ユニクロのセルフレジを中心として、アパレル業界でも大々的に導入されつつあるRFID。「大体の内容は知っているが、正確な仕組みは知らない」「アパレルでどう役立つのか知りたい」など、興味や疑問を抱えている方も多く見えるでしょう。
この記事では、上記のような疑問に答えつつ「アパレル業界でのRFID技術」についてまとめます。RFIDに関する知識を得たい方にも、RFIDの導入を考えている店舗マネージャー様にも、きっと役立てていただけるでしょう。
目次
【概要】RFIDとは
RFIDとは電波を用いてRFタグのデータを非接触で読み書きするシステムです。より簡単にいうと「無線で使えるバーコードシステム」ともいえます。
ここでは、RFIDの仕組みや種類、メリットやデメリットを解説していきます。
RFIDの仕組み
RFIDの仕組みは、簡単にまとめると下のとおりです。
- RFタグの中に情報が入っている
- これを無線で読み取る
- 読み取ったデータは、店舗のシステムなどに送られる
RFタグに入っている情報は、商品名や価格だけではありません。その商品の在庫が今どれだけあるか、工場などからどれほど出荷されているかなどの、膨大な情報が入っています。
読み取りについては、バーコードと違い非接触でできるため「箱の外からでもできる」「電波が届く範囲のタグをまとめて一気に読み取れる」などのメリットがあります。
データは店舗のPCシステムなどと連携することで、そのままリアルタイムでの情報収集・分析が可能となります。
RFIDの種類
出典:コストは? セキュリティは? RFID導入時におさえたいポイント|大塚商会
RFIDの種類は「通信をどうするか」「電波は何を使うか」など、さまざまな項目で分かれます。それぞれの分岐をまとめると、下のとおりです。
通信方式(どう通信するか) | 電磁結合方式、電磁誘導方式など |
電波方式(どの電波を使うか) | 2.45GHz帯、953MHz帯など |
アクセス方式(アクセスの仕組みをどうするか) | リードオンリー型、ライトワンス型、リードライト型など |
上記は送信方法の種類で、読み取り方法についても、タグトークファースト型、リーダトークファースト型など、さまざまな種類があります。
RFIDのメリット
RFIDのメリットは、主に下の3点です。
- あらゆる業務を効率化できる
- バーコードと違い、データを書き換えられる
- 汚損の影響を受けにくい
業務の効率化については、在庫管理やレジ業務、棚卸しなどのあらゆる作業が対象となります。
データの書き換えについては、バーコードは一度印刷されたら、その情報はそれで固定です。価格などの情報を変えたいのであれば、バーコードを貼り替える必要があります。RFIDではタグはそのままで、「タグの情報の中身だけ変える」ことが可能です。
汚損については、バーコードは汚れると読み取れなくなります。しかし、RFIDは破損という大きなダメージがない限り、長く利用できます。破損はそうそう起きないため、耐久性はRFIDの方が非常に高いといえます。
参考RFIDのメリットとデメリットの比較|近畿システムサービス
RFIDのデメリット
RFIDのデメリットは「課題」と重なりますが、主に下記の内容です。
- 導入コストがかかる
- セキュリティのリスクがゼロではない
- 製品や使用場面によっては精度の問題がある
このデメリットは20年ほど前から指摘されているもので、今でも変わらずに残っています。正確には相当進歩しているのですが、RFID以外の技術も進化するため、それらの技術と比較して、常に上記のデメリットがあるということです。
【活用】アパレルで導入されている5つの業務
アパレル業界でRFIDが導入されている業務は、主に以下のものです。
それぞれの業務でどのように導入されているかを、説明していきます。
棚卸し
棚卸しは、とくにRFIDが活躍する分野です。下記のとおり、棚卸しの作業時間を5分の1程度に削減することも可能です。
参考RFID導入でアパレル店舗の棚卸作業時間を5分の1に削減!|RFID Room
RFIDで棚卸しをするメリットは、①ハンガーに吊るしていない商品でも簡単に読み取れる、②読み取り漏れが少ないという2点です。
①については、たとえば箱やビニールに入っている商品を、いちいち取り出し、たたみ直して戻す必要がありません。②については、バーコードだと「手作業」の度合いが多くなるため読み取り漏れが生じますが、RFIDは機械的にまとめて読み取れるため、ミスが減るわけです(完全ではありませんが、バーコードよりは減ります)。
記事でインタビューに答えられている株式会社ラピーヌ様の場合、1店舗での棚卸作業は、平均で1~2時間、多い店舗では4時間かかっていたといいます。その時間が、RFIDの導入で5分の1程度になったということです。
セルフレジ
セルフレジは、消費者の方にとってとくに身近なアパレルのRFIDの技術です。ユニクロが大々的に導入していることで、知っている方も多いでしょう。
簡単にいうと、お客さんが1つ1つバーコードを読み取る必要がなく、まとめて商品を自動で会計できるのが、RFIDのセルフレジの特徴です。詳しくは「ユニクロのセルフレジの仕組み」の段落で解説しています。
在庫管理
出典:ユニクロ/全商品にRFID貼付、製造から販売まで生産性を向上|流通ニュース
RFIDは、その商品の在庫に関する情報を含んでいます。上の図はユニクロの場合ですが、その商品が、
- 店舗の売り場、バックヤードにどれだけあるか(店頭在庫)
- いつ、どれだけ追加で届くか(予定在庫)
- 今、どこの倉庫にどれだけ在庫があるか(倉庫在庫)
- 倉庫にいつ、どれだけ、工場から追加が届くか(倉庫予定在庫)
- 工場で今、どれだけ追加生産をしているか(生産在庫数)
こうしたすべての情報が、RFIDに含まれているわけです。このため、在庫管理が飛躍的にやりやすくなる他、現場のスタッフへの提供情報量が増えることにより、友人接客販売の提案機会も増やすことができます。
出荷検品
出典:「アパレル業界 UHF帯RFID事例」某製造小売業様|マーストーケンソリューション
製造工場や倉庫からの出荷の検品も、RFIDによって効率的になります。バーコードは1つ1つ読み取る必要がありますが、RFIDならまとめて大量に読み取れるためです。
さらに、バーコードでは「箱の中」にある場合、わざわざ箱を開ける必要があります。しかし、RFIDなら無線によって「箱の外」から、データを読み取れます。これらのメリットにより、出荷検品の手間が大幅に削減されます。
入荷検品
入荷検品についても、出荷検品と同様です。まとめて読み取れる、箱の中でも開封せずに読み取れるなどのメリットにより、作業が大幅に効率化されます。
また、入荷後のPOSレジやクラウドシステムとの連携をしやすい点も、入荷検品でRFIDを用いるメリットです。
【課題】導入における5つのハードル
個々の店舗におけるRFIDの導入や、業界全体で課題となっているのは下記の5点です。
個々の店舗でなく、業界や開発サイドのみの課題としては、下記の2点も挙げられます。
それぞれ、どのような課題なのかを詳しく解説していきます。
コストが高い
RFIDの導入でもっとも高いハードルが「コスト負担」です。参考記事で専門家が指摘している要点をまとめると、下記のようになります。
- この10年でRFIDタグは非常に安くなった
- しかし、小売店で導入するには高すぎる
- アナリストらも、価格が普及のネックになっていると指摘する
ある程度価格が下がればさらに普及し、加速度的に価格が下がっていくという好循環も期待できます。現状ではまだその好循環に遠い状態です。
参考RFIDは、なぜいまだ「小売」分野で普及しきらないのか?:何年間ももてはやされてきた最新技術|DIGIDAY
セキュリティに不安がある
RFIDは、商品の価格だけでなく「在庫の情報」などもタグに含まれています(どこまで情報を含むかは、その製品や企業の活用状況によります)。
こうした情報を含んでいるということは、外部の人間がタグを読み取れば、その企業の在庫などの情報を把握できてしまうということです。また、タグを直接読み込まなくとも、無線で通信している中間で、無線を傍受して読み取ることも可能です。
もちろん、現場ではこうした問題への対策として、暗号化技術、認証機能などを用いてセキュリティを高めています。ただ、悪意のある側の技術が高ければ、セキュリティの穴をつかれるリスクもあります。
参考RFID普及で起こるセキュリティ懸念と対応策|エスケーエレクトロニクス
規格が統一されていない
RFIDの規格は、徐々に国際標準規格で統一されつつあります。しかし、まだ完全には統一されておらず、特にグローバルに事業を展開するときなどに障害となります。
RFIDのメリットは「一元管理」にあるため、規格が異なってデータを共有できないとなると、メリットが大きく損なわれます。規格の統一か、規格間でのデータ共有を行えるようにするなどが、今後の課題です。
精度が完璧ではない
RFIDの精度は年々向上しています。しかし、まだ完璧ではありません。
2008年時点では「1998年頃から10年経過しても、まだ精度の問題が残っている」ということが、専門家によって指摘されています。
RFIDは電波技術で見えない特性を持つことから、読み取れないなどのトラブルが発生したときには、その原因をすぐに特定することは難しく、その現場なりの対処方法を確立する必要があります。
引用:10年前から変わらないRFIDの課題|@マークIT
現在ではどうかというと、人間が途中に入って調整できない場面では、やはり精度に課題があることが指摘されています(下記)。
自動化ラインでは人の手による補正が期待できません。事実アンテナ部分だけとっても設置スペースや金属環境、移動体に取り付けたタグからどのようにして確実にデータを取得するか等の課題が出てきます。
自動化ラインにおけるRFID導入時の問題点と解決策―Ha-VIS LOCFIELD®ハーティング|高木商会
逆にいえば、かなり高度な読み取りまで「人の手が入れば問題ない」レベルに向上したわけですが、まだ改善できる点は多くあるということです(技術の革新について、社会の要求は永遠に高まり続けるものです)。
防犯が完璧でない
RFIDタグは、悪意のある顧客であれば外すこともできます。外して商品を万引きする手口による被害は、ユニクロでも頻繁に起きています。
参考
ユニクロ「セルフレジ」で見覚えない商品を買いかけた... 体験談が拡散、広報に対策を聞いた|J-CASTニュース
上記の記事によれば、外されたRFIDは、他の商品のポケットなどに隠されているようです。その商品を別のお客さんが買うと、ポケットに隠れているRFIDまでバーコードで読み取られます。
そして「どう見てもカゴに入っていない商品が、会計に表示される」わけです。上の記事ではそのことにお客さんが気づきましたが、気づかずにそのまま支払いをしてしまうケースも多くあります。
これは店舗は被害者であるにもかかわらず、お客さまから不信感を持たれてしまうということで、大きな問題です。ユニクロですら被害に遭っている以上、完璧な対策は難しいものですが「RFIDタグを外せないようにする」対策が必要といえます。
AIの画像認識技術との競争
これは利用者側にとっては喜ばしいことで、開発者側にとっての問題となります。RFIDは「AI画像認識」などの技術と、これから競争していく必要があります。
近年、AIが人間の顔などを認識することは、広く知られています。これによって、RFIDのタグなしでも、対象の読み取りをできる可能性があるのです。
最近では、まったく異なるアプローチとして、AIによる画像認識技術を活用した個体識別の方法なども登場している。
引用:活用されだしたRFID、そのコストや課題とは|IoT
そうなると、わざわざRFIDタグを付けなくていいため、AIの方が有利です。当面は精度でRFIDが大きく勝るでしょうが、将来はわかりません。
開発者だけでなく利用者の側でも、将来AIが有利になるなら、どちらに設備投資をすべきかという判断を迫られます。そういう点では、利用者側の規模が大きくなるほど、この点は利用者にとっての課題でもあります。
バーコードとの競争に負けている
RFIDは特にコスト面で、バーコードとの競争に大きく遅れをとっています。価格は従来の10分の1程度になったものの、バーコードはさらに安く、RFIDタグの20分の1程度なのです。
ゴールドバーグ氏は、RFIDタグはかつて1ドルから2ドル(約110から220円)ほどの値段だったが、いまでは10セント(約11円)程度で買えるという。だがバーコードの値段は0.5セント(約0.55円)以下だ。
引用:RFID は、なぜ いまだ「小売」分野で普及しきらないのか?:何年間ももてはやされてきた最新技術
ただ、このコストの問題については、東レが「従来の5分の1の価格」を、新技術で実現しています。単純計算で、バーコードとの差が4倍にまで縮まったわけです。このため、今後はバーコードとのコスパ競争でRFIDが勝る可能性もあります。
参考東レが価格5分の1のRFIDタグの製造法 アパレルラベル事業にも参入視野|WWD
【ユニクロ】セルフレジの仕組みと特許の争い
出典:ユニクロ
日本でもっともRFIDを大規模に導入している企業の1つはユニクロです。とくに「セルフレジ」は、RFIDの利点がフルに活かされているサービスの1つです。
ここでは、ユニクロのセルフレジの仕組みと、特許に関する争いについて解説します。
ユニクロのセルフレジの仕組み
ユニクロのセルフレジの仕組みは、RFIDタグがあるので、商品をまとめて読み取れるということ。通常のスーパーなどのセルフレジでは、お客さんが1つ1つ、商品のバーコードを読み取る必要があります。
商品が少なければ並ばずに済んで楽なのですが、商品が多い場合、逆に通常のレジよりも大変になることも多いわけです。ユニクロではそのようなことがなく、大量の商品でもまとめて瞬時に、情報の読み取りが可能です。
参考ユニクロのセルフレジが進化!ハイテクレジを利用してみた|マイナビAGENT
アスタリスク社との特許権争い
出典:ユニクロのセルフレジで特許侵害訴訟、今後は“取りあえず出願”が増えるか|日経XTECH
ユニクロのセルフレジのRFIDについては「特許権争い」が大きな話題になっています。アスタリスク社が「ユニクロに特許を侵害された」と訴え、それが現状ではある程度特許庁に認められている形です(今後の展開はどうなるかわかりません)。
ユニクロ(ファーストリテイリング)側は、アスタリスクの「特許無効化」を訴えていました。新規性・進歩性のない「普通の」技術なので、特許は無効であるという主張です。
当初、このユニクロの主張は通ると思われていました。その可能性が高かったからこそ、大規模にRFIDを導入したわけです。
そして、予想どおりある程度は無効化したものの「完全無効化」にはまだ至っていません。
専門家によれば、この問題は「一見当たり前のように見える技術が、実は特許的には当たり前でないことがある」という点に、難しさがあるということです。
【まとめ】アパレルでのRFID導入には、業務の高度IT化が不可欠
アパレル業務でRFIDを導入する場合、その前にPOSレジやクラウドの導入によって、業務全般をIT化しておく必要があります。そうしたPOSレジやクラウドを導入するとき、一番効率的なのはアパレル業務に特化したシステムを利用することです。
弊社が提供する『アパレル管理自動くん』は、アパレル業務に特化した高機能クラウドシステム。同じくアパレル特化型のPOSシステムである『アパレル管理自動くんPOSレジ』と連携することで、店舗の在庫管理などをリアルタイムでスムーズに行えます。
RFIDを店舗運営に導入するのであれば、高機能なクラウドやPOSの導入は欠かせません。RFID導入を検討されている店舗マネージャー様や企業担当者の方は、ぜひ一度『アパレル管理自動くん』と『アパレル管理自動くんPOSレジ』の詳細を、下記のボタンからご覧いただけたらと思います(資料も無料でご請求いただけます)。
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