まとめ

アパレル業界のテレワーク~導入における3つの課題と今後の影響~

2020/7/8

テレワーク

「アパレル業界のテレワークが今後どうなるか」は、業界人の誰もが気になるところでしょう。

上記のような点が特に、気になるところかと思います。今回は上記の3点に加え、現状の問題点や、その問題点の原因を解説していきます。

これらの内容を読むことで、アパレル業界のテレワークについて、現状から今後までトータルで理解を深めることができるでしょう。

(なお、アパレル業界のリモートワークの具体的な事例については、下の記事で詳しく紹介しています。事例に興味がある方は、こちらをぜひご参照ください)

アパレル業界のテレワーク導入における3つの課題(問題点)

テレワーク

アパレル業界でテレワークの導入を進めるためには、クリアすべき3つの課題(問題点)があります。3つの課題を一覧にすると下のとおりです。

必要な行動現状(問題点)
デジタル化ECと実店舗の連携不足など
店舗ミッションの再定義実店舗の存在意義が変化・喪失している
環境整備テレワーク用のシステムが整っていない

それぞれの課題・問題点について詳しく解説していきます。

デジタル化:ECと実店舗の連携不足を解消する

IT業界が最たる例ですが、デジタル化が進んでいる業界ほど、テレワークは導入しやすくなります。そして、このデジタル化がアパレル業界では、他の業界よりも遅れています。

具体的に何が遅れているか

一例をあげると「ECと実店舗が連携していない」ことです。「earth music&ecology(アース ミュージック&エコロジー)」などを展開するストライプインターナショナルの石川康晴社長(2019年当時)は、「店舗」対「EC」で議論が進む小売業界を下のように語っています。

  • ECとリアル店舗が「それぞれ勝手にやっている」会社が多い
  • 顧客がECと実店舗の両方で購入すると年間単価が3倍になることがデータによりわかっている
  • それにも関わらず、ほとんどの会社が両者を融合させていない
  • これは怠慢である

参考「必要なのはBI・AI・熱量だ」、成長企業の社長が明かすデジタル活用術 | 日経クロステック

解決のためには店舗とECどちらか一方のみではなく、相互にデジタル化による恩恵を受けながら販売チャネルを確立させることが重要です。

 

上の説明を読んで、こう思う人もいるでしょう。

  • 本当にそんなに利益が出るのか?
  • 利益が出るなら、なぜどの企業もやらなかったのか?

デジタル化が遅れた原因はこちらの段落で詳しく解説します。ファッションジャーナリスト・川島蓉子氏の指摘が参考になります。川島氏は、伊藤忠ファッションシステム取締役・ifs未来研究所所長・多摩美術大学非常勤講師を務める専門家です。

 

店舗ミッションの再定義:実店舗の存在意義の変化に対応する

アパレル店舗

コロナの影響を受ける遥か以前から「そもそも、実店舗の役割とは何か」という問いかけが強くなされていました。テレワークの導入以前に、そもそも「自分たちは店舗で何をするのか」が決まっていないといけないわけです。

このヒントとして「実店舗でなければできないこと」をまとめると、下の2点です。

それぞれ詳しく解説していきます。

機械的なレコメンドでない「クリエイティブな提案」

まず、品揃えならデジタルが圧倒的に有利です。そして「普通の提案」でも、デジタルは高い性能を誇ります。

ビッグデータとAIの組み合わせで、高精度な提案ができるためです。人間と違い「この人が1年前に買ったもの」も、瞬時に「思い出す」ことができます。

そのため、一般的な提案からむしろデジタルの方が優れているケースが多々あります。しかし、デジタルでは「クリエイティブな提案」はできません。

たとえば、その人が「普段着ないような服」の提案は、デジタルでは限界があります。このような提案は「創作」に近いものであり、どれだけデジタルが進化しても人間が有利な領域です。

 

同じ人間の提案でも、チャットよりリアルが有利

ここまでの説明を読んで「人間が提案すればいいなら、チャットでもいいのでは?」と思うでしょう。実際、人気ブランドのkay meがコロナの自粛期間中にそうしたサービスを開始し、好評を博した事例もあります。

(「kay meの事例」の段落で解説します)

こうした事例もあるものの、やはり「いつもと大胆に違う服」は、実際に着てみて初めてわかるものです。こうした服を着ることは顧客も抵抗を持っており、その抵抗を超えるには「実際に着てみて似合ったという説得力」が、何よりも必要だからです。

このように「顧客に新しい世界を見せる」ことが、今後のリアル店舗の役割の1つとなります。デジタルが見せる新しい世界も当然ありますが、見せるものがそれぞれ異なるということです。

参考アパレル店舗の多くが消滅する時代へ――生き残るのは?(下)4ページ目 | 日経ARIA

 

五感を刺激する「楽しい空間」の実現

下のような「空間として楽しい」店舗は、今後も必要とされます。

  • 個性的でにぎやかな商店街(の中の店舗)
  • 各地に出現するポップアップストア
  • ブランドの世界観を五感で体感できるショップ(各高級ブランドの店舗など)

ポップアップストアとは、下の写真のように「プレハブで短期間出現する店舗」です。

ポップアップストア出典:ポップアップストアとは。ポップアップストアのすべて | POP-UP STORE NEWS

催事場・駅構内・駐車場など、空きスペースに2週間~1カ月ほど出店されます。こうしたゲリラ的な店舗の出現は、一般市民にとっても刺激的で楽しいものであり、実店舗が持つ強みといえます。

 

飲食など他業界との連携も鍵

最近は「グローサラント」などの形態で、スーパーのイートインも豪華なカフェのようになってきました。スーパーがブランディングや売場の華づくりのために、アパレルの店舗を必要とすることも今後考えられます。

(今まで「適当なノーブランドの衣類」が売られていただけの売場に、代わりにアパレル店舗が来ることもあり得ます。アパレルのリアル店舗にはこうした「華」としての役割もあるものです)

 

システム整備:テレワーク用システムを早期に導入する

テレワーク

特に事務・経営スタッフのテレワークについては、下のような問題が起きやすい(あるいは起きている)ことを、アパレル業界のトップ・16名の方々が指摘しています。

  • コミュニケーション不足
  • 商品や素材の実物確認ができない
  • 各種申請がWebでできない

アパレルの事務で、どのくらいのスピードでテレワークの導入が進むかは、上記の課題がどのくらいのスピードで解決されるかによります。

つまり、当然ながら会社・店舗ごとに異なりますが「うちなら、上の問題の解決にこのくらいかかりそう」という、1つの参考にしていただけたらと思います。

「コミュニケーション不足」について

具体的な問題として、下のような内容が指摘されています。

  • 意思疎通が難しい
  • 急ぎの相談をしづらい
  • チーム全体の動きが見えづらい

これらの問題を指摘した業界トップ16名の顔ぶれは下のとおりです。

石切山 哲也ビームス人材開発部係長
石平賢太朗ワールド グループコミュニケーション推進室
五十川楓ワールド グループコミュニケーション推進室
江端克之レナウン執行役員事業部長
大竹智恵美オンワードホールディングス人財ディビジョン・ダイバーシティ推進セクション課長代理
小笠原希帆「フリーダ」ディレクター
國吉祐子「アッシュ・ペー・フランス ビジュー」ディレクター
小嶋奈南美「ジルスチュアート」PR
菅悦子ベイクルーズグループ広報
関一暁「アーノルドパーマータイムレス」戦略事業部事業部長
竹田憲章ダイアナ サプライチェーン推進部部長
田中智史イトキン執行役員WEBビジネス部事業部長
福田太郎ダイアナ 商品部バイヤー
朴里奈ビームス社長室宣伝統括部
堀田覚パル執行役員プロモーション推進部 部長
三代彰郎ジュン執行役員

参考アパレル・出版25社に聞く、在宅勤務の本音 コミュニケーション不足がデメリット1位 | Yahoo! JAPANニュース

 

上で挙げたような問題を解決するには、具体的なツールの導入も必要になります。そのツールとしては、たとえば下のようなものが挙げられます。

図解

  • ビジネス用チャットシステム
  • オンライン会議システム
  • ワークシート
  • ファイル共有サービス

参考アパレル業界がテレワークで生産性を上げるには? 在宅勤務時代の今後を考察 | 大塚商会

上記は主に「会議のツール」ですが、その会議で使うデータとなる在庫や売上の情報を、自動的にクラウドで管理・分析できるツールも必要になります。そのようなツールとしては、弊社が提供しているアパレル特化型の高機能クラウドシステム『アパレル管理自動くん』も参考にしていただくといいでしょう。

 

テレワークに必要なデジタル化がアパレルで遅れた2つの原因

テレワーク

アパレル業界でテレワークの導入が難しくなっている原因の1つは、このデジタル化がもともと遅れていたことです。この原因を、川島蓉子氏は下の2点であると指摘しています。

それぞれの原因について、詳しく解説していきます。

参考アパレル店舗の多くが消滅する時代へ――生き残るのは?(下)2ページ目

 

①「業界⇒消費者」のトップダウン文化

アパレル業界では、長年業界から消費者に対する「一方通行のトップダウン文化」が続いていました。川島氏は下のように指摘しています。

「今シーズンはこれがトレンド」といった情報と商品の提供を続けてきたのがファッション界で、業界から消費者への「トップダウン=一方通行」が慣例化しているのです。

太字のように「これがトレンド」という、悪くいえば「押しつけ」を図っていたということです。企業によっては「流行をマーケティングによって操作しよう」とすら考えていたといえます。

このような考え方では、消費者が何を欲しがっているか、正確なデータを探すという努力をしません。そのため、データを集めるために必須の手段であるデジタル技術の導入が遅れたということです。

【補足】アナログな手法で消費者が求めるものを探すことも大事です。ただ、それはリサーチをした人物の直感に頼ることになります。
「①大衆向けに、②長くニーズに合うものを送り続ける」には、コンビニが長年やってきたように「膨大なデータをリアルタイムで取り続ける」のが一番なのです。

 

②「リアルありき」の常識

2つ目の原因を、川島氏は下のように指摘しています。

「アパレルは試着してみないと」「接客はやはり大切」といった、「リアルありきの見方」から抜け出せなかったのももう一つの理由。

この考えは、トップダウン文化と違い「傲慢」なものではなく、良い考えでもあります。「試着や接客がなぜ大切なのか」という理由を突き詰めることが、今後のリアル店舗の生存の条件になります。

そのように、根っこの部分では間違っていません。ただ「服は試着できなくても売れる」のが現実なのです。

これは、ZOZOの成功を見てもわかるでしょう。ZOZOだけでなく「もっと普通の服」については、Amazonや楽天などでもよく売れています。

靴すらネット通販で十分に売れる

ザッポス出典:Zappos

唯一「まだ難しい」と思われているのは、靴のネット通販です。少なくとも、こだわりの靴については日本ではまだ一般的でないといえるでしょう。

しかし、アメリカでは10年以上前から靴のネット通販が成功していました。成功したのはザッポスという企業で、同社の事業は「ザッポスの奇跡」として知られています。

ザッポスの成功事例は、下の記事の「ザッポス:世界で奇跡と称される徹底した顧客重視」の段落で詳しくまとめています。

日本でも、ZOZOが2020年3月4日から、靴の専門モールであるZOZOSHOES(ゾゾシューズ)のサービスを開始しました。今後は靴でも、日本のファッションのEC化が進んでいくでしょう。

 

アパレル業界におけるテレワーク導入の今後の影響

テレワーク

アパレル業界でのテレワーク導入が今後どうなるか、要点をまとめると下のようになります。

それぞれ詳しく解説していきます。

実店舗でも「近接リモート接客」が進む

ファッション業界のオピニオンリーダーである小島健輔氏は、下記のように予測されています。

  • ECでは、チャットやビデオでのリモート接客が増えた
  • これが定着すれば、実店舗でも応用できる
  • これにより、店内接客のリモート化も進む
  • 「近接リモート接客」が広がる

参考小島健輔リポート エシカル&DX急進で過剰供給も終焉 コロナ後のアパレル業界 | WWD

近接リモート接客とは

リモート

この形態については、まだ試行錯誤が始まった段階であり、明確に「こういうものである」という定義はありません。しかし、以下のような内容とイメージすると、わかりやすいでしょう。

  • 店舗のバックオフィスや、近くの事務所にスタッフがいる
  • 顧客からの通信があれば、リモートで接客をする
  • それ以外の時間は、事務・経営の業務をしている

このやり方だけで、すべての接客を補えるわけではありません。しかし、今の店舗接客の何割かは、上のやり方で対応できると考えられます。

そして、リモート接客が一般的になれば「専門の代行サービス」も登場するでしょう。かつて、自社の警備を代行会社に任せるというのは「あり得ないこと」でしたが、今では当たり前になりました。

同じように簡単な接客がリモートになり、それを「専門の会社に任せる」ということも、今後主流になる可能性があります。

 

フィッティングはどうするのか

リモート接客で気になるのは「フィッティングをどうするか」という点でしょう。これについて小島氏は、下のような技術が用いられると推測しています。

擬似フィッティング基準ボディを使う
近接リモートフィッティング局所カメラを使う

基準ボディで一番わかりやすいものはマネキンですが、この最新技術として「i.Dummy」の事例があります。これはサイズが変化するマネキンで、ウエスト・ヒップなどの各部が、入力したデータに合わせて動くようになっています。

動画で見ると、細かいサイズの動きをしっかりできていることがわかるでしょう。

ZOZOマットなどの「疑似フィッティング」がECを中心に広まることで、実店舗でもユーザーが抵抗なくこうした技術を使いこなせるようになると推測できます。

参考アパレルECの新選択?一体で全サイズ対応、ロボット・マネキン「i.Dummy(アイ・ダミー)」| ECのミカタ

 

「実はWebの方が良かった」サービスがWebに定着する

これまでWebで展開されていなかったサービスで「実はWebの方が良かった」というものが、これから多く見つかるでしょう。そのようなサービスは、今後Webに定着していくと見られます。

kay meの事例

kay me出典:kay me

「挑戦する女性を応援する」をミッションとし、女子アナの間でも愛用者が多い国内ブランド・kay me(ケイミー)。同社はコロナによる自粛期間中に、オンラインサービスの拡充に力を入れました。

結果「担当チームの手が追いつかないほどオーダーが来ている」といいます。これだけを聞くと「店舗が閉まっているから、顧客が殺到したのだろう」と思うでしょう。

顧客は「忙しいから」Webを求めていた

kay me代表の毛見純子氏によれば、ユーザーの方々が同社のWebサービスを求めた理由は、店舗が閉まっていたからではなく「忙しいから」というものだったということです。

参考「店舗が閉まっているからオンラインで買う」ではなかった | 日経ARIA

同社が拡充したWebサービスは、下のようなものです。

①:オンラインカルテ診断Webで必要情報を入力してもらい、スタイリングの提案をする
②:バーチャル相談電話・ビデオ通話でスタイリングの相談に乗る
③:試着便無料で試着用の賞品を届けるもの

①と②は、自粛期間中に新たにスタートしたサービス。③は元々あったサービスを強化しています。

特に①と②は、通常時であれば、

  • 顧客は本当にそれで満足できるのか?
  • こちらも画面越しに、本当に良い提案ができるのか?

という疑問があったでしょう。しかし、kay meは女子アナも愛用するブランドであり、女子アナのファッションはまさに画面越しに観察されるものなのです。

もちろん、リアルでの印象も重要です。しかし、私たちは女子アナのファッションを見て、画面越しに良し悪しを判断できます。

つまり、コレクションレベルの斬新な服でなく、女子アナレベルの高級感の服であれば「画面越しでのアドバイスは十分に可能」なのです。

こういった「実はWebが適していたのに見過ごされていた」サービスが、今後一つまた一つと、Webに定着していくことでしょう。これを見極められるかも大きな焦点となるでしょう。

参考女子アナも愛用、アパレル冬の時代に"あの新興ブランド"が売れ続ける理由 | BUSINESS INSIDER JAPAN

 

導入しやすい業務は、高確率でテレワーク化が進む

アパレル業界で、もともと「テレワークを導入しやすい業務」は多々ありました。これらについては、高い確率でテレワーク化が進んでいくでしょう。具体的には下のような業務です。

  • PR施策の立案・検討
  • POP・チラシ・広告の作成
  • 新店舗展開・リニューアル検討
  • データ分析・情報共有

特に最後のデータ分析については、下の「データドリブン」の記事で詳しく解説しているので、こちらも参考にしていただけたらと思います。

 

まとめ:テレワークの導入は、まず事業自体のデジタル化から

テレワーク

自社の業務でテレワークの導入を進めるためには、まず「事業自体」をデジタル化する必要があります。

  • 在庫などのあらゆるデータを日頃からクラウドで管理する
  • それをどこでも共有できるようにする

こうした仕組み作りが、テレワーク導入の基礎の1つになります。そして、この仕組みを作るためにおすすめのサービスが、弊社の提供するアパレル特化型高機能クラウドシステム『アパレル管理自動くん』です。

アパレル管理自動くんは、同じくアパレル特化型のPOS『アパレル管理自動くんPOSレジ』と併用することで、さらに高いマネジメント効率を実現できます。

テレワークの導入の基礎になることはもちろん、そもそもの経営管理のシステムとして非常に役立つものです。まだ経営データやPOSのクラウド化を進めていない会社様・店舗様は、ぜひこの機会にアパレル管理自動くん・アパレル管理自動くんPOSレジの機能をご確認いただけたらと思います。

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