売場のデザイン(ビジュアル・マーチャンダイジング)は「いかにお客様の目を引くか」が鍵になります。この「人目の引きやすさ」が誘目性です。売場の誘目性を高めるために、多くの人が知りたいのは下のような点でしょう。
- 基本的なコツ
- 誘目性が高まる色の組み合わせ
- 誘目性が高い色の順番
この記事では上記の内容と合わせて、下記の目次のように「誘目性全般」についても解説していきます。売場の誘目性を高めたい方にも、誘目性自体について詳しく知りたい方にも、参考にしていただけるでしょう。
目次
誘目性とは?(意味・例・英語)
出典:プラザの渋谷109店 全面ピンクの売り場で盛況 | 繊研新聞社
誘目性とは、目立ちやすさのことです。正確には「探していない人にとっての、見つけやすさ」を指します。より厳密に定義すると「注意を向けていない対象の発見のされやすさ」となります。
誘目性を左右する要素をまとめると、下のとおりです。
カラー | モノクロよりカラーが強い(無彩色より有彩色が強い) |
明度 | 明度が高いほど強い(白は黒より強い) |
色相 | 暖色は寒色より強い(そのまま) |
彩度 | 高彩度は低彩度より強い(原色は間色より強い) |
上記を簡単にまとめると、下のようになります。
- 有彩色>無彩色
- 白>黒
- 暖色系>寒色系
- 高彩度色>低彩度色
誘目性の意味を補足する情報をまとめると、下のとおりです。
定義 | 注意を向けていない対象の発見のされやすさ |
例 | 信号・三角コーン・通学帽・点字ブロックなど |
英語 | visual attraction、noticeabilityなど |
それぞれ詳しく説明していきます。
意味:注意を向けていない対象の発見のされやすさ
誘目性には、まだ辞書での定義がありません。『色彩検定2級公式テキスト』では注意を向けていない対象の発見のされやすさと定義されています。
この意味は「探していなくても見つかりやすい」ということ。この点は「探している人にとって見つかりやすい」という、視認性と異なる点です。誘目性と視認性の違いはこちらの段落で解説しています。
なお『カラーコーディネーター2級公式テキスト』では、注意を向けていない視野周辺にあるような対象の目立ちやすさと定義しています。この意味も、色彩検定の定義とほぼ同じです。
辞書で「誘目性」という言葉が登場するのは、下の記述です。
赤はその抽象的連想である熱烈、危険を、あるいは高い誘目性を(中略)考慮している。
安全と識別のための色彩(色彩調節)| コトバンク
上の説明にも登場しているとおり、赤は誘目性が最も高い色です(白背景や昼間であれば)。
誘目性が高いものの例
出典:点字ブロック・公式サイト
誘目性が特に高い色は赤と黄色です。それぞれの色が用いられている例をまとめます。
赤色 | 赤信号、三角コーン、赤い標識、赤ポスト |
黄色 | 通学帽、ランドセルカバー、点字ブロック、黄色の標識など |
ポスト以外は「危険を伝える」ものです。ポストが赤いのは「目立つ」ためです。昔は地図情報がほとんどなく、知らない街ではポストを自力で探す必要がありました。そのため、目立つ色にしていたのです(ちなみに、最初期は木製だったため、赤色ではなく茶色でした)。
特に点字ブロックは、下記のように誘目性と視認性を両立しています。
誘目性 | 黄色は目立つ色である |
視認性 | アスファルトの灰色の中で目立つ |
誘目性だけなら赤の方が上ですが、アスファルトの中では黄色の方が目立つということです。これは児童の通学帽や、工事現場のバリケードでも共通する理由です。
(視認性についてはこちらの段落で解説しています)
英語
誘目性の英語訳には、統一された答えがありません。2つの辞書とGoogle翻訳で、それぞれ下記のように英訳が分かれています。
英語 | 辞書 |
---|---|
visual attraction | Weblio英語辞書 |
noticeability | 英辞郎(アルク) |
Attractiveness | Google翻訳 |
このため、書こうとしているジャンルや文脈に合わせて単語を選ぶことが必要です。
誘目性を活かしたカラーマーチャンダイジング(実例)
マーチャンダイジングとは「マーケティング戦略」のことです。マーケティング戦略は、経営全体だけでなく「売場」にも必要なもの。売場でのマーチャンダイジングを「インストアマーチャンダイジング」といいます。
そして、そのインストアマーチャンダイジングの中でも特に色を効果的に使うことを「カラーマーチャンダイジング」といいます(下記参照)。
色を効果的に使ったインストアマーチャンダイジングのことをカラーマーチャンダイジングという。
カラーマーチャンダイジング | MD NEXT
カラーマーチャンダイジングのポイントとしては、たとえば下のようなものがあります。
それぞれ、実際の売場の写真と合わせて解説していきます。
暖色は目立たせたいPOPに使う
出典:ドンキとユニーの共同店が急拡大しない事情 | 東洋経済
暖色は寒色より目立つため、目立たせたいPOPには暖色を使うのが基本です。上の画像はドン・キホーテの売場のものですが、大きな値札がすべて「黄色背景・赤文字」で書かれています。
ドンキは驚安の殿堂(旧・激安の殿堂)というキャッチフレーズのとおり、安さを売りにしている企業です。そのため、最も強調すべき情報が価格となり、価格を暖色で強調しているわけです。
価格の上に「驚安」という文字が黒背景で書かれていますが、これも「黄色と黒の組み合わせは目立つ」ためです。
寒色は夏場のアクセントに使う
出典:夏の売り場づくりには季節装飾が重要 | 販促HACK(FUJIテック運営)
暖色より目立たない寒色ですが、夏場は逆に清涼感を与え、顧客の「テンション」を高めます。上の画像は一目見ただけで清涼感を感じられるでしょう。
出典:売り場1.5倍で「密」回避 宮崎山形屋、中元商戦スタート | 毎日新聞
上の画像は宮崎山形屋のものですが、こちらも全面的に青を強調しています。また、左下にある棚は「青×オレンジ」の組み合わせで構成されています。この2色については、色の組み合わせの段落で詳しく解説しています。
同系色をまとめる
出典:「ユニクロ」が銀座に国内最大級店舗 20年春オープン | WWD
同系色をまとめると、色のかたまりができます。このかたまりにより「色の面積効果」という効果が生まれます。「面積が広がることで目立ちやすくなる」という効果です。
これにより、その商品群の前で立ち止まってもらいやすくなります。上の画像のユニクロなどは、同系色をまとめてディスプレイする典型例です。
出典:陳列は幾何学にするとアートになる | VMDインストラクター協会
上の写真はVMDインストラクター協会のものですが、やはり同系色をまとめることで、統一感のある美しい棚をデザインしています(VMDとはビジュアル・マーチャンダイジングの略です)。この他、無印良品なども同系色で店舗全体を統一している好例です。
このようにVMDにおいてまとまった色合いを演出する場面では、その性質上「視認させるアイテムの量」という観点からも併せて分析されることが多いです。店頭に並べる商品数:FKUの視点も同時に理解しておくとよいでしょう。
目立たせたい場合は反対色を組み合わせる
反対色(補色)とは、上の色相環で「輪の反対側」にある色です。たとえば緑の反対は赤です。クリスマスカラーが緑と赤なのは、典型的な補色です。色の組み合わせについては、下の段落で詳しく解説しています。
店舗自体を暖色のみでデザインする
出典:LINEトラベル
店舗全体を誘目性の高い色でデザインすると、目立つ反面「下品」と思われるデメリットがあります。この点、宝くじの売場などは「少しギラギラしているくらいがちょうどいい」ということで、店舗全体を暖色でデザインしています。上の画像の店舗は、赤い垂れ幕に赤い床など、全体を赤で統一しています。
出典:布施ポッポアベニューチャンスセンター | 東大阪経済新聞
上の画像は、黄色をメインにしています。黄色の床に黄色の壁…といった具合です。特に夜間は黒い街の中で赤より黄色が目立つもの。このため、夜間の利用者が多い店舗では黄色を用いるべきといえます。
誘目性のデザイン(色の組み合わせ・順番・論文研究)
出典:ソフトバンク、20色のPANTONEケータイ「812SH」を10日発売 | ケータイWatch
誘目性のデザインについては、わかりやすいポイントや指標が多くあります。たとえば、上のソフトバンク携帯(ガラケー)のPANTONEカラーです。
PANTONEはアメリカを拠点とする色見本の企業で、同社の色見本や指標はあらゆる店舗や商品のデザインで用いられています。ソフトバンクの「812SH」は、商品をカラフルにすることで店舗もカラフルにし、売場の誘目性を高めることで成功しました。
こうした事例以外で基本的なポイントをまとめると、下表のようになります。
ポイント | 詳細 |
---|---|
組み合わせ | 補色(反対色)の組み合わせはインパクトが強い |
順番 | 背景によって異なる。基本的に赤・黄・オレンジが強く、緑や紫は弱い |
論文 | 誘目性の高いデザインが好感度も高いとは限らない |
以下、それぞれ詳しく説明していきます。
誘目性が高い色の組み合わせ
補色(反対色)の組み合わせは、特に誘目性が高くなります。クリスマスカラーの「緑と赤」が好例で、セブン-イレブンも採用しています。
この他では、青とオレンジも代表的な補色であり、たとえば松屋のロゴが採用しています。
ノジマのロゴも青とオレンジです。
金融系では、SMBCコンシュマーファイナンス(プロミス)なども、青とオレンジを採用しています。
このように補色を用いたデザインは日常の至るところで見られます。
誘目性の順番
誘目性が高い順番、つまり「見えやすい順番」は、背景の色によって異なります。下の図は、白・灰色・黒の3つの背景で、誘目性が高い順番に左から並べたものです。
灰色と黒はほとんど変わりません。赤とオレンジのどちらが先に来るか、だけです。
白と黒は大きく変わります。特に変わる点は下の通りです。
色 | 状況 |
---|---|
赤 | 白では強く、黒では弱くなる(色が濃いため) |
黄色 | 白では2番目だが、黒では1番目(色が薄いため) |
青 | 白では4番目だが、黒では6番目(色が濃いため) |
黄緑 | 白では7番目が、黒では4番目(色が薄いため) |
先ほどの図を、文字で順番に並べると下の通りです。
白背景
赤 → 黄 → オレンジ → 青 → 赤紫 → 緑 → 黄緑 → 紫 → 青緑 → 青紫
灰色背景
黄 → 赤 → オレンジ → 黄緑 → 赤紫 → 青 → 緑 → 紫 → 青緑 → 青紫
黒背景
黄 → オレンジ → 赤 → 黄緑 → 赤紫 → 青 → 緑 → 紫 → 青緑 → 青紫
誘目性の論文
誘目性を研究した論文は多くあります。ここでは、特にストアマネジメント(店舗経営)で直接のヒントになる下記の論文の内容を、紹介させていただきます。
参考商品選択における誘目性に関する研究 | 日本デザイン学会研究発表大会概要集
論文の概要
この論文は「デザインごとの誘目性」と「誘目して、それが好かれるか」を検証したものです。デザインの一覧は下のとおりです(架空の缶コーヒーです)。
そして、検証結果は下記のようになりました。
①「目立つ」し「好き」 |
---|
②「目立つ」が「好き」ではない |
③「目立たない」が「好き」 |
④特にどちらでもない |
デザインの好みには個人差がありますが、上記の結果は「何となくわかる」という日本人が多いのではないかと思います。特に重要なのは「目立つ=好き」とは限らないということ。これは②と③の比較でわかります。
誘目性全般でいえることですが「赤の看板で目立てばいいなら、みんな赤の看板にする」はずですが、実際にはそうなっていません。誘目性はあくまで「周囲との違い」で目立つものですし、目立つだけでなく好かれて初めて意味があるものです。
上の論文の他、ストアマネジメントやVMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)で直接ヒントになる論文だと、下記のものがあります。
誘目性と視認性の違いは?(識別性・明視性も含めて解説)
誘目性と視認性の違いは、下のとおりです。
誘目性 | 探していない人にとっての、見つけやすさ |
視認性 | 探している人にとっての、見つけやすさ |
よりわかりやすく言い換えると、下のとおりです。
誘目性 | 全員がどれだけ注目するか |
視認性 | 探している人にどれだけ見つかるか |
具体的には、下の写真を見るとわかりやすいでしょう。
まず、誘目性が高い=目立つものはすぐにわかると思います。左上の紅白の建物を最初に見る人が多いでしょう。
逆に視認性が高いのは、横断歩道と標識です。歩行者やドライバーなど「探している人」には、すぐに見つかるものです。
特にドライバーは写真右下にある「一方通行」の標識に注目します。ドライバーという「探している人」にとっては、この標識は十分に目立つものなのです。
誘目性・視認性・識別性 ・明視性の違いとは?
誘目性に近い単語で視認性・識別性・明視性などが挙げられます。これら4つの単語の違いをまとめると、下記の通りです。
単語 | 意味 |
---|---|
誘目性 | 探していない人の見つけやすさ(目立ちやすさ) |
視認性 | 探している人の見つけやすさ(見つけやすさ) |
識別性 | 区別のしやすさ |
明視性 | 見やすさ |
それぞれ詳しく説明していきます。
誘目性:目立ちやすさ(探していない人にとっての見つけやすさ)
誘目性は「目立ちやすさ」です。この意味は、序盤で説明してきたとおりです。視認性との違いは上で説明しましたが、さらにわかりやすい例を追加します。
視認性:見つけやすさ(探している人にとっての見つけやすさ)
視認性は、一言でいうと「見つけやすさ」。誘目性とは違い「探している人にとって見つかりやすい」という性質です。
この好例は先にあげた通り「標識」で、下記の標識などは、ドライバーであればすぐに見つけられるものです。
色が青で、誘目性については高くありません。逆に、誘目性の高い標識は下のものです。
いずれも重要性の高い標識ですが、こうしたものはより目につくよう、誘目性の高い赤を用いるわけです。視認性は「探している人には見つかる」のですが、やはり「視認性&誘目性」を両方満たしているものの方が、探している人にとってもより見つかりやすいといえます。
明視性:見やすさ
明視性は「見やすさ」です。まず、明視性の高い例は下のようなものです。
逆に明視性が低いものは、下のようなデザインです。
特に右端のデザインは赤を用いているため、誘目性は高いのですが、明視性が低いことがわかるでしょう。明視性を出すためには「明度」の差をつけることが重要です。
可読性:文字の読みやすさ
明視性の一部に可読性があります。これは「文字」の読みやすさに限定したものです。絵文字の見やすさなどは含みません。
店頭のPOPや看板などは、基本的にすべて可読性が高いものです。「読んでもらいたいから書いている」のに、読みづらければ意味がないためです。
しかし、稀に「あえて可読性を低くする」ことがあります。典型的な例は、マンションの広告です。
上の画像はサイズが小さいこともありますが、大きかったとしても文字が読みにくいことはわかるでしょう。このように「文字を目立たせない」パターンは、マンション広告に限らず「イメージで勝負するデザイン」で、よく見られるものです。
イメージで勝負する場合、文章は「読まれない方がいい」のです。
- あくまでデザインのために入れている
- 文章の内容自体は「ポエム」である
- だから、あまり真剣に読まれない方がいい
- そのため、読みにくくする
ということです。ちなみに「飾りで文字を入れる」という手法では「英文を入れる」という方法もあります。しかし、マンションの広告で英文を入れるわけにはいきません。そのため「可読性を抑えたポエムを入れる」のです。
(ちなみに、マンションの広告の文章はしばしば「マンションポエム」と揶揄されますが、それだけ強烈なインパクトを与えることに成功しているといえます)
識別性:区別のしやすさ
識別性がわかりやすい例は、スーパー戦隊(○○レンジャー)です。通常は下のように色が分かれており、5人の区別がしやすくなっています。
識別性が高い
下のように「みんなレッド系」になってしまうと、区別がつかなくなります。
識別性が低い
アイドルグループの場合、ももいろクローバーなどが色を分けることで識別性を高めています。
逆に、櫻坂46(旧・欅坂46)は、識別性を低めています。AKB48や乃木坂46などもおおむね同一の路線です。
まとめ:誘目性の施策結果分析には、クラウドシステムの導入が有効
誘目性を意識してビジュアルマーチャンダイジングや、ストアマネジメントを行うケースは多くあるでしょう。その際、それぞれの施策の成果がどの程度のものであったかは、売上データを緻密に収集・分析して判断する必要があります。
そのようなデータの収集と分析で役に立つのは、POSレジと連携したクラウドシステム。今までどおりレジを操作するだけで、自動的にデータの収集と整理ができ、分析もスムーズにできます。
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