マーケティングにおける必須の考え方の1つとされる「5適」。5適について多くの人が知りたいのは、以下のような点でしょう。
この記事では、上記4つのポイントを中心に5適とは何かを解説していきます。5適だけでなく、マーチャンダイジング(商品制作)について知りたいという方にも、きっと役立てていただけるでしょう。
(マーチャンダイジングについては、下の記事で詳しくまとめています)
目次
5適とは?マーチャンダイジング(MD)の基本5要素
5適とは「適品・適時・適所・適価・適量」のことです。それぞれの意味を表でまとめると、下のようになります。
5適 | 意味 |
---|---|
敵品 | 最適な商品を、 |
適時 | 最適な時期に、 |
適所 | 最適な場所で、 |
適価 | 最適な価格で、 |
適量 | 最適な量で売る |
上記の5適は、マーチャンダイジング(商品政策)の基本です。そのため、マーチャンダイジングの5適(MDの5適)と呼ばれます。
また、5適は時に、サービス展開 / 提供戦略が効果的かどうかを図るフレームワークとしても利用されます。
英語版の5適
英語で5適は「five rights」といいます。各単語を一覧にすると下のとおりです。
5適 | 英語 | 日本語 |
---|---|---|
敵品 | Right Product | プロダクト |
適時 | Right Time | タイム |
適所 | Right Place | プレイス |
適価 | Right Price | プライス |
適量 | Right Quantity | クオンティティ(量) |
参考Five Rights to Merchandising | biz fluent
なお、5適に「適サービス」を加えて「MDの6適」とすることもあります。ただ、サービスを「商品=適品」と分類する場合は5適です。
5適の順番は?販売計画を立てる5つのステップ
5適をどのような順番で考えるべきかはケースバイケースです。特に多いパターンとしては、下記の順番で考えます。
5適 | この順番になる理由 |
---|---|
①適時 | 計画なので「いつ」が最初に来る |
②適所 | 販売は、必ずどこかの場所=販路で行う |
③適品 | 「いつ、どこで」が決まれば、売れる物も自ずと決まる |
④適価 | ここまでで値段も自動的に決まる(価格破壊を起こす場合は例外) |
⑤適量 | ここまでで、売り切れる適量も目安がつく |
「なぜこの順番なのか」を説明していきます。
適時
計画なので「いつ」が最初に来ます。
- 最速で、いつからできるのか
- 最遅で、いつまでにやらなければいけないのか
- そもそも、イベントなどで時期が最初から固定されているのか
上記のような要素を考慮して、最初に時期を決めます。
適所
販売は、必ずどこかの「場所」で行われる。たとえば下記のような場所です。
- 小売店
- ECサイト
- 露店
- 個人のネットワーク
「個人のネットワーク」が好例ですが、場所とは特定のスペースとは限らず、販路を指すこともあります。今では減っていますが、昔のマルチ商法は個人のネットワークを中心として、商品を売っていました。
適品
「いつ・どこで」売るかが決まれば、商品が自動的に決まります。「いつ」の典型例は夏物・冬物です。他にも、ギフトやイベントの時期であれば、それに合わせた商品が売れます。
「どこで」は、特に商品の高級度を左右します。ショッピングセンターで売るなら、廉価品になり、デパートで売るなら高級品になります。学生街で売るなら若者向けの商品、ビジネス街で売るならビジネスマン向けの商品、という具合です。
このように、適品は「適時・適所」が決まったら、自動的に決まるものです。
適価
「いつ、どこで、何を」売るかが決まれば、おおよその値段も自動的に決まります。「この場所で、この時期に、このクオリティなら、この値段だろう」という相場から価格を考えるのが、わかりやすい1つのやり方です。
原理は簡単ですが、この相場を出すにも、データの収集が必要となるケースがあります。上記の「場所・時期・クオリティ」が共通する事例を集める必要があるためです。
リサーチが不要なケース
お祭りの屋台などは、何十年にも渡る「事例」が積み重なっているため、リサーチをする必要はほぼありません。同じように「ごく当たり前の相場」がすでにできあがっているケースでは、リサーチは不要になります。
基本的に、上記のリサーチが不要になるほど旧態依然とした業界は、新規参入が難しいとされます。このような分野で「常識を覆す」には、マーケティングからアプローチするより、技術や製品といった「プロダクト」からアプローチするべきです。
(ただし、そのプロダクトも「今は見えていない5適」を実現する必要があります。ゴッホや石川啄木のような芸術家になるわけではないため、「いいもの」の定義は、あくまで5適から考えるべきです)
相場を無視するべき場面
一般的に適価とされる、相場を無視するべき場面もあります。いわゆる価格破壊です。適価には、下記の2種類があります。
周りに合わせる適価 | 前述の相場から考える |
周りに合わせない適価 | 「自社が利益を出せる価格」で考える |
周りに合わせない価格破壊は、一般的には「格安・激安」を実現しますが、真逆もあります。「驚くような高級品」が、逆に売れることもあるわけです。あるいは、売れなくとも話題を呼び「広告宣伝費」として回収できるケースもあります。
適量
「いつ、どこで、何を、いくらで」売るかが決まれば、量も自動的に決まります。特に「いくらで」は、大量の仕入れや生産によって価格が変わるため、量と密接に関わる部分です。
「いつ」は、ギフトやイベントの商品であれば、その時期で売りきらなければいけません。これも量と密接に関わります。
ただ「表面だけ変えて、来年のイベントに使える」という作り方をする場合など、融通を効かせる方法もあります。「今まで毎年廃棄せざるを得なかった」ものを廃棄せずに済んだら、革新的な技術となる可能性もあるでしょう。
「どこで」が適量と関わるのは、店舗や倉庫のスペースです。当然ながら、店舗や倉庫の限界を超える量は売れません。ハイスピードで回転させるにしても「いつまで」という期間が決まっているため「○○回転」という限界があります。特に、露天商や屋台などは、毎日の販売の適量が最初から決まっています。
アパレル業界におけるMDの5適とは?具体例のまとめ
アパレル業界では、MDの5適で以下のようなことを考えます。
5適 | 考える内容 |
---|---|
適時 | シーズンやイベント |
適所 | 販路選択、店舗選択、陳列位置など |
適品 | カテゴリ、ブランド、商品自体(色・サイズなど) |
適価 | 収益性、競合との比較など |
適量 | メーカーへの発注、倉庫や店舗間の在庫移動など |
それぞれ詳しく解説していきます。
参考詳細データから消費トレンドを読むアパレルのシステム | @IT
適時
アパレルの適時は、主にシーズン・イベントの2通りで考えます。
シーズン | 春・夏・秋・冬・梅雨 |
イベント | 成人式、卒業、入学、父の日、母の日など |
昨今は、気候変動の影響で「シーズン」の部分の予測を立てにくくなっています。夏日や冬日にあるのが早い、あるいは遅いということです。このような変動があるとき、
- 「消費者は、実際に気温が変わるまで買わない」と考えるか、
- 「気温に関係なく、月が変わった時点で買う」と考えるか
は企業や店舗によって分かれます。「気温が変わっても、売れるピークや売れ終わりは変わらない」という専門家の指摘もあります。
参考MD戦略の見直しは簡単ではない! | MSMD&Co.Ltd
適所
適所について考えるのは、以下のような内容です。
販路 | 店舗、インターネット、カタログなど |
店舗 | 自社内のどの店舗か、他社のどんな店舗か(デパートやショッピングセンターなど) |
陳列 | どのフロア、どの棚、どの位置など |
先ずは、販売を行うチャネルを考えるとよいでしょう。ECで出品するのか、路面店で販売するのかその2つによっても販売戦略はおおきく異なります。
最後の「陳列」の段階になると、マーチャンダイジングの中でもビジュアル・マーチャンダイジング(VMD)というジャンルになります。VMDについては、当サイトのマーチャンダイジングの記事こちらの段落で解説しています。
適品
適品では以下のようなことを考えます。
カテゴリ | レディース、メンズ、ヤング、シニア、スポーツ、作業着など |
ブランド | 有名ブランド、新興ブランド、自社ブランド(PB)など |
商品自体 | 素材、柄、色、サイズなど |
店舗を構えるときには、この部分を最初に考えることが多いでしょう。先に適価や適所から入り、上記を考えて開業することもあります(この値段やこの場所で売るから、こういうお店にするという考え方)。
順番はともあれ、開業では上記の「適品」の大枠を決めた時点で、店舗が誕生するといえます。一方、すでに店舗や企業があって、何らかの企画を行うときには「適時」が最初に来ます。
適価
適価では、以下のようなことを考えます。
- 粗利を十分に確保できるか
- 粗利は低くても、多売によって成功できるか
- 競合の売価と比較して適切か
上記は一例であり、最終的には顧客の立場に立って考えます。価格設定の成功事例は、アパレルでいうとディスカウント路線のしまむらや、高級路線の海外ブランドなどが、わかりやすい例です。
逆に「中途半端で大きな成功を収めにくい」あるいは「成功例があってもわかりにくい」のが中間の価格帯(中価格帯)です。中価格帯の販売や商品開発の事例については、下の記事で詳しく解説しています。
適量
適量では、以下のようなことを考え行動します。
- メーカーへの発注
- 倉庫からの在庫移動
- 店舗間の在庫移動
上記の作業は、一言でいうと「在庫管理」です。在庫管理を的確に行うために役立つ指標にSKU(ストック・キーピング・ユニット)があります。SKUについては下の記事で詳しく解説しています。
5適の成功事例3選(ZARA・ユニクロ・トヨタ)
マーチャンダイジングの5適を工夫して成功した事例では、下記の3例が有名です。
社名 | 事例概要 |
---|---|
ZARA | 企画デザインから店頭投入まで最速2~3週間 |
ユニクロ | SPA(製造小売)でコスト削減だけでなく5適を実現 |
トヨタ | ジャストインタイム制で「必要な時に、必要な物を供給」 |
以下、それぞれ詳しく紹介していきます。
ZARA:企画デザインから店頭投入まで最速2~3週間
出典:ZARA
世界有数のファッションブランドであるZARAは、特に「適時・適品・適量」を極めています。現場で店舗スタッフが売れ筋を把握し、その情報を元にデザイナーがすぐに新しい服を生み出すのです。
このデザインから店頭投入までのサイクルは、最短で2~3週間。たとえば7月1日の時点で「この夏の売れ筋」を現場で把握したら、それに合わせてデザインした新商品が、7月15日には店頭に並んでいるのです。
これは「適時」であることはもちろん「適品」でもあります。何が良い品かを「現場の顧客の反応」から導き出しているためです。
ZARAの製品は毎回少数しか作らないため、すぐに売り切れます。在庫を抱えないという点で、適量といえます。
「少量しか作らないなら、売り切れるのは当たり前なので、適量というほど考え抜いたわけではないのでは?」と思うかもしれません。しかし、ZARAでも大量の売れ残りが発生した事例が各国であるとされ、適量についてもある程度考えられているといえます。
「適価」については、ZARAは値決めで勝負しているわけではなく、「適所」についてはZARAの店舗で売るのが基本です。これらも全体の経営計画の中では考えられていますが、他社との決定的な違いではありません。決定的な違いは「適時・適品・適用」です。
ユニクロ:SPA(製造小売)でコスト削減だけでなく5適を実現
出典:ユニクロ
ユニクロの業態はSPA(製造小売業)です。従来別々だった製造業と小売業を合わせたもので「自ら作って自ら売る」という業態です。小さな飲食店は皆そのようにしていますが、同じことを大企業がやったことが特徴といえます。
ユニクロがSPAで達成したこととして、多くの人が連想するのは「コスト削減」です。しかし、ユニクロはSPAによって5適も実現しています。
これはZARAも同じですが「自ら作って自ら売る」ことで、
- 5適がわかりやすくなった
- わかった後、それを満たしやすくなった
のです。まず「満たしやすくなった」の方が、わかりやすいでしょう。自分で作っているので、消費者の動向に合わせた生産体制を整えやすいのです。ZARAほど早くなくても、たとえば今年は暖冬になるから、セーターの適量が少なめになるなどの予想ができ、生産体制も合わせやすくなります。
これを他社(工場)に発注していると、工場側の需要も考えなくてはなりません。そのため、シビアな適量での注文ができないのです。SPAだとそのような複雑な「事情」が減り、5適をシンプルに追求できます。
そして、5適を考えた結果がすぐに現場でわかるため、仮説検証のサイクルを回しやすいのです。これが「5適がわかりやすくなった」ということです。つまり、
- 自分で作るから「5適のテスト」をどんどんできる
- 結果、5適がよくわかる
- また次の(精度が高い)テストをできる
という好循環が生まれます。もちろん、SPAの体制を整えることは決して楽ではありません。業界によっては「そもそも不可能に近い」ということもあります。
たとえば、おもちゃメーカーでSPAを実践しているところはありません。タカラトミーやバンダイなど、すべて製造業に徹しています。アンテナショップを数店舗持っている程度です。
ユニクロやZARA以前には、アパレルでもSPAがありませんでした。そのため、おもちゃでもSPAができる可能性はあります。確かなことはSPAにすれば5適は実現しやすくなるが、SPAに乗り出すこと自体が難しいということです。
(ただし、冒頭にあげた個人の飲食店などは別です。こうした店舗でしっかりしたところが「意外に成功している」のは、5適を無意識に実践できているから、という可能性があります)
参考ユニクロとZARAに学ぶ「情報」を軸にしたビジネスモデル構築 | 宣伝会議
トヨタ:ジャストインタイム制で「必要な時に、必要な物を供給」
出典:トヨタ自動車75年史
5適を世界の中でも早い時期に徹底したのがトヨタです。「必要なものを、必要なときに、必要な数だけつくる」というジャストインタイム(JIT)を掲げ、無駄のない生産管理を実現しました。この考えはまさに「適品・適時・適量」です。
トヨタは製造業ですが「適所」はあります。「どこで売るか」ではなく「どこで作るか」を考えるわけです。
戦後のトヨタは、当時の常識を破る大規模な工場の建設を進めました(元町工場など)。大規模な工場をつくるには広い土地が必要です。広い土地は必然的に田舎になります。
このとき、トヨタは「うちの商品は自分で走るからいい」と、田舎であることを何ら問題視しなかったといいます(昔の車は今のようなキャリアカーがなかったため、自走で店舗に並べていました)。車がほとんどない時代「商品が自分で走る」ということは、画期的なことだったのです。
製造業に5適の発想がないと、ガラパゴス化する
日本の製造業が、ここ10年ほどで世界に後れをとってしまったのは周知のとおりです。その中で世界でのトップ争いを続けているのがトヨタです。
衰退してしまった製造業の各社とトヨタの違いは「5適」の視点があったかどうかといえます。特に日本の家電メーカーには「適所」の発想が欠けていました。
「売る場所=国内」という発想を抜け出せず、新興国も含めて全世界に売るサムスンやファーウェイなどに後れをとってしまったわけです。これは「廉価品を売らなかった」という点で「適価」の見誤りでもあり、日本人もそもそもガラケーの高機能を必要としていたか不明という点で「適品」の見誤りでもあります。
まとめ:5適を考えるには高機能なクラウドシステムが不可欠
5適はある意味「当たり前」のことです。「最適な時に、最適な物を…」という考えが大切なことは、誰もがわかっているでしょう。しかし「実際に行うのが難しい」というのが5適です。
5適を実現するには、緻密なデータ管理・データ分析が不可欠。その管理と分析は、高機能なクラウドシステムを導入することで、格段に実行しやすくなります。
高機能なクラウドの中でも、アパレル店舗の運営であれば「アパレル特化型」のシステムを使うことで、業務がよりスムーズになります。アパレル特化型の高機能クラウドシステムでは、当社が提供している『アパレル管理自動くん』が代表的なサービスの1つです。
同じくアパレルに特化したPOSである『アパレル管理自動くんPOSレジ』と合わせてお使いいただくことで、5適のデータをリアルタイムで収集・管理・分析できます。アパレル事業で5適を実現する上で、どちらのサービスもお客さまの事情に対して、大きなプラスとなれるでしょう。
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