マーケティングの現場でしばしば耳にするオピニオンリーダー。アパレル関係者の方は、下のような疑問を持たれていることもあるでしょう。
この記事では、上の3つの疑問に答えながら、以下の目次のようにオピニオンリーダーについて説明していきます。読んでいただくことで、アパレルのお仕事でオピニオンリーダーの存在をどう活かすかを、スッキリ理解していただけるでしょう。
目次
オピニオンリーダーとは?
まず、オピニオンリーダーの概要を表でまとめると、下のようになります。
意味 | 影響力がある人 |
日本語 | 世論形成者・世論先導者 |
アパレルでの意味 | カリスマデザイナー・ファッションリーダーなど |
類義語 | アーリーアダプター |
それぞれ詳しく説明していきます。
意味:影響力がある人
オピニオンリーダーは簡単にいうと「影響力がある人」です。辞書(ブリタニカ国際大百科事典)では、下のように定義されています。
ある集団のなかで,その人の意見が強い影響力をもっている指導者をいう。
オピニオン・リーダー | コトバンク
これを一言でいうと「影響力がある人」となります。専門用語はえてして、このように簡単なものです。たとえば「マーチャンダイジング」は、辞書でもマーケティング戦略の一言で表現されています。
日本語:世論形成者・世論先導者
オピニオンリーダーというカタカナ言葉を、あえて日本語にすると下の2つになります。
- 世論形成者
- 世論先導者
2つの意味はほぼ同じですが、あえてニュアンスの違いを書くと、下のようになります。
形成 | 大衆をうまく「まとめる」形で、静かにブームを作っていく |
先導 | カリスマ性のあるファッションリーダーなどを先頭に立て、短期間で世論を誘導する |
簡単にいうと「形成=長期」「先導=短期」と言ってもいいでしょう。
アパレルでの意味:カリスマデザイナー・ファッションリーダーなど
アパレル業界では、以下のような人がオピニオンリーダーと呼ばれます。
生産者側 | カリスマデザイナーなど |
消費者側 | ファッションリーダー・インフルエンサーなど |
その他では「カリスマ経営者」が、経営部分のオピニオンリーダーとされることもあります。たとえばユニクロの柳井会長が好例です。
(なお、消費者側のインフルエンサーについては、下の記事でも詳しく解説しています)
他の層との区別
ファッションの世界では、オピニオンリーダーと他の層は、下記のように区別されます。
サイバー | 完全に未来のファッションを考える人 |
イノベーター | 次世代のファッションを考える人 |
オピニオンリーダー | 最新のトレンドを発信する人 |
マス | トレンドに追随する人 |
ディスカウンター | トレンドに縁がない人(服なら何でもいい) |
どの層も「自分より1つ上の層」に影響されます。そのため、大衆(マス)に影響を与えるにはオピニオンリーダーに働きかけるのがベストなのです。
参考「服が売れない」のではなく「売れにくい」だけ | FASHIONSNAP.COM
アパレルでのオピニオンリーダー設定の成功事例3選
実際にアパレル業界で、オピニオンリーダーを設定して成功した事例には、どのようなものがあるのか―。主な事例として、下の3つがあげられます。
セシルマクビー | キャバレーで働く女性をオピニオンリーダーと設定 |
109系ブランド | egg系ギャル雑誌の読者モデル(90年代~2000年代) |
各ブランドがKOLのミニプログラムを活用 |
それぞれの事例を詳しく解説していきます。
セシルマクビー:キャバレーで働く女性をオピニオンリーダーに
セシルの愛称で知られるセシルマクビー。109系のリーディングブランドの一つであり、歌手の浜崎あゆみさんが好んで着用していたことでも知られています。
セシルマクビーは1957年に設立されましたが、初期の段階で「キャバレーで働く女性」をオピニオンリーダーと設定しました。これは、下の記述でわかります。
(前略)セシルマクビーはキャバレーで働く女性をオピニオンリーダーと設定し、キャバレーで女性が着たいと思う洋服を作るようマーケティングしたという。
上の記述は『ルイ・ヴィトンの法則:最強のブランド戦略』(長沢伸也/東洋経済新報社/2007年)のものです。下のGoogle Booksのページで、該当部分を参照できます。
ルイ・ヴィトンの法則: 最強のブランド戦略 | Google Books
キャバレー勤務の女性をオピニオンリーダーとした理由は「自分を一番格好よく見せる服装の研究に真剣」であるためです。現代でいえば、2000年代に『小悪魔ageha』が、キャバクラ嬢やホステスの女性をオピニオンリーダーにした事例と、共通しているといえます。
109ブランド:egg系ギャル雑誌の読者モデル(90年代~2000年代)
出典:egg公式サイト
セシルマクビーに続く他の109系ブランドも、オピニオンリーダーの設定で成功しました。1990年代から2000年代にかけて、有名人ではなく「一般人の読者モデルたち」を、リーダーに設定したのです。
具体的には『egg』『Popteen』などのギャル雑誌が、読者モデルを大々的に取り上げ、カリスマとして扱いました。その代表格である益若つばささんは「100億円の経済効果を生み出す」とまで評され、小森純さんもマルチタレントとして著名になっています。
参考経済効果は100億円!? 女子高生のカリスマ“ウメツバ”が登場!(チケットぴあ)
この設定が成功した理由の1つに「タイミング」があります。読モ文化は90年代に急成長し、2006年頃にピークを向かえました。具体的な数字が下の記述でわかります。
女子大生読者モデルがもっとも多かったのが2006年である。前出の4誌合計で6311人
(中略)
それから10数年以上経った今日、4誌合計で2017年は924人、2018年は414人まで減少したのである。
女子大生読者モデルは平成で終わる?ファッション誌で激減。もう憧れの存在ではない。(BUSINESS INSIDER)
上の太字部分を表にすると、下のとおりです。
2006年 | 6311人 |
2017年 | 924人 |
2018年 | 414人 |
わずか12年の間に、約15分の1まで激減したことがわかります。逆に、2006年頃の読モ文化が、いかに盛り上がっていたかもわかるでしょう。
この時期に「読モをオピニオンリーダーにする」という設定は、時代の潮流を見事に読んだものだったのです。
WeChat:各ブランドがKOLのミニプログラムを活用
WeChat(ウィーチャット)は、中国のSNSです。LINEとよく似たアプリですが、中国の人口が多いこともあり、ユーザー数はラインの約6倍となっています。
LINE | 約1.9億人 |
約11億3,300万人 |
参考2019年12月期第3四半期決算説明会 | LINE株式会社
参考Global social media ranking 2019 | Statistic
このWeChatですが「ミニプログラム」という機能があり、ここにオピニオンリーダーを活用しています。
ミニプログラムとは?
ミニプログラムは、WeChatの「アプリ内の小規模アプリ」です。たとえば「ユニクロのミニプログラム」を使うと、WeChatのアプリの中で、ユニクロのアプリをそのまま使えます。
- いちいちWeChatを閉じなくていい
- ユニクロのアプリを別途開かなくていい
ということです。「いや、アプリを閉じて別のを開くくらい、5秒で終わるじゃん」と思うかもしれません。しかし、その5秒でユーザーのわずかな消費熱が冷めてしまい「やっぱり、もう少し考えよう」となることはよくあります。
「少しでも買いたくなった瞬間に買ってもらう」ために、WeChatの中でそのまま買い物してもらえるミニプログラムは有効なのです。ユーザーにとっても、多数のアプリを使わずにすべてWeChatで完結させられるため、楽になります。
ミニプログラムを「オピニオンリーダー自身」が立ち上げている
WeChatでは、オピニオンリーダー自身がミニプログラムを立ち上げています。わかりやすくいうと「アフィリエイトサイト」のようなものです。
- オピニオンリーダーが、WeChatで売られている「いい商品」を探す
- それを自分のミニプログラムで紹介する
- ユーザーがそこから買えば、オピニオンリーダーに報酬が入る
という仕組みです。個人のアフィリエイターが「サイトではなくアプリで服を宣伝している」というと、イメージしやすいでしょう。
そして、そのアフィリエイターというのが、いわゆる「SEOに強い人」ではなく、ファッションリーダーということです。彼らはKOLと呼ばれています。Key Opinion Leader(キー・オピニオンリーダー)の略で「特に強いオピニオンリーダー」という意味です。
各SNSの特徴を把握し、マーケティングにつなげよう
LINEとWeChatの違いも含め、各SNSの特徴を把握しておくと、Webでのマーケティングがやりやすくなります。主要SNSの特徴については、下の記事をご参照いただけたらと思います。
参考DAU約2億人のWeChat、なぜファッション企業が次々と参入していくのか | ZOZO Fashion Tech News
SNSでのオピニオンリーダー・2種類の違いは?
SNS上でのオピニオンリーダーは、主に下の2種類に分かれます。
インフルエンサー | 人気がある・専門性は無関係 |
KOL(キーオピニオンリーダー) | 専門性がある |
ここでは、両者の違い・それぞれの特徴をまとめます(SNSの活用自体については、下の記事でも解説しています)。
インフルエンサー:人気がある・専門性は無関係
インフルエンサーは「影響力のある人」のことです。『デジタル大辞泉』でも下のように定義されています。
他に影響力のある人やもののこと。特に、インターネットの消費者発信型メディア(CGM)において他の消費者に大きな影響を与える人。
インフルエンサー | コトバンク
この定義を見てもわかるとおり「専門性」は条件ではありません。専門性があるインフルエンサーもいますが、ないインフルエンサーも多いものです。専門性がなくてもカリスマ性が高いため、集客では大きな力を発揮してくれます。
アパレルではインスタグラマーが特に有力
インフルエンサーにもYouTuberやインスタグラマーなど、様々なスタイルがあります。アパレルの場合、特にインスタグラマーの起用が目立ちます。
インスタグラマーを起用したアパレルブランディングについては、下の記事で詳しく解説しているので、興味がある方はぜひご参照ください。
KOL(キーオピニオンリーダー):専門性がある
キーオピニオンリーダーは「その分野の最先端で論調を牽引する人物」です。下のような職業の人々が、特に各分野のKOLと見なされます。
- 医師
- 研究者
- 評論家
- 各種専門家
ファッションのKOLは、評論家や専門家(デザイナーなど)となります。アパレル文化の研究者がKOLになることもあります。
参考キー・オピニオン・リーダー(KOL)| PR Table
オピニオンリーダーとアーリーアダプターの違い
オピニオンリーダーとアーリーアダプターは「同じ意味」です。違いは「どの理論で言葉が登場したか」だけです。
アーリーアダプターは「イノベーター理論」で登場しました。1962年に、スタンフォード大学の社会学者であるエベレット・M・ロジャースが提唱した理論です。
その理論の中で、消費者は下の5つのグループに分類されました。
イノベーター | 革新者 |
アーリーアダプター | 初期採用層 |
アーリーマジョリティ | 前期追随層 |
レイトマジョリティ | 後期追随層 |
ラガード | 遅滞層/伝統主義者 |
2つ目のアーリーアダプターが、オピニオンリーダーの意味です。これを見ると、オピニオンリーダーは革新者ではなく「2番手」であることが、実感できるでしょう。
(イノベーター理論については、下の記事でも解説しています)
イノベーター:冒険心に富み、新しいものを積極的に採用する層
イノベーターは日本語で革新者といいます。新しい技術を導入・開発する人々です。オピニオンリーダーやアーリーマジョリティとの違いは「自ら開発することも多い」という点です。
イノベーターの市場全体での割合は、およそ2.5%程度とされます。
参考【UNIQLOの事例に学ぶ】イノベーター理論から見る「トレンドの流れ」と「狙うべき客層」【後編】
アーリーアダプター:影響力があるオピニオンリーダー
アーリーアダプターは、新しい商品やサービスを早期に受け入れ、他の消費者に影響を与える人々です。日本語では下のようにも呼ばれます。
- 初期採用層
- 早期採用者
- 初期少数採用者
アーリーアダプターはオピニオンリーダーのことであり、ビジョナリー(先見の明がある人)とも呼ばれます。市場のおおよそ13.5%程度を占める層です。
アーリーマジョリティ:やや慎重だが流行に早く乗る層
マジョリティは「多数派=大衆」です。そして「アーリー=早い」の意味であるため「動きの早い大衆」ということです。
1つ上のアーリーアダプターと、1つ下のレイトマジョリティをつなげる役目を負うため「ブリッジピープル」とも呼ばれます。市場での割合は34%ほどの層です。
レイトマジョリティ:流行に遅れて乗る層(フォロワーズ)
「遅れる大衆」という言葉どおり、流行に遅れて乗る層です。流行に追随するため「フォロワーズ」と呼ばれることもあります。日本語では、「後期追随者・後期多数採用者」などと表現されます。
市場での割合は、アーリーマジョリティと同じ約34%程度です。
参考レイトマジョリティ | コトバンク
ラガード:もっとも保守的で流行に関心の薄い層
ラガードは英語で「laggard」と書き、「のろま・ぐずぐずする人」などの意味があります。
この言葉どおり、レイトマジョリティよりもさらに遅れて流行に追随します。
- 流行にまったく興味がない
- むしろ嫌いであり、逆らいたい
- しかし、追随せざるを得なくなって追随する
上のようなパターンが多く見られます。高齢者の方がパソコンやスマホに遅れて適応する例を考えると、わかりやすいでしょう。市場での割合は約16%です。
まとめ:オピニオンリーダー設定には正確なデータ分析が必要
オピニオンリーダーを設定するには「自社ブランドがどのような層に好まれているか」を、先に分析する必要があります。そのためには、正確なデータ収集と分析が欠かせません。
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