキシコ | 作業服製造でCMTが多い |
韓国 | 賃加工とCMTが区別されている |
インド | プルニマ・エクスポートが、日本語でCMT事業をアピールしている |
台湾 | 賜寶實業有限公司が、日本語でCMT事業をアピールしている |
エチオピア | 複数工場のCMT(加工賃)がJICAのデータで公開されている |
以下、それぞれ詳しく説明していきます(最後のエチオピアは、冒頭部分にリンクしています)。
ミャンマー
ミャンマーでのCMT方式については、下のように説明されています。
ミャンマーには現在およそ 350のアパレル工場が稼動しているが、南アジアの主な供給地点と比べるとごく小さなものだ。工場は、CMT(Cut、Make and Trim)方式によって生産を行っている。付加価値を高めるために、ミャンマーは徐々にその生産システムを、国内工場の 90%以上が採用している契約製造から、OEM 方式や OBM 方式に向上していくことを目指している。
持続可能なアパレル業界のバリュー・チェーンを創造する | インパクト・エコノミー日本語版
上記の内容を要約すると、下のとおりです。
- ミャンマーには、およそ350のアパレル工場がある
- 90%以上がCMT方式で生産を行う
- 付加価値が低いため、この現状を変えたい
- 今後は、OEM方式・OBM方式を目指す
上の説明では、OEMやOBMもCMTの対義語と見ることができます(基本的に、付加価値の高い業態はCMTの対義語となります)。
ミャンマーではCMPと呼ぶことも多い
もともとCMTとCMPは同じ意味なのですが、ミャンマーではCMPと呼ぶケースが多いようです。これは下の記述でわかります。
【CMP型受注生産方式】原材料を輸入しミャンマーで加工し、完成品を原則すべて輸出する。国外で調達するケースが多い。ベトナム他ではCMT(Cutting, Making and Trim)と呼ぶ。
ミャンマーの衣類縫製産業の輸出競争力 ~LDC卒業に備えるための課題~|(一社)国際貿易投資研究所
太字の部分を見ると「ミャンマーではCMPを主に用いる」「ベトナムや他国ではCMTを用いる」ということがわかります。ミャンマーで「CMP」の表現を多く用いることは、下の記述でもわかります。
CMPと呼ばれる生地や付属品など原材料を顧客が指定して費用も負担する方式で製品が生産・輸出されている。メーカー側としては、コスト負担が少ないことがメリットであるが、利益率は低い。
ミャンマーにおける繊維産業の現状と将来性 | 大和総研グループ
海外企業がCMTを行うには政府の承認が必要
CMTは「材料をすべて輸入し、製品をすべて輸入する」という、国の輸出入への影響度が大きい形態です。1社では小さくとも、そうした企業がたくさん集まれば、国の貿易収支に大きな影響を与えます。そのため、全社を政府がチェックする必要があります。
このため、外国企業がミャンマーでCMT方式の現地企業(CMP企業)を立ち上げるには、政府の承認が必要となります(下記参照)。
外国企業がミャンマーに進出しCMP企業として活動するには、①企業設立当初からCMP企業として登記する必要がある。
ミャンマーの衣類縫製産業の輸出競争力 ~LDC卒業に備えるための課題~|(一社)国際貿易投資研究所
上記のルールは、ミャンマー以外の国でも設定されている可能性があります。
ベトナム
ベトナムでは下記のとおり、CMTからFOBへのシフトを目指しています。
ベトナム縫製業の高付加価値化―取引形態を賃加工(ベトナムでの通称CMT: Cut, Make and Trim)から材料買いの製品売り(同FOB: Free-On-Board)へシフトさせる。
グローバル化時代のベトナム工業化戦略 | 策研究大学院大学
全部自分たちでおこなう製品売り(FOB)の方が付加価値が高いため、そちらを目指しているということです。この流れはミャンマーと共通します。
メキシコ
あくまで1つのレポートによってですが、メキシコでは、ユニフォーム(作業服)の生産でCMT方式が多い傾向が見られたと、報告されています。
ユニフォーム専門のA社とD社がCMT(裁断・縫製)生産を行っていることから、一括生産はカジュアル衣服において、CMT生産はユニフォームという特殊な衣服の分野において広がる傾向にあるといえる。
メキシコのマキラドーラ型アパレル工場の労働組織 | core.ac.uk
CMTは「すべて発注者に指定されて作る」ものであり、製造業者の個性を出しにくい方式です。逆にいえば「個性が必要ない」方式でもあります。
作業服は、カジュアル衣料に比べると個性が求められない領域です(少なくとも新興国では)。このため、上記のような傾向が見られたと考えられます。
韓国
韓国にはCMT方式を含め、下記の3つの生産方式(取引方式)があります。
賃加工 | すべての材料を発注者に用意してもらう。自社は加工だけを行う |
CMT | 基本の材料は発注者に用意してもらうが、一部の材料を自社で用意する。加工もする |
生産完仕入れ | すべてを自社で行う。ODM方式ともいう |
ここまでは、CMT=賃加工と説明してきました。しかし、上のジェトロの分類では、賃加工とCMTがやや異なっています。ただ、一部の材料を自分たちで用意するかどうかという違いがあるのみで、本質的には同じ意味といえるでしょう。
海外アパレル製造業者が、日本人向けにCMTという言葉を使っている例
CMTという言葉は、海外のアパレル製造業者(工場)が、日本企業向けのホームページでも用いています。ここでは、台湾とインドの業者の例を紹介します。
インド:プルニマ・エクスポート
インドのプルニマ・エクスポート社は、下記のように日本語ページを作り、CMTサービスをアピールしています。
私たちは、ファブリックのためにそこに自分のベンダーを持ってお客様にCMTのサービスを提供。
インドのCMT衣服製造業 | Purrima Exports
自動翻訳のような文章ですが、筆者が自動翻訳にかけたわけではなく、もともと上記の文章が固定でアップされています。上記の内容から、インドのアパレル工場が日本企業と取引をするとき、CMTという単語を使っていることがわかります。
台湾:賜寶實業有限公司
台湾の賜寶實業有限公司(シーパオ・エンタープライズ/日本語訳:賜宝実業有限会社)も、アパレルのCMT生産を手掛けています。同社はアクセサリーのOEM生産がメインであるため、アパレルのCMTについての説明はほとんどありません。しかし、台湾企業も日本企業との取引で、CMTという言葉を用いていることがわかります。
CMTの類義語・対義語は?(CMP・CMPT・FOB・FPP)
CMTの類義語と対義語は、それぞれ下のとおりです。
類義語 | CMP・CMPT |
対義語 | FOB・FPP |
それぞれ詳しく説明していきます。
類義語
CMTの類義語は、CMPとCMPTです。それぞれの意味をまとめると、下のとおりです。
CMP | Cutting, Making, and Packing(裁断、縫製、包装) |
CMPT | Cutting, Making, Packing and Trimming(上記3つ+仕上げ) |
上記は、下の記述を表にしたものです。
CMPはCutting, Making, and Packing(裁断、縫製、包装)の略で CMPT(Cutting, Making, Packing and Trimming(仕上げ))またはCMT(Cutting, Making and Trimming)とも呼ばれる。
ミャンマーにおける繊維産業の現状と将来性 | 大和総研グループ
CMPTの方が作業が1つ多いわけですが、それ以外の内容は同じです。
対義語のFOB・FPPとは?
CMTの対義語は、FOBとFPPです。それぞれの意味をまとめると、下記のようになります。
単語 | 何の略か | 意味 |
---|---|---|
FOB | フリー・オン・ボード | 製品売り |
FPP | フルプロダクション・パッケージ | 丸投げ |
それぞれ詳しく説明していきます。
FOB:フリー・オン・ボード(製品売り)
FOBがCMTの対義語であることは、下の記述でわかります。
ベトナム縫製業の高付加価値化―取引形態を賃加工(ベトナムでの通称CMT: Cut, Make and Trim)から材料買いの製品売り(同FOB: Free-On-Board)へシフトさせる。
グローバル化時代のベトナム工業化戦略 | 政策研究大学院大学
何が対義(反対)かというと、付加価値です。
CMT | 付加価値が低い |
FOB | 付加価値が高い |
より詳しく違いを書くと、下記のようになります。
CMT | 材料を自分たちで手配しない(加工だけ) |
FOB | 材料を自分たちで手配する |
つまり、製品売り(FOB)は材料調達からすべて自分たちで行い、完成した製品を売るという形態です。自分たちで行う作業が多い分、高付加価値の仕事となります。
なお、FOBは主に貿易・物流で使われる用語で「本船渡し」の意味があります。「完成品を売る」という行為は本船渡しに似ていますが、大和証券のレポートでは下記のとおり「無関係」としています。
ここで言うFOBは、貿易決済用語であるFree on Boardとはほぼ無関係である。
ミャンマーにおける繊維産業の現状と将来性 | 大和総研グループ
FPP:フルプロダクション・パッケージ(丸投げ)
出典:SEWPORT(リンクは下記)
世界のアパレルデザイナーと製造工場をつなぐ、ロンドン発のオンラインプラットフォーム・Sewport。同社(同サービス)のオウンドメディアでは、CMTの対義語が下のように説明されています(一部意訳)。
製造プロセスを自分たちで管理したい場合は、CMT(Cut、Make、Trim)工場を使用するのが適しています。しかし、すべて業者に任せたい場合は、FPP(フルプロダクション・パッケージ)が適しています。
CMTとFPP:どちらがビジネスに最適か(それぞれの利点)| SEWPORT
CMTは、発注者が材料を工場に提供し、デザインも指定する必要があります。つまり、発注者は「かなりの製造経験がある」わけです
一方、そのような経験がなく「コンセプトや大体のデザインを思いついただけ」(←否定しているわけではなく、わかりやすく表現すると)という場合は、全部業者に任せるのがおすすめ、という意味です。
「フルプロダクション・パッケージ=丸投げ」と考えると、CMTの逆であることを理解しやすいでしょう(CMTはいろいろこちらで手配するため)。
まとめ:CMTを含めた原価計算を的確にするには、高機能なクラウドシステムが有効
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